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MediaNet≫No.11 2004≫謎の訳者,謎の読者―スミス『国富論』フランス語版―
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ナンバー11、2004年 目次へリンク 2004年10月1日発行
 
謎の訳者,謎の読者―スミス『国富論』フランス語版―
池田 幸弘(いけだ ゆきひろ)
経済学部教授
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 今回本塾図書館が購入した4分冊からなるフランス語版『国富論』は,フランス語で出た『国富論』の訳書としては初めてのもので,1778年から1779年にかけて公刊された。あたかも和綴じ本のような体裁で,全体をひもで縛っただけという製本以前の外観を呈している。本訳書は,日本の大学では,専修大学,福島大学などが所蔵しているが,著しく稀こうであることは疑いえない。近年では,ドイツやフランスだけではなく,他のヨーロッパ諸国あるいはアジア諸国での『国富論』の翻訳や普及のプロセスそれ自体が重要な研究テーマになっている。こうした一見地道な研究の過程から,各国におけるスミス受容の実相,あるいは啓蒙思想の消化のあり方を知ることができ,ひいては当該国の特殊性が理解できるからである。本塾図書館は,英語で公刊されたものに限っても,発行地をロンドンとするイギリス版だけでなく,スコットランド版,アイルランド版,アメリカ版,スイス版を持っている。他の語種では,ドイツ語訳,フランス語訳,デンマーク語訳,スペイン語訳,そしてもちろん日本語訳も所蔵しているので,こうした比較経済思想史研究の宝庫である。
 本書の大きな特徴は,訳者が匿名であり,スミス学が大きく進展した今日時点でも誰が真の訳者であるかを特定できないでいることである。ケネス・カーペンターも本書は「ミステリー」(K.Carpenter, The Dissemination of the Wealth of Nations in French and in France 1776-1843, New York, p.20)だと言っている。彼は,本書が後に出た各種のフランス語訳に比して一番忠実な訳だとしているが,それでもかなりの工夫がなされている。以下,例示しよう。『国富論』のなかでも人口に膾炙している第1編第1章であるが,オリジナルのタイトルは「分業について」(以下,オリジナルのタイトルの訳は,杉山忠平訳,水田洋監訳,岩波文庫による)である。本書の訳者は,これを「労働の分配あるいは分有について」(De la distribution ou du partage du travail)としている。第2章のタイトルもオリジナルは「分業を生む原理について」であるが,「労働の分有を生む原理について」(Du Principe qui donne lieu au partage des travaux.)となっている。もちろん,英語に比較的忠実に「分業」(division des travaux)とした箇所もたくさんある。これらは,フランス語としての語感やすわりの良さを考えての対処だろう。「分有」(partage)という言葉に特別な含意を持たせれば,すでにしてフランス語圏でのスミス受容という興趣に富む主題となるが,これだけではまだ研究の端緒でしかない。
 タイトル頁の記載を信じれば,本書はハーグで出版されたことになっている。今回購入したものについていえば,おそらくは読者のものと思われる書き込みがあることが興味深い。公刊直後のものなのか,あるいは19,20世紀に入ってからの書き込みなのか。もし前者だとすれば,公刊後に本書が忘却されたという判断はあるいは留保できるかもしれない。いずれにせよ,フランス語による書き込みが多いので,少なくとも当該箇所についていえばフランス語を母語とする読者であった可能性が強い。数奇な運命を辿ったに違いない本訳書は,こうして極東の国,日本の図書館に収まるに至った。(画像1
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