MediaNet メディアネット
ホームへリンク
最新号へリンク
バックナンバーへリンク
執筆要項へリンク
編集員へリンク
用語集へリンク
慶應義塾大学メディアセンター
メディアセンター本部へリンク
三田メディアセンターへリンク
日吉メディアセンターへリンク
理工学メディアセンターへリンク
信濃町メディアセンターへリンク
湘南藤沢メディアセンターへリンク
薬学メディアセンターへリンク
ナンバー10、2003年 目次へリンク 2003年10月31日発行
 
大学図書館をめぐる著作権の動向
平吹 佳世子(ひらぶき かよこ)
メディアセンター本部係主任
関  恭子(せき きょうこ)
三田メディアセンター係主任
全文PDF
全文PDFへリンク 16K
1. はじめに
 大学図書館関係の研修会,シンポジウムなどで「著作権(法)」が取り上げられると,参加申込が殺到するという。この関心の高さは,著作権法の解釈と現場への適用の難しさにあると思う。大学図書館における複写は著作権法第31条に規定されているが,その法文だけでは一義的に判断できないことが多い。様々なかたちで公表された著作物を扱う現場では,利用者の求めに応じて行う複写行為が適法なのか違法なのか迷わない日はほとんどない。また,著作権法を遵守することが,より手軽に広範囲な複写を希望する利用者とのトラブルの原因になることもある。図書館員としてどのように対処するべきか,少しでも日々の業務の助けになればとの思いで,ここにこれまでの動きをまとめることとする。

2. 国公私立大学図書館協力委員会の動き
 トラブルの原因となった事例を共有し,図書館での運用・判断の材料となるよう「大学図書館における著作権問題Q&A」(以下,Q&A)が2002年2月に公開された。これは,国公私立大学図書館協力委員会(以下,協力委員会)の下に設けられている専門委員会の一つである大学図書館著作権検討委員会(以下,検討委員会)によって作成されたものである。これに寄せられた質問や意見を参考に,修正や新しい事例を加え,その後の動きを反映して,現在は第2版(2003年3月)が公開されている。(2004年4月現在 第3版)(http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/j/documents/coop/copyrightQA_v3.pdf
 ここに至るまでには,10数年の年月を要した。その取り組みの経過は「Q&A」の付録にまとめられているが,1987年に著作権集中処理機構設立準備委員会が発足し「図書館における複写のためのガイドラインの設定」が提示されたのを受けて,1988年に協力委員会が「著作権法第31条の解釈並びに運用に関する意見」を提出したことから始まる。図書館へのセルフサービスコピー機の導入が一般的になってきた時期である。著作権法上は利用者自身によるセルフコピーは違法とされており,その対策を権利者側と大学図書館側で検討する必要が生じた。それから10年以上かけて協議を続けるのと平行して,検討委員会は具体的対応として策定したアクションプランも実行してきた。「Q&A」の作成はその一つである。そのほか,著作権法を遵守するための利用者への広報活動として共通ポスターを作成・配布した。また,セルフコピーの際に記入する誓約書を兼ねた文献複写申込書の雛型も作成した。これにより2002年12月,協力委員会と日本複写権センターの最終協議において,大学図書館で行われる複製行為は学術・研究を目的とし,図書館の管理下において行われる場合は,その行為者が図書館員ではなく利用者であっても,著作権法を遵守した複写であると認められるに至った。これを各大学図書館で実現するための指針としてまとめられたのが「大学図書館における文献複写に関する実務要項」(以下,実務要項)である。「実務要項」は2003年4月に協力委員会により全国の大学図書館に配布された。「実務要項」にはセルフサービスコピーが適法に行われていることを保証するために図書館がとるべき措置が示されており,各大学でその対応が始まっている。その第一に挙げられている広報活動は,前述のポスター掲示など,どの図書館でも可能なことである。しかし,コピー機の管理者の特定や,誓約書・申込書の点検など比較的小規模な図書館では運用可能でも,大規模な図書館にとってはかなり厳しい内容となっている。「実務要項」では,その要件を満たしていない場合は日本複写権センターと著作権使用料の支払いについて協議することとしている。すなわち著作権法第31条を超える複写が行われているとみなされるのである。
 慶應義塾大学の各メディアセンターでも早速広報活動を始めようとしているが,セルフ式コピー機管理の現状から考えると「実務要項」の要件すべてを満たすのは困難と言わざるを得ない。コピーサービスの維持のため著作権使用料を支払うことも視野に入れて対応を検討していかなければならない。

3. 当事者間協議の動き
 一方,著作者側の権利の主張や技術の進歩による媒体の変化などにより,文化庁側の法改正の動きもある。これは,文化審議会著作権分科会において審議が続けられている。内容は「文化審議会著作権分科会審議経過報告」平成15年(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/toushin/030102.htm)等で公開されている。この審議を受けて2002年4月には図書館と権利者側の代表による検討会が開始され,現在「図書館等における著作物等の利用に関する当事者協議」として継続されている。これには,検討委員会から委任された委員が公共図書館,専門図書館の委員とともに図書館側のメンバーとして出席している。権利者側は著作者団体,出版団体,著作権処理団体から委員が選出されている。ここで現在取り上げられている問題は,大学図書館間の相互協力業務におけるFAXおよびファイル送信,刊行後相当期間経過資料(逐次刊行物を除く)に収録された著作物の全文の無許諾複写,再生手段の入手が不可能な図書館資料の複製,障害者サービスのための録音図書の作成,インターネット上の情報のプリントアウト,公共貸与権の創設,上映権の権利拡大などである。
 権利者側は権利を主張するだけでなく,学術情報の円滑な流通のための運用に理解を示す方向にあり,図書館側としても権利者の利益を損なわないという原則を尊重し,法改正ではなく図書館・権利者双方の合意により運用規定を定めて対応していくことも含めて協議を重ねている。
 大学図書館では,セルフサービスコピーと同様,図書館間の郵送に代わる複写物送付手段としてのFAX送信が許容されるよう求めてきたが,権利者側の理解を得られず「実務要項」に盛り込むことを断念した経緯がある。最近では諸外国,特に米国との情報流通手段の格差が研究者でもある権利者側にも問題視されるようになり,法改正ではなく運用規定の合意による実現の可能性が高くなった。一方この数年の間に実用化されたファイル送信(スキャナで読み込んだ画像イメージをネットワークを介して送る方法)については,出版者の経営方針に左右されるところが大きく,粘り強く交渉を続ける必要があるようだ。例えば,国立大学図書館協議会(国際学術コミュニケーション特別委員会)を中心とした日米間のGIF(Global ILL Framework)プロジェクトが本格的に運用できない最も大きな理由の一つは日本側からファイル送信ができないことである。ファイル送信は利用者が図書館を介して文献を入手する際の時間と費用を効果的に削減する手段となることは明らかである。ぜひ権利者側に大学図書館のサービスの実態を理解してもらい,相互協力業務に革新的な変化を起こしたいものである。
 刊行後相当期間経過資料に収録された著作物の複写に関しても,運用方法の合意による実現を目指して協議を続けている。記念論文集など無料で頒布され,あるいは有料であっても刊行部数の少ないものや,一時的に組織された編集委員会などによる刊行物は,発行後の入手や権利者への許諾請求が困難になる。これらの資料については,入手できなくなった場合の複写許諾の条件をあらかじめ奥付等に示しておく事前意志表示システムの導入が提案されており,さらに検討を重ねることになっている。

4. おわりに
 継続中の協議事項だけでなく,今後も検討すべき問題が出てくるだろう。急速に増加している電子ジャーナル,ホームページ,カメラ付携帯など,技術の進歩に現行法が対応しきれていないのが現状である。研究・教育・医療に必要な資料を適切な方法で提供するために,大学図書館がまとまって権利者との交渉をすすめていくことはもちろんだが,利用者教育の一環として,著作権法の内容と意義を周知することも我々図書館員の重要な責務である。大学図書館の利用者の多くは著作権利者ともなる。一歩一歩の努力により,よりよい利用環境の実現につながっていくことを期待している。

 PDFを閲覧するためにはAdobe Readerが必要です このページのトップへ戻る
メインナビゲーションへ戻る
Copyright © 2004 慶應義塾大学メディアセンター All rights reserved.