1. はじめに
三田キャンパスには,文・経・法・商学部の専門課程と研究科,および社会学研究科課程があり,三田メディアセンター(以下,三田MC)は人文・社会科学系の研究図書館としての役割が大きい。
人文科学系の研究は,『書斎の学問』というイメージがあり,そのためか紙というメディアへの依存(愛着)も強く,デジタルへの移行は遅れていると考えられがちである。しかし実際には慶應のHUMIプロジェクトに代表されるように原典研究にデジタル環境を大いに活用している研究者もいる。心理学分野は医学分野と関連するため,最新情報の入手が必須である。研究者からは電子ジャーナルの導入希望が多く寄せられている。
社会科学系では,統計手法を利用した解析,予測が研究だけではなく,教育分野でも広く取り入れられているため,統計数値データ,社会調査データなどは大型計算機が活躍した時代から広く利用されてきている。また社会現象を研究対象とするため,迅速な時事情報,学際的な情報収集も必要である。
さらに両分野とも先行論文の研究は大変盛んで,その点国内外の図書館の蔵書目録や総合目録がデジタル化された恩恵は大きい。三田では学外への紹介状の発行やILLの件数が多いが,以前に比べて所蔵調査,典拠確認が容易になり,入手にかかる時間がかなり短縮されている。
2. データベース・電子ジャーナルの提供状況
このような研究・教育環境に応えるため,三田MCでは積極的にデータベース(以下,DB),電子ジャーナル(以下,EJ)を導入してきた。2003年8月現在三田では185タイトルのDBと約6,000誌のEJが利用可能である。
所蔵DBを三田MCのホームページで採用している分類毎にカウントすると図1,表1のようになる。
DBの利用方法は(1)出納式で図書館内備え付けのパソコンで利用するもの(72タイトル),(2)館内CD-ROMネットワーク端末から利用するもの(19タイトル),(3)Webで利用するもの(84タイトル)に大別される。Webで利用するものには,さらにIPアドレス認証でキャンパスLANに接続したPCから利用できるもの(77タイトル),館内の端末から係員が認証を行ってから利用者が検索するもの(5タイトル),および代行検索(2タイトル)とがある。
EJはプリント版を購読すると無料で利用可能なもの(Emerald, Springer),出版社から別契約で購読するもの(ACS, Elsevier, Blackwell, Wiley,日経BP),アグリゲータから提供されるもの(ProQuest, Lexis.Nexis),バックナンバーのみ提供するサービス(JSTOR, HeinOnline)等がある。
EJの利用はWebが基本で,館外からのアクセスが可能なものが多い。ただし日本の雑誌についてはDVDでバックナンバーを販売する例が多く,それらは館内のみ利用可能となっている。(ジュリスト等)
3. 利用状況
DB・EJの利用統計はアクセス数,サーチ数,セッション数等,システムによって取れる数値が違うため,横並びに比較することは難しい。全塾で導入しているものについては,地区毎の統計が取れないものもあり,三田での利用実態を全て把握することは困難である。
本稿ではWebで利用可能な統計データの取れるDB・EJを使って三田MCでの利用実態について報告したい。
(1)DBの利用件数・利用時期・利用時間
表2は三田キャンパスからWebでアクセス可能な主に雑誌記事索引系のDBの利用件数統計である。セッションはWebサーバに対して行った一連のHTTP要求で,DBへのログイン,検索,ページ閲覧等をおこなった回数と考えられる。ログイン数はそのDBのトップページにアクセスした回数である。そのためログイン数が多いからといって実際に多数の利用者が利用したかどうかはわからないので注意してほしい。
三田ではMAGAZINE PLUSが非常によく使われている。日経テレコン21,LEX/DB(判例),PsycINFO(心理学)の利用も多いことがわかる。利用件数を平均して月毎の利用の推移をしめしたのが図2である。1年の中では6月〜7月と10月に利用が多く,長期休業期間中の利用が少ない。
図3は三田MCのホームページのうちDB・EJの検索・接続ページへのアクセス件数を時間毎に集計したものである。このページからDBやEJにアクセスするよう指導しているので,このページへのアクセスがDBを利用する時間帯を反映していると考えられる。ページへのアクセスは図書館開館時間中に多く,とりわけ午後1時から5時の間の利用が多い。深夜の利用も多少あり,早朝の利用が一番低くなっている。
(2)他地区との比較
現在全塾で導入しているDBは,新聞の全文記事を収録するDB含めると19種類あるが,各地区の内訳が取れるものは少ない。表2にはLEX/DB(導入は3地区のみ),日経テレコン,Lexis.com(英米法)について他地区の利用統計を比較のために添えている。これらについては他地区と比べて,三田での利用が多いことがわかる。三田は企業系,数値統計系のDBの利用が多い。その例として有報革命の利用を見ると(表3,図4),三田での利用が塾全体の過半数を超えていることがわかる。
(3)EJの利用
人文社会系のバックナンバーEJを収録するJSTORの過去3年間の分野別利用状況が表4である。経済,ビジネス関係誌の利用が飛びぬけて多く全体の60%以上を占めている(図5)。JSTORは地区毎の利用統計が取れないので,地区別の利用状況まで把握できないが,この分野の研究者はEJをよく使うことがうかがえる。理工,医学分野の雑誌が中心のElsevierScience社のScienceDirect(2003年1月導入)ではキャンパス毎,雑誌別の利用統計が取得できる。やはり利用総数は医学,理工と比べると少なくなっている(図6)。利用統計から三田キャンパスで利用の多いEJを抜き出したものが表5である。経済学,心理学分野が良く使われていることがわかる。
4. 今後の課題
(1)広報と利用指導
三田MCでは学生向けにゼミなどの単位で文献の検索法を紹介する「文献探索ツアー」を実施している。ここ数年DBやEJに関する案内を希望するゼミが増え,DB・EJの利用は定着してきているように思われる。しかしながら研究者がどのようなDBやEJが利用できるかについて知らず,カウンターでの応対で初めてその存在を知る例が後を絶たない。これはMC側からの広報がまだまだ充分ではないことを示している。昨年から三田メディアセンターデータベース利用者懇談会を設けているが,今後も研究者とのよりよいコミュニケーションを取りながら,広報等をすすめていきたいと考えている。
(2)利用のための環境整備
(1)とも関連するが,DB・EJが増えていくと図書館員でさえ,全てを把握するのは難しくなっていく。現在OPACではEJを検索できないが,これは改善すべきである。DBについてはテーマから適切なDBが選択できるようなポータルの構築,横断検索・EJへのリンクが可能なシステムの開発あるいは導入等が望まれる。
(3)デジタルコンテンツの評価
DB・EJともそのタイトルは増加し,今後は電子書籍(e-Book)が図書館資料としても登場してくるであろう。図書館の予算には限りがあること,デジタルコンテンツは基本的には利用契約であり所蔵ではないことを考えると,「あれば便利」という基準ではなく「今絶対に必要」という基準で選んでいかなくてはならない。コンテンツの評価と利用の評価を常に行う必要がある。そのためには利用統計が必須であり,標準的な統計項目を作成し,できるだけ詳細なデータを提供側に求めていく努力も必要である。
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