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MediaNet≫No.11 2004≫インキュナブラ・プロジェクトの発足と現状
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ナンバー11、2004年 目次へリンク 2004年10月1日発行
特集 大学図書館からの情報発信―電子化情報と情報電子化への取り組み
インキュナブラ・プロジェクトの発足と現状
徳永 聡子(とくなが さとこ)
文学部非常勤講師
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 慶應義塾図書館(三田メディアセンター)は,一般的に稀覯書と呼ばれる歴史的価値の高い資料を和書・洋書ともに数多く所蔵している。その充実ぶりは,これまでに出版された展示会カタログを一瞥しただけでも首肯できる。稀覯書のようにきわめて貴重な一次資料は,大学図書館内だけでなく世界に向けて広くオンラインで公開することが国際的にも標準となりつつある。しかし,塾図書館ではこれまで系統立った調査はほとんど行われていないため,貴重書室の蔵書の全貌はいまだ謎に包まれている。
 こうした現状を打開すべく,2003年の夏,DRM(Digital Research Museum)プロジェクトの一環として,図書館における洋書を中心とした貴重書の徹底した所在調査と,デジタル・アーカイヴの構築を目指す方針が具体的に検討された。その最初の試みとして,インキュナブラ・プロジェクトが発足した。現在の主要メンバーは,文学部高宮利行教授,松田隆美教授,和泉雅人教授,HUMI(HUmanities Media Interface)プロジェクト研究員樫村雅章氏,メディアセンター加藤好郎氏,入江伸氏,市古健次氏,筒井利子氏,吉田真希子氏,そして特別研究助手の筆者から成る。
 こうしたプロジェクトを始める際,具体的なコンテンツ制作の前に,徹底した所在調査や書物の基本的な書誌情報の確認といった基礎調査が欠かせない。今回の調査で使った資料を簡単にまとめると,カード目録,OPAC,洋書目録(Incunabula Short Title Catalogue, Union Catalogue of Incunabula in Japanese Librariesを含む),展示会目録・記録,研究論文,『三田評論』などの塾内の季刊誌,また蔵書の受け入れを記録した原簿などである。この調査から義塾におけるインキュナブラ・コレクション形成の歴史がはじめて明らかとなった。最初の収蔵本と思われるJustinusの作品(120X@468@1)は,おそらく1952年〜1964年の間に収蔵されたと思われるが,残念ながら詳細はまだ分かっていない。これに続く収蔵は1979年で,5冊のインキュナブラを購入している。日本国内のその他の図書館におけるインキュナブラ収集の歴史と比較すると,慶應における収集開始の時期は決して早いとは言えない。しかし,特に1980年代には毎年少なくとも1冊ずつ増え,コレクションは確実に成長しているように思われる。2004年6月現在,塾図書館の49版49コピー,斯道文庫の寄託本2冊,また科研費などで購入された本を含めると,慶應全体で54コピーのインキュナブラを所蔵している。インキュナブラ・コレクションが形成されたのは過去20年ほどの間に過ぎないが,その内容は国際的にも高い評価を得るほどである。詳細については拙論(“The First Report of the Keio Incunabula Project”. The Round Table. Vol.18, 2004, p.7-21)をご参照頂きたい。
 本プロジェクトが最終的に目指すオンライン・アーカイヴは,書物の図像データベースの構築と,そのCD-ROMやウェブ上での公開である。現在,三田メディアセンターの一角には「デジタル工房」が設置され,樫村氏の指導の下,筒井氏を中心にデジタル撮影が進められている。特に,全インキュナブラを調査した上で選定した主要なページ(題扉,奥付,挿絵や書き込み,来歴,製本など)については既に撮影を開始している。また今後,図書館員・研究者間の協力をはかりながら,各書物について詳細な書誌記述の作成を進め,画像を含んだ,随時更新可能なオンライン・カタログの制作に本格的に取り組む予定である。一方,付加価値や意義があると判断される場合には,その書物全ページのデジタル・ファクシミリの作成も考えるべきである。実際にどの書物を中心的にデジタル化するのか,またその判断基準や手順を事前に充分検討しなくてはならない。最終的な成果物の公開にはまだまだ時間と慎重さ,そして多大な労力を要するであろう。しかし,日本国内だけでなく海外に向けても発信することを念頭に置き,今後さらにデジタル化の方向性と方法論を具体的に話し合いながら,一歩ずつコンテンツ作りを進めて行きたいと考えている。
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