サービス拡充の経緯
三田メディアセンター(以下,三田MC)は,1982年の新館開館を機に,従来18:00より段階的に部分閉館していた運用を,全館8:45〜21:00(土曜日は〜18:00)という運用に改めた。その後は大きなサービス時間の変更なしに5年の月日が流れたが,1987年度に学生を中心とする利用者の声に対応して,期末試験や修士論文の執筆作業で図書館利用が集中する休業期間中に2日間の年末臨時開館を試行した。そしてそれは利用者の間で定着し,経常的な運用体制となった。続いて2000年9月からは,不満の多かった開講期間土曜日の閉館時間を,1時間繰り下げて19:00とした。そして翌2001年度からは,春・秋学期の各試験期間中それぞれ2日間の日曜開館を実施し,更に2002年度には,利用の集中する三田祭前に2日間の日曜開館を追加した。このように,三田MCでは,これまで利用者の声に耳を傾けつつ,機会をとらえては最も効果的と思われるサービス時間の拡大に努めてきた。
本格的な日曜開館および時間延長の開始
休日開館・日曜開館の運用に際しては,スタッフは「休日」に出勤することになるので,その分,平日に振替休日を取得する。しかしこれが余りにも多いと,平日の業務が破綻する。それゆえ,開館の日曜日は,交替制をとらずに運用可能な1日5時間に開館時間を制限し,最低限の人数で最大の効果をあげるよう運用してきた。すなわち,これまでは義塾の財政状況に考慮しつつ,光熱水費以外の経費負担増なしに,どうにかギリギリの運用を行なってきたわけである。そうした意味では,従来型の方法での日曜開館日の増日はほぼ限界に達していた。
しかし,2002年度に,義塾の政策的合意事項としての「日曜開館」が当局より提案され,三田MCに具体的な検討が依頼された。この依頼は,これまでの「臨時」というスタンスではなく,年間を通しての経常的な運用が前提である。それゆえ関連するあらゆる条件の再考が必要になった。同時に,現場から発した開館時間延長案もあった。そこで,この2つのサービス拡大案を実現すべく,光熱水費,機器メンテナンス経費,委託空調管理費,委託清掃費,図書館業務委託費など,サービス拡大のための必要経費のシミュレーションを行い,利用予測との絡みで,最も効率的なサービス体制を模索した。
その結果,日曜開館としては,開講期間の全ての日曜日(32日)につき13:00〜18:00(5時間)に開館するという案に落ち着いた。また開館時間延長としては,時間単位の入退館データに基づき,開講期間は平日1時間(土曜日は2時間),閉講期間は平日・土曜日ともに2時間延長という案に落ち着いた。(表参照)これに費やす総経費は約2,200万円という計算になった。慶應義塾はこの時期,専門大学院の新設を始めとする複数の新規事業が目白押しであり,2003年度予算案の立案については,極めて厳しい削減が要求されていた。しかし,結果的にはこの経費増は認められ,この日曜開館ならびに時間延長の運用を2003年度4月より開始することになった。
日曜開館の具体的な運用
日曜開館に際しては,閲覧カウンター,ILLカウンター,3・4階雑誌カウンター,AV編集室およびオープンエリア(ネットワークPCを30台設置)でサービスを展開している。カウンター業務のほとんどは委託スタッフあるいは学生スタッフによって賄われるが,閲覧・ILL・雑誌といった図書館業務を担当するカウンターには,最低でも1名は専任職員(事務嘱託を含む)が出勤する体制をとった。更に全館の監督責任者として管理職1名が必ず出勤する。一方レファレンスカウンター,マイクロサービスカウンター,CD-ROMコーナーでのサービスは休止とした。これは,業務の必要性を人件費および業務委託経費との比較で勘案した結果である。2003年春学期には,開講期に入って最初の日曜日である4月13日から最後の7月28日までに14日曜日を開館し,延べ7,873名の利用者が入館した。日曜1日あたりの平均来館者は,562名である。
日曜開館,今後の課題
すでに書いたように,日曜開館に際しては,運用の効率性を重んじ,サービスを制限している。とりわけCD-ROMコーナーの運用については,日曜に出勤できる少数のスタッフでは十分な対応が出来ず混乱を来たすと予想され,開放していない。しかし,それらコンテンツのなかには冊子体から移行したものもあり,そういう意味で,日曜日に限って利用できないということに違和感が生じる対象がいくつかある。データベースは基本的にネットワーク対応の方向で整備を進めているものの,CD-ROMでしか購入できないタイトルは決して少なくない。同様なことは,同じくサービス制限しているマイクロ資料にも当てはまり,資料へのアクセス機会の均等という考え方に立った場合には,形態による利用制限が生まれる運用はあるべきではないとする考え方も当然出てくるであろう。
また,オープンエリアは,日曜開館日をも含めて一番利用者に人気のあるエリアであるが,キャンパスLAN環境を維持管理するInformation Technology Center(ITC)が日曜休業であり,ネットワーク技術的な不測の事態が起こったときには,手の施しようがないというのが実情である。事実,春学期14日間を通して,1日だけネットワークが不調で外部接続が朝から出来ず,終日ネットワークが使えないことがあった。そうした場合には,個人の認証もできなくなるので,PC自体を独立して利用することさえも不可能になってしまう。不幸にも筆者はその時居合わせたが,利用者の落胆振りを見るにつけ心が痛んだ。
更に大きな問題としては,総合的なセキュリティーの問題がある。これは全キャンパス的な問題でもあろう。例えば館内で急病人が出るなどの非常事態が発生した場合なども,通常とは異なり,日曜にはキャンパス内に医療活動の出来る機能はない。いまや日曜開館は,一定数以上の慶應義塾社中が三田キャンパスに集まる恒常的な機会となった。それゆえ,そうした機会に対しての義塾としての危機管理対策は再考の余地があろう。
最後に
こうして,臨時というスタンスから恒常的な運用へと切り替えられたこの日曜開館であるが,開館している以上,包括的な機能を求める利用者の要求からの乖離は決して小さいものではない。とりわけデジタルコンテンツの利用という側面からは,完全なアクセスの保障が出来ない運用も余儀なくされており,これは今後の課題になるであろう。一方,単なるPC利用や閲覧席利用のための日曜来館者に対しては,より経費をかけずに要求を満足できる工夫が図書館外でも十分に模索できる。なにも闇雲に図書館の日曜開館だけを唱えるのではなく,利用の実態,要求の実態に即したキャンパスとしてのサービス体制を模索することが,総合的なサービス拡大につながると思われる。
ようやく半年を迎えたこの体制であるが,決して余裕のある体制ではないので,半年の利用実態に即して秋学期からはILL業務を休止し,その分平日の業務体制に重点を置くことをすでに決定している。このように今後も半年後,一年後,一年半後と常に利用実態を見極めつつ,最適な運用を模索して行きたいと考えている。良く言われがちな「一度開けてしまったら閉めるわけにはゆかない」というような硬直的な姿勢にとらわれることなしに,図書館としてのバランスの良いサービスを模索することが,これからの困難な時代に健全に生き延びる方策であると思われる。何故ならば,財政的および人材的なリソース増が保障されなくなった今日,それらの最適配分を考える以外には方法はないからである。
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