近年多くの機関でデジタル資料が作成されるようになってきた。大学図書館を例にとっても,国立大学図書館を中心に,種々のデジタル化プロジェクトが遂行されている。平成7年度以降電子図書館システムの開発・運用を行うための経費が国立大学図書館に措置されるようになったことが,その増大理由の一つといえよう。
メディアセンターでも慶應義塾写真データベースなどを対象としたデジタル化が行われている。また, その例は大学内の他の部署においてもみられる。身近なところでは,HUMIプロジェクトのもとになされた,グーテンベルグ42行聖書や奈良絵本のデジタル化があげられる。
こうした例は,デジタル資料あるいはデジタルコレクションが図書館資料として不可欠になりつつあることを示している。図書館における業務やサービスのあり方に,大きな転機が訪れていることは確かであろう。メディアセンターにおいても例外ではない。
慶應義塾でデジタル化に関わる組織は,メディアセンターの他にもある。デジタル・コンテンツ研究運用機構(DRM)もその一つである。DRMの事業として,「各種資源の整理・統合・デザインに関わる基本構想の検討と実践」,「各種資源のデジタル化・ネットワーク化に関わる全塾的連携の検討と実践」があげられており,その構想には,「外部からのいかなる問いや要請や検索にも応えうるアーカイヴを構築すべきである」ことが謳われている。これは種々の形態をとるデジタル資料の作成,蓄積・組織化,提供・発信が,DRM構想においてきわめて重要であることを示している。
今後全塾規模での統合化されたデジタル化活動の展開を考えた場合,そのための組織・体制の確立と,そこでのメディアセンターの役割・位置づけを明確にしていく必要がある。
メディアセンターが主として関わるのは,情報の収集,管理,提供の側面であろう。たとえば,すべてのキャンパスを対象にして,そこに蓄積されている各種のデジタル資料の所在・状況を同定・把握し,それを効果的・効率的に管理するためのメタデータの洗い出しとメタデータデータベースの構築・維持に携わることである。デジタル資料の利用・公開を促進しデジタル化の効果を高めるためには,デジタルコレクションおよびそれを構成する個々のデジタル資料を対象とした目録の作成・整備,概要説明などの検索補助資料の作成・維持が不可欠だからである。メタデータの整備は,そのための必要要件である。現在国立情報学研究所は,大学情報メタデータ・ポータル“JuNii”の名称のもとに,Webサイト資源(Webページ)に関するメタデータを収集し試験提供するサービスを行っている。このサービスを利用すれば,デジタル資料の標題,作者名・公開機関,主題情報(キーワード),概要説明が検索できる。こうした試みと塾内でのメタデータデータベースの整備を,どのように関連させていくかを考えることも必要である。
メタデータに関する取り組みだけでなく,デジタル資料そのものの管理と統一的な情報発信体制の確立にも貢献すべきであろう。近年わが国でもinstitutional depositoryなる概念が脚光を浴びており,その確立が急がれている。こうしたdepositoryが的確に機能するためには,デジタル資料やそのメタデータの作成・組織・管理を行う体制の整備が不可欠である。この面でもメディアセンターは,大きな役割を担うことが求められよう。また,大学間で事前に情報を交換し,デジタル化の重複を避けるようにするための調整業務にも,携わることが望ましい。
こうした活動・業務に必要な人材の養成・確保,組織の変更,予算措置などを考えると,そのための道は必ずしも平坦とはいえない。しかし,今後のメディアセンターの進むべき方向を考えると,既述した活動・業務に深く関与することは,不可避なのである。 |