1. はじめに
理工学メディアセンターでは,年内に学位論文データベースを公開する予定である。本稿ではその概要と,構築までの経緯について報告する。
2. 概要
学位論文データベースは,修士と博士の2つのデータベースから成る。これは論文の性格の違いから,収録範囲,公開範囲が異なることによる(表1)。
書誌のデータ項目は修士・博士で共通とし,要旨と本文はPDFで収録・提供する。なお博士論文本文については,申請に基づき閲覧を可能とする仕組みを設ける予定である。
3. 構築への道のり
理工学メディアセンターの平成10年度事業計画の一つに「博士論文・修士論文のデータベース化試作」が上げられているが,実際には平成9年度末から修士学生を対象に論題・要旨情報の収集が開始された。当初の収集方法は,理工学メディアセンターから各研究室にフロッピーディスクを配布し,その中に論題・要旨情報をテキストファイルで納めてもらうというものであった。
平成12年11月には3年計画で修士論文データベースを構築,運用ベースに載せることを目的に,理工学メディアセンター・理工学ITC協議会の下部ワーキンググループとして”修士論文データベース構築プロジェクト(主査:山本喜一助教授)”(以下WG)が発足した。これを機に収集対象を論文本文まで広げると同時に,その利用に関する許諾書の収集を開始した。平成13年度からは博士論文も収集対象に加えられた。 論文本文の収集は,学生が論文作成に使用した電子ファイルそのものを提出してもらうことにしたため,当初は提出方法や提出されたファイルの判別に試行錯誤を重ねた。現在ではファイル形式はMicrosoft WordかPDF,提出方法はCD-RかWeb提出システムのどちらかを原則としている。
4. 論文の性格の違い
収集を重ねるにつれ,修士論文と博士論文とでは,その性格に大きな差があることがわかってきた。理工学部では,修士論文は指導教員から先進的な研究テーマを与えられる場合があり,また研究成果を基とした特許申請もよく行われている。そのため修士論文をデータベースで広く公開することには弊害もあることがわかった。一方博士論文は,著者独自のテーマが必須とされることに加え,論文は国立国会図書館に納本されるなど公開が前提とされている。
表1に掲げたデータベースの概要は,これらを踏まえて決定された。また博士論文は1989年まで遡って本文を収録対象とすることになったが,この遡及分は公開に際して別途許諾を得る予定である。
5. 他部署との連携
他部署との連携も,学位論文データベースの構築には不可欠な要素である。理工学ITCとはWG事務局を共同で担当しているほか,システム構築やネットワーク面,またPDF作成のためのAdobe Acrobat講習会の実施などで協力体制を取っている。
また平成15年度から,許諾書の回収を,学事課で冊子論文の提出と同時に行ってもらえるようになった。これにより,回収率はそれまでの50%台から95%以上と,飛躍的に向上した。
6. 最後に
学位論文データベースは,当初は修士論文要旨約2,500名分,博士論文要旨・本文約70名分でスタートする予定である。これが理工学部の学術情報発信の一翼を担うことになれば幸いである。
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