早大WINEレコードのOCLCへの提供について

早稲田大学図書館学術情報課・金子昌嗣

 早稲田大学図書館は、1995年12月、ついで2001年7月の2度にわたって米国の大規模書誌ユーティリティであるOCLCに日本語図書の目録レコードを提供した(合計約56万件)。本学が構築しているWINEシステムで作成されたデータをフォーマット変換してOCLCのWorldCatにバッチロードするこのプロジェクトは、OCLCはもとより、海外の図書館界からおおいに歓迎されることとなった。今後さらに、月1回くらいの頻度で定期的なデータ提供を行う予定である。本稿では、早大のこのプロジェクトについて報告する。

(1)WINEと「和書データベース化事業」
早稲田大学図書館は、1987年より「旧WINE」システムを稼動させた。これはIBMが提供した図書館パッケージDOBIS/LIBISを基にして日本語処理機能を加えたものであったが、これにより学内オンライン総合目録の基礎が整い、学内の各図書館においてデータ入力が順次行われるようになった。
1988年12月には、紀伊国屋書店との共同事業として「和書データベース化事業」が開始された。これまで図書館が蓄積してきた資料についてのデータを遡及入力して、WINEで統合的に検索できる環境を実現するのが目的であった。この事業の特徴として、入力作業をすべて現物そのものに基づいて行ったことがあげられる。既存のカードや冊子体目録からMARCを作成するという方式に比べて、精度の高いデータ入力が可能であったといえる。明治・大正期を含めて事業は完了し、日本語図書の目録は古書資料等を除いて基本的にすべてWINEで検索できるようになった。

  (2)OCLCにおける需要とデータ評価
 データベース化事業のパートナーであった紀伊國屋書店は、OCLCの日本における代理契約会社でもある。同社を通じて、OCLCとの接触は早くから行われていた。OCLCは世界最大規模の書誌ユーティリティではあるが、日本語資料についてはデータの蓄積が不十分であったため、その拡充が課題とされていた。早大WINEのデータも候補となる一方、JapanMARCをもうひとつの選択肢として、OCLCでは評価作業を行った。具体的には、CJK言語を扱う米国の図書館員にWINEとJapanMARCのデータを比較検討するアンケート調査を実施した。その結果、いずれのデータについても、回答者の多くがOCLCへの搭載に賛意を示したが、両者の比較ではWINEの方がやや高い評価を得た。このような調査と内部での検討にもとづき、OCLCはWINEデータの利用を希望するに至ったようである。ちなみに、上述調査で評価に差が出た項目としては、サブタイトルおよび出版事項におけるローマ字読みの有無が大きいほか、注記、出版事項、件名標目(LCSHとは異なるが)などがあげられている(*)。修正の必要性の少ないデータ、参考となる情報が多く含まれているデータが好まれたと推測できる(ただし、サンプル数はそれぞれ30件ずつという少数である)。

(*) OCLC Asia Pacific Services. CJK service Section. "Report on the Japan and WINE MARC survey", May 17, 1995.

(3)第1次および第2次のデータ提供
OCLCの希望に基づき協議を進めた結果、1993年12月に早大、OCLC、紀伊國屋書店の3者間での協定が結ばれた。早大が日本語図書のWINEレコードを提供し、その件数を限度として、OCLCは早大に書誌レコードを提供するというデータ交換についての合意がなされたのである。
1995年12月に、第一次のWINEレコードロードが行われた。早大は前述の和書DB化事業の成果物である遡及データ(1948年〜1985年受入図書分)282,980件を提供し、交換でOCLCから中国語図書の書誌レコードの提供を受けた(件数は出した分のそれを下回った)。OCLCへのこのデータ提供は非常に歓迎され、その効果は、海外からのILL依頼件数増加などにも現われた。
このデータ提供がOCLCによって高く評価されたことから、引き続き1999年に第二次の提供を行うべく準備したが、1998年には新WINEシステムの導入が行われるなどの動きがあり、予定より遅れて2001年7月に実現した。前回の続きとして、1984年以前および1986年以降受入図書のレコード277,481件を提供した(交換で早大が入手するデータについては現在協議中である)。

(4)WINE書誌データの変換作業
OCLCにレコードを提供するためには、WINEで蓄積しているデータを抽出した上で変換処理を施し、OCLCのフォーマットに合わせてから搭載する必要がある。2度のデータ提供の間に、早大ではシステムを変更したので、元となるWINEレコードのフォーマットはまったく異なるものとなった。早大では紀伊國屋書店と協力して、フォーマット変換を行った。1998年に新たにINNOPAC(米国Innovative Interfaces Inc.提供)を新WINEシステムとして導入したさい、日本語書誌レコードについても、欧文書誌レコードと同様にUSMARCフォーマットに準じた方式を採用することにした。その意味では、OCLCとの親和性がより高まったということができる。ただし実際には、細部のデータ項目についての検証の上に変換を施す必要があった。こうしたフォーマット変換作業の経験は、今後の定期的なデータ提供の基礎となるであろう。
なおWINEでは、USMARC準拠といっても日本語の扱いでは米国とは異なる方式を採用して、日本語の表示形についてはUSMARCで採用されている880 フィールドではなくそれぞれの本来のフィールドにデータを持ち、カナ読み、ローマ字形についてもそれと並列して(サブフィールドで分けて)保持している。これに変換を施して、日本語データを880に移し変えた形のレコードをOCLCに提供している。

(5)おわりに
OCLCに提供されたWINEレコードは、海外で日本語資料を扱う図書館を中心としてよく利用されている。880フィールドに格納して提供される日本語データは入力の手間を大幅に軽減し、また、WINEで日本人著者(LCの典拠ファイルに存在しないものが大量にある)についての典拠管理(同定作業)がなされていることも、業務の助けになっているとのことである。またWorldCatの検索結果から早大へのILL申し込みに至るということもしばしばある。 もとよりこれはOCLCが当初から期待したことであり、日本語資料についての公開性が飛躍的に向上したことが高く評価されている。日本からの情報発信のあり方が国レベルの課題となっている中で、早大のOCLCとの協力はそのひとつの試みといえる。今後、国内外でのさまざまな協力関係によって学術情報がさらに円滑に流通することを期待したい。

[関連資料]

(1) "Japanese records from Waseda University added to OLUC", OCLC Newsletter, January/February 1996.
http://www.oclc.org/oclc/new/219new/internat.htm#1

(2) "Waseda University adds 277,481 records to WorldCat", OCLC Newsletter, September/October 2001.
*"News release"として下記URLに掲載
http://www.oclc.org/oclc/press/20010814.shtm