ワークショップ「実践的デジタルアーカイブの方法と標準化」報告


5月29日、東京・日本橋にて丸善海外提携ワークショップが「実践的デジタルアーカイブの方法と標準化」と題して米国 Indiana University 及び The Research Libraries Group Inc. から講師を招聘して開催されました。当日の講演内容についてご報告致します。

1. Indiana University (IU) Digital Library Program

最初に Indiana University の Director である Kristine Brancolini さんから Indiana University のデジタルアーカイブコレクション構築における目的や財政的な背景、学内資源の活用、技術的な課題、プロジェクトの選択基準、RLG Cultural Materials Initiative との協調などについて実践的な説明が行われました。

Kristine さんは Indiana University のメディア及びフィルム研究のライブラリアンとして17年間のキャリアをお持ちで、最近では Indiana University の数々のデジタルアーカイブコレクションプロジェクトに参加されています。また米国 National Science Foundation の 4-Year Digital Music Libraty プロジェクトの調査官として活躍されております。

以下は Kristineさんの講演の要旨です。


Indiana University の Digital Library Program は1997年から学内の協同組織として編成され、図書館、大学の情報技術サービス部門、図書館情報科学スクール、情報学スクールのメンバーによって構成されています。そのミッションは Indiana Univarsity 及びその他の研究者や学生に対する、コレクションの選択及び製作、高品質なネットワーク資源の高範囲なメンテナンスを提供することにあります。また教育や学習、コレクションやサービスの提供による研究、知的な発見をリードする環境の支援やその増強は Indiana University Libraries のミッションです。

Indiana University の Digital Library Program には11.5人のフルタイムで働くスタッフが関わっています。2名はライブラリアンで9名は情報技術の専門家です。また1名のサポートスタッフが兼任で関わっておりますが、このサポートスタッフはデジタルイメージ処理の専門家です。そのほか5名のプログラマと1名の電子テキストの専門家及びプロジェクトマネージャが働いています。図書館情報科学スクールの学生もスタッフとして協力しております。

Digital Library Program の大学内部からの支援としては図書館や情報技術サービス部門からハードウェアやソフトウェアなどの基盤の提供で、コンテンツ制作、専門的な指導やコンサルテーション分野においては個別の学部や学内組織の支援を受けております。

そのほか Digital Library の開発に関する学外連携組織として TEI Consortium や RLG Cultural Materials Alliance などから支援を受けています。既存の短期間のプロジェクトやパイロットプロジェクト、プロトタイプ製作などによるノウハウも活用されています。

財政面では1998年から大規模研究プロジェクトの支援として National Science Foundation や U.S. Department of Education などから400万ドル以上の承認を得ています。

Indiana University がこのような Digital Library Program に投資するのは幾つかの理由があります。それは Indiana University が Internet2 のハブを構成するほどの強力な技術的基盤を有していること、1997年に Digital Library の開発を大学の情報技術戦略として計画したこと、図書館やアーカイブが Web 上のデジタルコンテンツとして提供されるべき豊富な資料を所蔵していたことなどがあげられます。また図書館が資料を活用するユーザ及びそのニーズとともに長期にわたる関係を維持していることも理由の一つです。大学自身も高価なデジタル基盤に関して投資を続けてきています。Indiana University が困難な Digital Library の問題を解決する学際的チームを作りあげることが可能なこともその理由の一つといえます。

Digital Library Program では大学とともにデジタイズ作業を含む全ての Digital Library Service を提供しますが、大規模なプロジェクトにおいては一次資料のデジタイズにおいてアウトソーシングを利用します。また図書館とともに MARC 、EAD 、Dubline Core を使用して全てのメタデータを作成します。

コレクションの選定にあたってはコレクションまたは情報資源としての重要性が最も重要な基準となります。またプロジェクトを成功させるために専門家の意見も必要とします。その他の要素としては Indiana に関すること、大学の得意な分野、技術的に新しい挑戦などが挙げられます。

Digital Library の開発における共同作業はスキルや知識の共有、出来上がった結果の共有や相互運用、それから高価なコストの面において必要な要素です。コンテンツ作成では8大学による共同プロジェクトがありました。メタデータやコンテンツの配信では、Open Archives Initiative や UCLA 、Johns Hopkins University と共同で取り組んでいますし、RLG の Clutural Materials Alliance のメンバーとしても参画しております。

RLG の Clutural Materials は幾つかの課題に関してソリューションを提供することができました。一つ目の課題は世界中のデジタルシステムに格納されたデジタル資料へのアクセスとその横断的な検索機能を提供することでした。RLG の Clutural Materials はメタデータとデジタルコンテンツを論理的に統合し、それらの情報を集中的にストアすることによってこの課題を解決しました。二つ目はユーザはコレクションやそれを保有する機関ごとの異なったインターフェースを望まないことでした。RLG の Clutural Materials は単一のインターフェースを提供するとともに、多くの機関の資源を横断的に提供することを可能としました。

Indiana University の Digital Library Program は RLG とのアライアンスを選択しました。それはコレクションの横断検索に大変興味を持っていまし、RLG が標準的なシステムを構築するとともにベストプラクティスを推奨してくれたからです。


2. RLG Cultural Materials

続いて RLG の Clutural Materials の Product Manager である Ricky Erway さんから RLG Cultural Materials の紹介と東アジアコレクションの選択及び East Asian Digital Project の提案について説明がありました。

Ricky さんは米国議会図書館に9年間勤務され、特に最後の5年間は American Memory プログラムの準調整員として活躍されております。その後 RLG に移られて RLG の General Member 間の Program 担当者として7年間の経歴をお持ちです。

以下は Ricky さんの講演要旨です。


RLG は 1974年に設立された非営利のメンバーシップから構成される団体です。現在では15カ国160以上の機関がメンバーとして参加しております。本部は米国カリフォルニア州マウンテンビューにありロンドンとニューヨークにオフィスを設置しております。RLG のミッションは「協同活動を通じて、研究・学習を支援する情報へのアクセスを改善する」ことにあります。

RLG の課題には次のようなものがあります。一つはメンバーシップのために、そしてメンバーシップとともに作業すること。メンバーには大学や州立又は国立のアーカイブ、美術館などがあります。もう一つは協同活動によるイニシアティブを運営することで、増加するオンラインアクセスやデジタルによる保存、エンドユーザのための資源の共有などについて先々の見通しをもたらします。さらに情報サービスの提供も RLG の検討事項です。ユニークな情報資源、MARCレコードの供給、ILLやドキュメントデリバリシステムのためのツールの提供などを手がけています。

RLG の提供するオンライン情報資源としては次のようなものがあります。図書館資源としては RLG Union Catalog と Z39.50 Gateway、English Short Title Collection や Hand Press Books のカタログデータベース、SCIPIO と呼ばれる美術書や貴重書のセールスカタログなどがあります。また Citation Resources、Archival Resources などの特殊な資源や AMICO Library といった美術館向けの資源があります。RLG Cultural Materials もそれらの中の一つです。

RLG の戦略的なプログラムの領域としては次の3点があげられます。一つは「資源の共有」で図書館資料のデリバリや共有のためにプロトコルや処理プロセス、ツールとなるシステムや将来のニーズのための支援活動などです。次に「デジタルアーカイビング」です。知識ベースの保存拡大、その容量の計画や標準の策定、プロセスの検討やサポート活動が対象となります。さらに「一次資源」としての役割もあります。ユニークな資料の発見やデリバリです。そのための標準、コンテンツ、経済的なモデル、ツールなどが検討課題となります。

RLG Cultural Materials について、その特徴をご紹介します。RLG Cultural Materials は文明を文書化された Digital Object として提供します。また全ての形式に対応した資料のデジタル代替物を提供します。世界中に散在したコレクションに対して横断的な検索機能を提供し、貴重で壊れやすく又隠された貴重物に対するアクセスも実現します。これらは再生され全く新しい「仮想的なコレクション」として組織化されます。そしてこれらに対する権利処理の仕組みも提供されます。

現在において Clutural Materials の対象資料は増加し続けております。対象となるコンテンツの考え方は、科学や技術の歴史、発見や探検の旅行記、グローバルな移住に関するもの、世界的な定期市場、労働に関する歴史、そして東アジアに関する資料などとなります。

東アジアのコレクションに関しては East Asian Digital Content Advisory Group を中心に検討され、東アジアを研究する研究者にとってもっとも効果のある RLG メンバーのコレクションを提案し、選択のための標準を決定しております。

東アジアのコレクションの選択に関する標準的な考え方は次の通りです。まず学術的な価値です。特にデジタル化されることによって利用が拡大するものです。次にユニークであり、大変貴重で壊れやすいものが選択されます。分散したコレクションを統合することにより意味のある又は話題を提供しうることに関して一貫した基準にもとづく選択を行います。

RLG の East Asian Digital Project は、帝国主義後期から近代前期(17世紀から20世紀初頭にかけて)の過渡期における東アジア資料の収集を計画しています。デジタル代替物としては地図、絵画、写真、手稿書、日記そして貴重な初期の出版による作品です。現在3大陸の5機関の RLG メンバーから11のコレクションを収集し、35,000のイメージを Clutural Materials に搭載しています。

RLG では資料を発見する方法の最適化を順次行っております。使用パターンの分析やより強力な検索手法、複雑な関係性をもった資料群の操作やブックマークの機能などについて機能拡大の検討がなされています。

デジタル代替物に関するガイドラインは以下のURLに詳細があります。 http://www.rlg.oeg/culturalres/surrogateguide.html このページにはデジタイジングに関する推奨仕様や既に作成済みのコンテンツの変換に関するアドバイスなどが掲載されています。また Cultural Materials で扱うデジタルコンテンツの品質レベルや形式、圧縮仕様については画像や音声といった媒体ごとに推奨する仕様が公開されています。

コレクションの説明に関するガイドラインはhttp://www.rlg.org/culturalres/descguige.html にあります。このガイドラインでは一般的なガイド情報に加えてデータエレメントに関する仕様、データ形式に関する仕様などが公開されています。データ形式に関する仕様では、XML、CSV、MARC/UNIMARC、SGML が推奨されます。データの項目に関する仕様では、日付、言語、件名、著作関係者の名前、デジタル化の形式、権利情報、所有者などが定義されています。データ形式の標準仕様としては、CDWA、CIDOC、Dubin Core、EAD、ISAD、VRA Core が推奨されています。統制語の仕様としては、AAT、TGN、ULAN、ICONCLASS、LCNAF、LCSH、TGM、UNESCO Thesaurus が使用されます。目録の記述規則としては、AACR2、APPM が用いられます。

その他詳細な情報は RLG のウェブサイト http://www.rlg.org から入手可能です。

講演の後、会場から Clutural Materials で採用された画像イメージの仕様やメタデータの仕様について幾つかの質問がありました。また Kristine さんには Indiana University でのデジタルコレクションの選択基準について、より詳細な説明を求める質問もあり、Kristine さんから回答がありました。

今回の講演会ではデジタルアーカイブコレクションを構築するための具体的な手法などについて、図書館関係者からの具体的な内容が語られました。一方で EAD などのコレクションディスクリプションなどの国内ではなじみの無い考え方も紹介され、さらに詳細な理解が必要とされる面もあったと思われます。

文責:丸善株式会社情報システム統括室 佐藤