慶應義塾大学の5キャンパスに置かれた図書館が年間に受け入れる8万冊余の図書と約2万誌の雑誌の大きな部分をメディアセンター(以下,MC)本部で一括して整理するようになってから今年(2003年)で足掛け6年が経過した。
組織再編を含むこの間の動きはMCにとってかなり大きなものであった。そのことに対する評価委員会が2002年10月にMC内部に設置され(5地区と本部から委員11名で構成。主査平尾行藏),3ヶ月余の審議の後に報告書『メディアセンター本部集中処理機構の評価について』が提出された(以下,『評価』)。
組織再編を導く理念は「重複作業の除去,整理作業の迅速化,テクニカルサービス配属者の削減とパブリックサービス部門の拡充などであった。」(『評価』p.5)これがどの程度,またどのように実現されたかを『評価』に沿って検証してみることとする。
1. 集中処理機構の設置
受入資料を一括して整理する部門─通称集中処理機構(規程上の正式名称はMC本部図書担当,同雑誌担当)─は,1998年10月,全塾で最大規模のテクニカルサービス(以下,TS)部門を抱えていた三田MCに設置された。1999年度からMC本部に移され(予算も含めた完全移行は2000年度から),組織上の微調整が加えられて現在に至っている。
ところで慶應義塾大学MCは,次の5つの図書館から構成されている(括弧内はキャンパス名を示す)。
(1)文経法商4学部専門課程・大学院図書館(三田)
(2)医学部専門課程・大学院図書館(信濃町)
(3)理工学部専門課程・大学院図書館(矢上)
(4)文経法商医理工6学部1〜2年生用図書館(日吉)
(5)環境情報・総合政策2学部の学部・大学院図書館と看護医療学部図書室(藤沢)
当初考えられていた再編は,各キャンパスには選書機能だけを残し,5MCのTS部門を統合するというものであった。しかし実際には次のような形に落ち着いた。
図書については,(2)医学部(の主題目録作業)を除いた4つのMCの整理機能を統合し発注・受入・支払から書誌作成・分類付与までを一括して行う。
雑誌については,(2)医学部と(3)理工学部(両者で約6000誌)は別扱いとし,それ以外の3つのMCの発注/受入/支払入力/書誌所蔵データ作成/データ管理/雑誌システム管理/支払業務締め/製本業務締め等の整理業務が統合された。3地区では予算管理/装備/製本だけを,そして医学MCと理工学MCでは,その他に発注/受入/支払入力/書誌所蔵データ作成も担当するという方式をとっている。
従ってどのMCのTS部門でも行われる主たる業務は選書と予算管理となり,それ以外の業務についての統合の度合いはキャンパスの主題特性に応じて一律ではないという結果になっている。
2. 集中処理機構設置の成果
整理作業の迅速化については,『評価』から,MC本部集中処理機構に受け入れられた図書のほとんどが10日後には利用者の手に届くというスピードで処理されていることが判明した(『評価』p. 9)。大きな改善である。
迅速に作成された書誌データの品質は,大幅な委託化に伴う初期の問題を克服してからは徐々に安定してきているが,記述目録の面ではなお改善の余地がある。また,主題目録の面では件名標目を付与する必要性の認識が生まれてきている(『評価』p. 10)。
TS部門配属者の削減とパブリックサービス(以下,PS)部門の拡充はどのように推移したかというと,集中処理機構設置準備段階から人員削減と委託化を進めた結果,1994年に比し2002年の職員数は30%弱減となった。人員削減が可能となった理由は,TS,PS,その他(総務やデジタル環境担当など)の3部門でそれぞれ異なる。
統合とともに進められたTS部門の大幅な外部委託は,目録作業が大規模書誌ユーティリティや書誌作成業者により作成された書誌記録の流用により行われるようになって加速された。現在では,主題目録作業を除く図書発注受入/記述目録/請求記号付与/雑誌受入等の基幹業務は専任職員の監督下で委託社員(現在33名)が遂行している。TS部門職員数の変化を表1で示す(『評価』p.6表5より)。
PS部門の改編は今回の評価対象外であったが,MC全体の職員数変動を調査する過程で,地区によっては委託化が進められ人員削減が行われていることが判明した。表2はPS部門の職員数に各地区でどのような変化があったかを示す(『評価』p.6表5より)。
大きな変化があったのは三田のPS部門である。表2は,PS部門の2大部署である閲覧とレファレンスの内数までは示さないが,この変化は閲覧担当者数を減じて委託化を進めたことの反映であって,レファレンス担当には大きな変化がなかったことがわかっている。TS部門の統合が職員数の面でPS部門の拡充に直接結びついたということはできない。
その他の部門では,2,3の地区で情報環境の管理部署の新設があったにもかかわらず大幅な人員の削減が行われたが,それは総務担当者減の結果である。総務担当者減は,図書費支払業務を外付けのサブシステムの一つとして位置付けた新しい図書館システムが1999年1月から稼動を開始し,それに伴って支払業務が格段に効率化されたこと,そして支払業務の担当部署が総務から集中処理機構に移されたことによって可能となった。
1994年11月と2002年11月の職員数の変化を表3に示す(『評価』p.5表4)。
人員削減は,10年近くの間,退職者やMC以外の部署への異動者の後任補充をしなかった結果であって,リストラが行われたわけではない。現時点で振り返ると,縮小傾向が続く財政事情のもとで外部委託経費を拡大してきたが,それは人件費圧縮と引き換えによってはじめて可能であったと説明できるかもしれない。
3. 『評価』の提案と今後の課題
『評価』では現状分析に続いて,いくつかの提案がなされているが,主なものは次の通りである。
(1)データ作成の最終的責任はMCが負う
(2)図書整理で実現された生産性を落とさない
(3)記述目録(含典拠コントロール)の精度を上げる
(4)国際流通に耐える主題情報を書誌記録に付与
(5)入力基準とマニュアル類の整備
(6)集中処理機構と5地区の業務分担一部見直し
(7)集中処理機構配属者の異動が可能な職員数確保
(8)メタデータ/デジタルデータ作成部署の設置
(9)企画担当者の配置
上記の提案を受けて今後のあり方について検討が行われている。2003年8月現在での検討結果は次の通りである。(番号は上記に対応して付番)
(1)図書館主導の図書整理業務共同事業化の検討
(4)米国議会図書館件名標目表LCSH採用可能性の調査と実証実験の実施
(5)英米目録規則AACR第2版2002年改訂の翻訳
(6)4地区の請求記号付与作業を各地区に戻した
(8)メタデータ作成担当部署設置へ向けた学内調整
当面の目標であった利用者への迅速な資料の提供を実現した後,集中処理機構は新しい局面に入ったといえるであろう。
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