1. 自己点検・評価をめぐる状況
1991年,文部省は我が国大学の研究教育活動の自由な展開を目指し,従来の「大学設置基準」を大幅に緩和した。しかしその一方で,2000年4月には,一定程度の教育水準を確保することを目指して,「自己点検・評価」活動とその結果の公表を義務付けた。更に2003年4月に施行された改正学校教育法においては, 大学による自己評価およびその結果の公表,ならびに認証評価機関による定期的な評価および公表を法律上に位置付け,これを義務とするに至っている。慶應義塾は,これまでもいくつかの学部や研究科で独自の手法による自己点検・評価を行なってきたが,上記のような流れを受けて,この度,大学全体としての評価の標準化を行った上で,統一的な自己点検・評価を実施してゆくことになった。
2. 自己点検・評価小委員会の設置
義塾はそのために,各学部・研究科および学生総合センターとメディアセンター(以下,MC)の代表者から成る「自己点検・評価検討小委員会」を設置し,平成15年1月から3月までの間に,計3回の委員会を開催し,「慶應義塾点検・評価規定(案)」および「慶應義塾大学自己点検・評価項目(案)」を策定した。項目案の検討にあたっては,大学基準協会の示す項目に準拠した第一案のそれぞれの項目につき,関連部署が一度サンプル回答をすることで,項目の適正さを吟味しようというのが今回の検討方法であった。そして2003年3月初旬を期限として各部署に検討および試験的な回答が求められた。
3. メディアセンター自己点検・評価ワーキンググループの設置
MC本部ではそれを受けて,急遽筆者を主査とする「自己点検・評価ワーキンググループ」を設置し,項目の妥当性の検討およびサンプル回答の作成を行った。当初示された(案)は全体が「I大学・学部における主要点検・評価項目」と「II大学院における主要点検・評価項目」に大別されており,それぞれの中の図書館に関連する項目は以下に記すようなものであった。ここでまず問題となったことは,基本スタイルであった。それは,学部と大学院の二つに大別した記入方式は,図書館のサービス活動を評価する際には,かならずしもこれらを分けて論じ得ない部分も多々あり,有効な図書館評価とは相容れないということであった。このことについては,図書館部分に関しては,図書館関連項目を便宜的にIの学部の部分に集約し,その中で学部・大学院それぞれに必要なサービスを,区別して評価し得るような項目立てを工夫することを目指した。二つ目は,項目自体があまりにも大きすぎ,記述が散漫になりかねないという懸念であった。これについては,それぞれの項目の下に,評価ポイントとして重要だと思われる小項目を設け,設問を更に具体化することにより視点を明確にし,生きた図書館評価につながる具体的記述が誘導できるようにした。更にこうしたスタイルに係わる基本的な問題の他に,項目の整理や記述の明確化を行った結果,全4項目下に33の小項目を設けた(案)を策定し,それを全地区MCからの案として,小委員会に提出した。その後,MCを含む各担当部署から提出された(案)は,再度調整され,最終的には学部と大学院の項目に関しては共通部分が整理されると同時に大学院個別の問題だけがIIの部分に含まれるように修正され,その他関連部署間の重複項目なども適宜整理調整された。その結果,全207項目が112項目にまで整理調整された修正第二案が2003年4月7日に開催された第三回小委員会において示され,そこにおいて承認された。
【第一次案】
I 大学・学部における主要点検・評価項目
図書および図書館等の資料,学術情報
図書,図書館の整備
◎図書館資料等の質的・量的充実度
◎図書館施設の規模,機器,備品の整備状況とその適切性,有効性
◎閲覧室座席数,開館時間等利用上の配慮の状況と今後の課題
学術情報へのアクセス
◎学術情報の処理・提供システムの整備状況,他大学との協力の状況
II 大学院における主要点検・評価項目
情報インフラ
◎学術資料の記録・保管のための配慮
◎国内外の機関との学術資料・情報の相互利用のための基盤整備状況
【修正第二案】
I 大学・学部における主要点検・評価項目
図書および図書館等の資料,学術情報(学部・大学院共通)
◎図書館資料等の質および量(コレクションマネージメント)
記述のポイント:●概観 ●特色あるコレクション ●授業内容と蔵書の関連(シラバスチェック・リザーブ制度等)●電子媒体への取り組み(DB/EJ)●購入希望への対応(制度とその周知度・制度の利便性等)●体系的蔵書構築への姿勢(選書組織・選書方針の維持管理等)●リソースシェアリング ●コンソーシアム ●資料保存への対応(酸性紙対策・修理/代替・書庫内の保存環境等)●書庫管理(配列・蔵書点検・返本・狭隘化対策等)●保存書庫
◎施設の規模,機器,備品の整備状況(ハードウエア)
記述のポイント:●概観 ●研究学習に専念できる環境の整備 ●電子媒体への施設的対応 ●障害者への対応 ●サイン計画 ●館内環境(温湿度・照明・騒音)●危機管理(入退館チェックシステム・災害対応等)
◎図書館サービスの状況(ソフトウエア)
記述のポイント:●概観 ●広報活動(利用案内・定期刊行物・ホームページ・展示・上映会等)●目録整備 ●利用者教育 ●レファレンス ●研修の内容と特徴 ●ホームページを利用したサービス(情報提供・利用者からのリクエスト受付等)●国際対応(特に英語)●マルチメディアサービス(全ての媒体を使った,利用者のレポート作成・情報発信のサービス等)●5地区共通サービスの展開 ●利用者の声のフィードバック
◎学外との相互協力活動,社会貢献(アウトリーチ)
記述のポイント:●概観 ●学外者の利用(蔵書・独自コンテンツ・OPAC等)●大学との連携(協定等)●外部機関との連携(NII・RLG等)
4. 修正第二案の特徴および,今後の点検評価活動
この評価項目を立案するにあたっては,大項目自体は4項目に整理するに留めた。その理由は,あくまでも大学教育全般を評価する今回の「点検評価」でのバランスを考慮してのことである。しかしその結果,4つの項目それぞれが幅広くなり,散漫な記述になる恐れもあった。そこで大項目(◎印)の下に多くの小項目(●印)を定め,多様なポイントで図書館サービス総体を評価できるよう考えた。また,このような小項目が既定されていれば,義塾の5MCにそれぞれの記述を任せた場合でも,共通の評価ポイントを提供できることから,全MCから統一的な記述を得ることができよう。
今回「自己点検・評価検討小委員会」で成案された「慶應義塾点検・評価規定(案)」並びに「慶應義塾大学自己点検・評価項目(案)」は,2003年6月27日開催の大学教育委員会で承認された。今後は,規定に基づいた「慶應義塾点検・評価委員会」が設置され,その委員会によって本格的な評価が実施されてゆくことになる。
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