はじめに 日本語書誌データのグローバル流通につき私案を述べる。この提案は、第4回ライブラリシステム研究会(同志社大学2002年9月20日) において発表した「日本における書誌データの問題点」で最後にふれた、「重複した努力を省いて質の高い書誌をグローバルに流通さ せよう」という呼びかけを具体化したものである。 提案の基本姿勢として、森本氏の発表された「北米のカタロガーから見たRLIN搭載のTRCデータに関する問題点」の指摘を受け、1)日本 でも必要な改善点、合わせられる相違点は、北米のプラクティスに合わせて書誌情報を国外にも流通させる、2)既存のルートに限定せ ずに、柔軟な書誌情報の作成、流通プロセスによってそれを実現する、という2点をおさえておきたい。なお、本提案は発表者が所属す る慶應義塾大学における書誌作成、流通の環境を基本とした私案である。 作成・流通プロセスの提案 まず、問題点の解決とともにグローバルに書誌を流通させるために考えた新しい書誌作成・流通のプロセスを紹介したい。 書誌作成は、分業による付加価値の高い書誌の作成を目指したい。「記述」はTRCがグローバル仕様を採用して作成し、大学・医学図書 館が「主題情報」を付与する、「典拠」については国立国会図書館、TRC、大学・医学図書館が協同事業として取り組むという役割分担 である。主題情報を付加した書誌情報はさらに大学/医学図書館から再配布をしても良い。 書誌は、グローバルに所蔵情報とともに提供することを目指し、以下の3つの流通ルートを想定している。1)NACSIS-CATへの参照 MARCとしての搭載,2)Z39.50による公開、3)RLINへの登録である。慶應義塾大学では、NACSIS-CATへのカレントな登録を、整理業務の 迅速化のために集中処理を採用した時点で中止している。自動登録による一括登録は何度か実施したが、トラブルが多くこれも継続し ていない。発表者が以前に医学メディアセンターに所属していたときは、日本語資料にもMeSHを付与し、全蔵書を1件ずつNACSIS-CATに 登録するという手間のかかる作業を長年行ってきたが、この手順に戻ることはできない。また、個人的には、NACSIS-CATへ登録をして いれば、いつか書誌もグローバルに利用されると信じていたが、残念ながらこれは実現していない。よって、NACSIS-CATへはCAT接続館 による書誌の流用、ILLのツールとしての参照という貢献をするために、慶應義塾大学のデータを参照MARCとして搭載を許可していただ きたいと希望している。書誌所蔵情報を参照するだけであれば、Z39.50による公開によってCATへの参加に関わらず可能となる。グロー バルなレベルで書誌情報をそのまま流用するためには、慶應義塾大学はRLG(Research Library Group)のメンバーともなったので、RLIN への登録を実施したい。これによって書誌データがようやく北米のカタロガーにもReady Availableな形で提供できる。 問題点への対応 記述に関する問題点に関しては、表1で原因を整理し、対応案を提示している。全体をみると、記述レコード作成者、つまり本提案に おいてはTRCの対応によって解決される問題が多いことがわかる。たとえば、「基礎書誌単位の相違」や「主記入の相違」は、長期的に は目録規則がAACR2にしろ、NCRにしろ改訂されなければ、本来必要な「著作レベルのコントロール」はできない。しかしながら、短期 的には物理単位の書誌にクラスター番号のようなコントロール番号を付与する、AACR2の基本記入のコンセプトを採用することで北米の プラクティスに合致した書誌を作成することができる。また、分かちやローマ字は日本にも唯一の標準がないのであれば、ALA-LCを採 用する可能性も考えられるのではないだろうか。もちろん、日本語および情報検索の専門家による精査が必要ではあろうが、分かちに 関しては、単語単位の検索を基本とした北米の図書館システムのためより細かい分ち書きを採用しているALA-LC基準は、フレーズを基 本とした日本の図書館システムでも問題がないように思える。注記(500)や物理的詳細記述(300)でローマ字データが欠如している点 は、残念ながら日本における書誌流通を考えると、「英語の記述」を導入するのは難しいであろう。文字コードの問題はユニコードに 集約するということでこの場はとどめておきたい。また、固定長コードは一部データをTRCでも持っているようなので、マッピングの改 訂によって実現できそうである。以上のように、TRCに、書誌情報も主力商品のひとつとして認めていただき、可能な対応をグローバル 仕様として採択していただくことを強く期待するものである。 主題については表2にまとめている。鹿島氏の説明でLCSHの必要性については理解いただけたと思うので、ここではMeSHについて補足す る。医学図書館界では日本においてもMeSHが情報検索のシソーラスとして浸透しており、日本語資料の主題アクセスポイントとしても 1992年のJMLA(日本医学図書館)加盟館への調査で、NLMC(米国国立医学図書館分類)51%、NDC50%についで18%の図書館が採用してい た。医学図書館によるMeSH付与は十分可能であると考える。また、MeSH日本語版も継続して出版されている。医学中央雑誌のシソーラ スである「医学用語シソーラス」もマッピングを終え、99%以上の割合で対応した用語が存在しているので、日本語利用のツール開発 も容易であると想像される。 著者名典拠コントロールが最も困難な課題であるが、まず日本国内での重複した努力を解消することで実現に近づけたい。具体的に は、まず国立国会図書館およびNACSIS-CATの典拠レコードを公開して共通利用をするところから共同事業として始めなければならな い。また、AACR2形を参照形として必須入力とし、LCのAuthority、すなわちNACO(Name Authority Cooperative) で作成されているレ コードとの互換性を保持すべきである。 以上、私案を示してきたが、本提案が新たな質の高い書誌情報のグローバルな流通の実現に役立つことを強く希望する。Global Village(地球村)の皆さんに感謝をこめて発表を終わりとしたい。 感想 森本さんには個人的に7年ほど前に知り合い、今回発表していただいたような北米での日本語資料の書誌の状況を教えていただいてき た。今日は多くの方々にも同じ情報をシェアしていただき、感謝している。 今日のセミナーは、私がおそらく10年以上前にNACSIS-CATへの登録を始めたときから希望してきた「日本語資料の書誌情報のグローバ ル流通」を実現するための具体的な課題の提示と、その対応策を考える貴重な機会であった。慶應義塾大学の図書館システム移行の担 当をしたときに、少しでもグローバル流通が容易になるようにとこだわってきたUSMARCフォーマットやAACR2の採用もグローバル流通の ための一策であったが、それはほんの一歩に過ぎない。今回はライブラリシステム研究会の介在によって、より広い範囲の同志(大学 図書館員、システムエンジニア、レコード作成の企業などなど)が一同に会して知恵を出し合い、解決策がより具体化したという感が ある。何より、意を同じくしている同志が確実により多くいるということを実感したことが収穫であった。発表の最終スライドのとお り、Global Village(地球村)の皆さんに感謝を申し上げたい。