1. はじめに
湘南藤沢キャンパス(以下,SFC)では,2000年6月に教職員数名から成る“教育IT化ワーキンググループ”(以下,WG)を発足させた。WGのミッションは,遠隔授業を推進するためのアクションプラン作りであった。計画検討に当たっては,対象とする遠隔授業をライブ型と蓄積型に区別して考えた。ライブ型遠隔授業に関しては,国内外の大学や塾内他キャンパスとの遠隔授業がいくつかの科目で実践されており,さらなる推進のため教室環境の整備・拡充をWGにおいて計画した。一方,蓄積型遠隔授業に関しては,研究室単位での取り組みは進んでいたが,キャンパスとしては一から検討しなければならない課題であった。WGでは,Web Learning System(ウェブ・ラーニング・システム, 以下,WLS)を構想・開発することで蓄積型遠隔授業の実践を目指した。本稿ではWLSの利用例を示しながら,蓄積型遠隔授業のイメージを紹介したい。
2. WLSの開発 シラバス,教材,課題など授業に関する情報をWeb上で統一的に管理し,どこでも,いつでも,誰でも自学自習できる環境の実現を目標にWLSは設計された。最初に基本となるシラバス・教材の提供機能の実装から始めて,実験的利用を並行して重ねながら,3ヵ年計画で開発を進めてきた。2003年7月現在では,WLSバージョン2として,次の機能を実装するに至っている。 シラバス,教材,課題・演習,試験,履修者管理,お知らせ機能
3. 蓄積型遠隔授業のイメージ―WLS利用を例に―
蓄積型遠隔授業とはどのようなものか,A君という学生がWLSを利用するケースを想定して,画面例を示しながら紹介してみたい。
(1)A君は先週「3Dシステム構成論」を休んでしまったが,友人から今日提出期限の課題が出されていることを聞いた。提出はWLSを通じてもできると聞いたので,A君は早速自宅のパソコンからWLSを使ってみることにした。WLSのURLにアクセスすると,まずキャンパスネットワークの認証が必要となる。これで本人と特定する訳だ。(図1)
(2)認証に成功すると,WLSのトップページに移る。A君宛のお知らせがあればここに表示される。システムメンテナンス情報など履修者全員向けのお知らせもあれば,授業担当教員からA君個人宛のものもある。
トップページにはA君が履修している授業の一覧が表示される。もちろんそれ以外にも授業を聴講することもできる。その場合は,授業名や教員名から検索が可能だ。今日は課題が出ている「3Dシステム構成論」を選ぶ。(図2)
(3)シラバス画面が表示される。各回毎の説明・教材・課題などがすべて一覧できる。(図3)
(4)A君が今回休んだのは第7回だ。(図4)
(5)まず課題に取り掛かる前に授業を復習したい。その時の資料(パワーポイント)や授業収録のストリーミングビデオが教材としてアップロードされているので,それを見る。(図5)
(6)補習の後,課題に取り掛かる。
課題の回答は自分のパソコン上で作成する。テキストファイルを電子形式でWLSサーバーへ提出することになっているので,WLSのアップロード機能を使ってパソコンから転送する。これで課題の提出が終わった。
以上が,WLSを使用して,自宅から授業の復習,課題提出まで行った場合の利用イメージである。(図6)
4. 教育IT化推進に当たっての課題
WLSはまだ改良の余地はあるものの,ネットワーク上で学習・授業を行うのに必要な機能を一通り網羅している。しかしながら,SFCにおいてはまだ実験段階の域を出ていない。一部の授業で実験的な試みとして使用している例はあるものの,授業の場での普及は思うように進んでいないのが現状である。WLSの存在については,教員会議などで定期的に成果報告をし,実際の授業で是非使って欲しいとアピールしてきた。その場では好評価を得られ,自分も是非使ってみたいという反応はあるものの,実際に利用に結びつくケースは稀である。利用する教員数が伸びない要因としては,制度面での整備(Webでの授業参画で単位と認めるかなど)が伴わないなどの問題もあるが,最大の要因は,WLSを利用するに当たっての人手の確保が多くの教員にとって困難な問題となる点である。この問題は教材の作成に関してしばしば言及される点であるが,WLSにおいても授業で使用する教材や課題のデジタル化には,多くの時間と手間をかけなければならないのが実際である。WLS利用に対する明確なインセンティブがなく,従来通りのやり方でも授業を進めることができる状況下では,新しい授業スタイルに取り組みたいという意欲はあったとしても,身近に作業をこなしてくれるTAやSAの学生を抱えていないと利用に踏み出せないのが現実となっている。今後の利用促進の鍵は,WLS利用に際しての人的支援体制をキャンパスとして確立し,WLSを使ってみようという教員に対して,システムだけでなく併せて人手も提供していくことと考える。
5. おわりに
本稿では蓄積型遠隔授業のイメージを紹介することを主眼としたため,WLSそのものについての説明は十分とは言えない。WGの活動を発信するWebページ(http://www.sfc.keio.ac.jp/liam/)において,WLS構想を始めとする様々な活動報告が掲載されているので是非参考にされたい。なお,WGはWLS開発の区切りがついた2003年3月をもって解散した。今後はワーキンググループという形ではなく,事務・各センターが一体となった組織的な対応によって,教育IT化,すなわち今で言う“e-Learning”実現に向けての動きに移行していくことになる。
注)本稿で使用したWLSのキャプチャー画面のいくつかは,プライバシーの都合上修正を加えている。
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