はじめに
慶應義塾大学メディアセンターでは1998年10月より,それまで各地区で行なっていた収書・整理業務を統合して,メディアセンター本部に集中処理機構を組織した。複数地区で同一の資料を購入することや,共通の取引書店も多いため,収書・目録業務の合理化が望めると共に,目録データが一箇所で作成されることで目録の質のコントロールが容易になるという効果も期待された。
2002年9月,事務長会議において集中処理機構評価委員会(以下,評価委員会)の設置が決定,同年10月に発足し,統合から4年間の集中処理機構の評価が行われた。年間7万〜8万冊を滞貨を生じさせず処理できていること,統合当初は外部委託していたオリジナルカタログや中国語・韓国語等の目録を内部で作成可能にしたことの二点は評価を得た。また今後の課題としては,目録作業の基礎となる目録作成マニュアル等の整備と,主題目録としての件名付与の検討の二点があげられた。
AACRII 2002rev.ed.の翻訳
評価委員会で課題としてあげられた“目録作成マニュアル等の整備”に関し,まず英米目録規則AACR(Anglo-American Cataloguing Rules)II 2002rev.ed.(以下‘02)の翻訳を開始することとした。理由として,従来目録規則として使用してきたAACRII‘88(以下‘88)の,特にGMD(一般資料表示),第9章電子資料,第12章継続資料に関する部分が大きく変更となり,‘02を適用している外部データベースから取り込んだ書誌を,古い規則に従って修正しなければならない状態だったからである。
この作業は2003年5月,休会中の会議体「目録ワーキンググループ」(以下,目録WG)を再開して行なうこととした。メンバーは集中処理機構の図書担当2名と雑誌担当1名,それと各地区のテクニカル部門の担当者各1名で構成された。分担としては‘02の第一部の記述部分の各章,及びその部分のLCRI(Library of Congress Rule Interpretations)は各地区担当者と集中処理機構の担当者で分担し,第二部の標目部分は‘02,LCRI共に集中処理機構の図書担当で受け持った。方法としては‘88と‘02との相違点を表にして項目ごとに確認すると共に,任意規定については基本的にLCRIに合わせた。多数の新出語句に関しては,共有ファイルに単語帳を作り訳語の統一化を図り,判らない語句は目録WGで検討したが,一つの訳語が決まらず悩むことも少なくなかった。
通常業務に支障のない範囲で分担して翻訳作業を進め,内容確認のために15回にのぼる目録WGを開催することで,2004年3月に翻訳作業を終えることができた。この間,目録WGで確認作業の終了した章から,数回に分けて集中処理機構の実務担当者に説明をして周知し,その時点から新規則で運用するようにした。
ただ,この翻訳作業は,業務上の必要に迫られての作業であったため,目録対象が極めて少ない第3,4,8,10,13の各章は対象外としたことを申し添えておきたい。
このほかにも“目録作成マニュアル等の整備”としてやるべきことは多い。今年度はコーディングマニュアルの整備に力を注いでいきたい。
LCSH(米国議会図書館件名標目)の付与
評価委員会のもう一つの課題としてあげられた“主題目録としての件名付与”については,実証実験という形で2003年10月より和書にLCSHの付与が開始された。
件名としてLCSHを選択したのは,残念ながら日本にはLCSHに相当するほど,語彙数が豊富で,かつ維持に力が注がれている件名標目表が存在しないためである。LCSHの語彙数は標目だけでも約260,000になり,毎年7,000以上にもなる新しい語が追加されている。それに比べ,日本のBSH(基本件名標目表)は標目数が8,000弱であり,NDLSH(国立国会図書館件名標目表)でも18,000弱である上,数年に1度しか改定されない。またResearch Libraries Group, Inc.(以下,RLG)の正式メンバーとして,RLGのUnion Catalogへ目録データを登録する準備を始める必要もあった。LCSHが付与されている和書データを登録することが国際貢献につながると考えたことも理由の一つである。
しかし,当初はLCSHを付与するために,どのようなツールを使用していいかもわからない上に,日本語のマニュアルもない状態だった。マニュアルを訳しても理解できないというようなこともしばしばあったが,愛知淑徳大学の鹿島みづきさんにご指導いただき,半年ほどのトレーニングの末,何とか目録データにLCSHを付与できるようになった。現在LCSH付与には1冊あたり平均13分の時間を要しているが,トレーニングを重ね,経験を積めば,もっと短時間で付与できるようになるであろう。
2003年10月からの6ヶ月間は購入図書のうち,社会科学分野にあたる日本十進分類法NDC分類の300番台の和書に付与をすることを試みた。トレーニングを受けた11名のうち交代で随時4名がLCSHの付与と点検を担当した。2004年4月より,社会科学(300番台)に加えて,哲学(100番台),総記(000番台),芸術(700番台),言語(800番台),分野の和書への付与を予定しており,今後は徐々に付与分野を広げていきたいと考えている。
付与された書誌の数が増えてくるにつれ,利用者への説明もしやすくなり,検索の効果も出てくるとは思うが,付与数が少ない現在では,はっきりとした効果は見えないかもしれない。和書にLCSHを付与するということで,和書と洋書が一度に検索できるようにはなるが,和書は日本語で検索したいという要望もあるため,将来的には検索時に自動翻訳をする,もしくはLCSHを翻訳したものをインデックスとして持つなどのシステム的な工夫によりLCSHの体系のまま日本語で検索できるようになればよいと思っている。
国立情報学研究所NIIがメタデータデータベースの入力支援ツールとして作成したLCSHの本表を翻訳したものは,まだ公開されていないが,いずれは公開されるであろうし,LCSHを付与する際には重要になる典拠についても国の機関で維持していくような方向性が生まれることを望んでいる。
今後の課題としては,より効率的な付与や専門性の高い分野への付与を可能にするトレーニング,変遷の激しいLCSHに如何についていくかなどがあげられるが,早い時期に実証実験を終了し,通常業務として確立したいと思う。特に専門性の高い分野については,LCSHを付与する技術だけではなく,専門的知識を有する人材の育成・確保が必要となるため大きな課題である。現在は新規購入図書にしか付与していないが,目録全体について考慮すれば,遡及の検討も必要になるであろう。
慶應義塾大学でLCSHを付与していることが日本の目録業務に影響を与え,他機関も付与を開始するようなことになれば嬉しく思う。
まとめ
まだまだ残された課題の多い集中処理機構ではあるが,滞貨を生じさせることなく整理業務を行なうだけでなく,常に目録の質の維持と向上に対する努力を惜しまずに業務をしていきたいと思う。
AACRIIの翻訳は,従来日本図書館協会が行なってきたものであるが,必要に迫られ各地区担当者の協力も得て業務用として役立つレベルの翻訳ができたし,LCSHの付与も私立大学図書館一館で行なうような作業ではないが…と思いつつも,付与の体制を整えつつある。翻訳の大半を担当し,同時にLCSHのトレーニングを終えた現在の集中処理機構の持つ底力は大変大きいと感じている。この力を持続していきたい。
<参考>LCSH付与に使用するツール
1)Library of Congress Subject Headings, 27th edition(2004)
2)Free-floating Subdivisions: An Alphabetical Index, 16th edition(2004)
3)Subject Cataloging Manual: Subject Headings,(2002 Cumulation)
4)Classification Web http://classweb.loc.gov/(2004.06.30参照)
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