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MediaNet≫No.11 2004≫日吉メディアセンター企画展示の変遷
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ナンバー11、2004年 目次へリンク 2004年10月1日発行
 
日吉メディアセンター企画展示の変遷
山田 摩耶(やまだ まや)
三田メディアセンター
(2004年5月まで日吉メディアセンター)
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1. はじめに
 1985年開館からまもなく20周年を迎える日吉図書館では,開設当初から,上映会や展示活動が図書館活動の中で大切な情報提供サービスのひとつとして認識され,現在にいたるまで活動が続けられている。本稿では,その企画展示の約20年間の歴史を振り返るとともに,日吉図書館(以下,日吉メディアセンター)における企画展示活動の可能性について述べる。

2. 現在の展示施設と展示業務の流れ
 展示ケース(幅170cm×奥行60cm×高さ35cm)2台を背中合わせに置いた,現在の展示スペース(写真1)は,入口ゲートを入ってすぐの一番利用者の目につく場所に設置され,隣に展示資料の書名一覧や解説文が書かれた展示補助資料が配置されている。企画は,年6回程度を目標に,日吉メディアセンター職員3名からなる企画展示委員により行われる。実際の作業では,(1)テーマの設定(2)展示資料の選定(3)資料解説・配布資料の作成(4)広報文作成(5)資料レイアウト決定(6)設営の流れで,約1ヶ月の準備期間を経て,平均1〜2ヶ月の会期で展示を行っている。

3. 図書館における企画展示の目的
 現在,企画展示は,様々な図書館で多数行われているが,蔵書の性質や利用者のタイプにより目的も様々で,大きく分けると以下の4つに分類されると考えられる。
(1)貴重書紹介
 貴重書を展示することで,普段利用者が目にすることができない学術的価値のある資料を紹介する。
(2)テーマに関する蔵書紹介
 通常貸出可能の資料を,あるテーマをもとに紹介し,蔵書の魅力やテーマ自体を理解してもらう。
(3)利用者教育・利用指導
 目録の使い方,資料探索法などを説明するもので,図書館の行っている利用者教育や図書館界で問題になっていることなどを展示の形で伝える。1年生が通学するキャンパスの図書館で多く見られる展示テーマである。
(4)娯楽目的
 学習・研究のための施設としての機能だけでなく,学生にゆとりの空間を設け,利用空間の快適性を高めるためのエンターテイメント的なテーマを扱う。(参考文献1
 日吉メディアセンターでは,主に(1)以外の目的で展示が行われている。

4. 企画展示の変遷(1985〜1995)
 開館当初,利用者に対して,図書館利用の促進と,日吉メディアセンターの所蔵資料の特徴ともいえる視聴覚資料の活用をアピールするために「AVホール企画」が誕生し,地階AVホールでの上映会や,教員による講演会,パネルディスカッションなどが主に催されていた。その中で秋に「総合企画」と称し,上映会に加え,テーマに沿った図書や新聞の切り抜きなどをパネルにしたものを展示したのが,日吉メディアセンターにおける初期の企画展示活動であった。
 展示資料も図書館の資料だけではなく,他機関から資料を借りて展示することもあった。「野球ってなんだ?」の展示では,図書館所蔵資料以外に野球博物館より実際にユニフォームやバットなどを借りて展示した。また,野球に詳しい教員の講演会,学生などを含めたパネルディスカッションなどが企画され,図書館の施設,塾内外の資料,職員,教員,学生など大学のスタッフも最大限使って,テーマについての,文字通り「総合企画」となった。

5. 企画展示の変遷(1995〜現在)
 それまで上映会と展示の両方の企画を担当していた企画広報WGが,1995年に上映会を担当する「AV企画担当」と展示を担当する「企画展示担当」に分かれた。それに伴い,決まった時期だけの開催から常設展示へと姿をかえ,企画自体も職員のみで行われるようになった。

6. 展示の特色
6-1. テーマの特徴
 日吉キャンパスは,春に約5500人もの新入生を受け入れるキャンパスのため,4月の展示は義塾創設者である福澤諭吉や慶應義塾,日吉キャンパスに親しんでもらうための企画が行われる。塾,福澤関係の貴重な資料の所蔵館でもある三田メディアセンターや福澤研究センターにも協力を得て,福澤諭吉著『学問のすすめ』などの数々の和装本や,福澤諭吉縁の品々の写真などを展示する。(写真2
 夏は通信教育部の夏期スクーリングの会場になることから,スクーリング生を意識した企画を行う。春・秋学期の期末試験期間中は,図書館の施設,資料の利用頻度が最も高い時期のため,施設,資料の利用マナーを訴える展示や,図書の探し方など,資料探索を補助するテーマのものを企画する。秋になると「総合企画」と称し,資料の展示だけでなく,同じテーマの映像資料をAVホールで上映するなど,総合的にテーマを楽しめる企画を行っている。
 また日吉キャンパスは文,経済,法,商,理工,医学部の学部学生を対象にしたキャンパスのため,展示テーマも文系のものから理系のものまで分野が偏らないよう企画される。「源氏物語の世界」「不思議の国のアリス」「グリム童話の世界」「三国志の世界」など文学作品をテーマにした展示や,「イタリアルネッサンス」「メトロポリタン美術館展」など芸術分野の展示,「色彩の世界」「宇宙科学の歴史」「植物の不思議」など自然科学分野の展示,「近代オリンピック100年」「ノーベル賞100年」をテーマにした時事的な内容のものなど,テーマの分野は多岐にわたる。
6-2. 展示ケース以外のスペース利用
 実際,展示ケースには見開きA3サイズの資料を10冊程度しか収容できないため,2台の展示ケースを使用しても限られた数の資料しか展示することができない。そのため,展示ケースに加えて以下の設備やスペースを使った企画も行われた。
(1)AVホール,館内設置テレビ
 AVホールでテーマに沿った視聴覚資料の上映会や,館内に設置されたテレビで無声上映する。
(2)日吉ギャラリー(参考文献2)(写真3-1
 場所が展示ケースのすぐ近くの廊下部分で1階から3階まであるのでかなりの数の美術作品などを掲示することが可能である。「万能の天才!レオナルド・ダ・ヴィンチ」では50点のダヴィンチの素描画(復刻版)をギャラリーに展示することで,図書館全体を使い,通常より多い数の資料を展示した。(写真3-2
(3)貸出可能な資料の書架
 展示期間中も関連資料が貸出できるように,展示スペース横の新刊図書コーナーに関連図書を配架する。
6-3. 企画母体
 今までは主に職員主体の企画だったが,2002年度より学生団体との協力による企画も取り入れた。例として環境週間に行われる展示が挙げられるが,この期間は環境サークルの学生団体が主体となり,資料の選定,解説文,ポスター,Webページ作成などの一連の展示業務を学生団体が行っている。
 以上,図書館の利用促進を目的としたものから発生した日吉メディアセンターの展示の特徴は,利用者を強く意識したテーマを企画し,利用者の関心分野を広げる目的で行われているということである。
またその展示方法も,一点ずつの資料の内容解説というより,取り上げたテーマについて利用者の関心を惹くため,画像が多く視覚的に訴える資料を多数見せるなどのレイアウトが工夫されている。

7. 日吉メディアセンター展示の今後の課題
 このような特徴を活かし,今後の日吉メディアセンターの展示を発展させるため,現在すでに手がけているものも含めて考えられる工夫として下記のものが挙げられる。
(1)図書館外で行われている行事との関連
 現在,日吉ではキャンパス全体で学生の関心を広げる活動として,HAPP(日吉行事企画委員会)や学生総合センターが1年を通じて様々な企画を用意している。それらの企画目的が日吉メディアセンターの展示目的と似ていることから,これらの図書館外の企画に連携させた展示を行うことで,展示により関心を持ってもらう。
(2)講演会,上映会との総合企画
 テーマに関する多様な形の企画と連携させて総合的に情報提供を行う。
(3)触れる展示
 展示ケース内の資料を見るだけの展示だけでなく,興味を持ったそのときに図書の貸出ができるように関連図書を展示ケース近くに集める。
(4)広報の充実
 図書館以外へのポスター掲示を積極的に行うとともに,Webページ上で展示の様子の写真や,配布資料のPDFファイル掲載などを行う。
 Webページ上での展示は,多数の大学図書館で試みられており大きく二つに分けられる。一つは貴重書を電子化展示と称してデジタル化したもので,それぞれの貴重書資料の画像に詳しい解説がつけられているもの。もう一つは,展示物の個々の画像や解説は見ることができないが,展示の全体像がWebページに掲載されるもので,展示企画の広報を目的として作成されているものである。
 後者の例として,神奈川大学図書館の展示スライドショー(参考文献3)や実践女子大学のミニ展示(参考文献4)が挙げられる。同じように,日吉メディアセンターも展示の様子をWebページに掲載することで広報力が増し,同時に図書館に直接来館できない利用者に対しても展示を楽しんでもらうことができると考えられる。また三田メディアセンター(参考文献5)が行っているように配布資料のPDFファイルを掲載する工夫も今後検討したいところである。
(5)利用者の反応をつかむ
 早稲田大学などですでに行われているアンケート(参考文献6)を展示ケース近くに用意したり,Webページ上に作成するなどして,利用者の反応をつかむことでよりよい展示の効果を計ることも今後試みるべき手段と考える。

8. 日吉メディアセンターにおける企画展示の意義
 19年間にわたる企画展示の歴史を紐解くことで,日吉メディアセンターでの展示業務の必要性を改めて感じる。
 前項で紹介したHAPP(日吉行事企画委員会)は,その活動趣旨を「慶應義塾に学ぶ学生たちに様々な企画を通じて多様な『智』の在り方を提示し,大学のみならず生涯にわたる『学習』の意味と可能性を考える機会を提供することを目指す」(参考文献7)としている。そのような組織とともに,1〜2年生の在籍する日吉キャンパスの特徴,学習・文化機関であるメディアセンターとしての役割をふまえ,様々な分野の情報を利用者に提示し智を深めてもらう展示活動を今後も目指していきたい。

参考文献
1)松下眞也“図書館と展覧会”.早稲田大学図書館紀要.No.43, 1996.8, p.1-46
2)1995年に開設されたスペースで図書館1階から3階までの廊下部分を指す。学生が絵画に親しむ場を設けるため,世界有数の美術館所蔵の美術作品のポスターを掲示している。
3)神奈川大学図書館.“展示スライドショー”.神奈川大学図書館.入手先
 http://www.kanagawa-u.ac.jp/lib/event/index.html(2004.6.30参照)
4)実践女子大学・短期大学図書館.“ミニ展示2004”実践女子大学・短期大学図書館.入手先
 http://www.jissen.ac.jp/library/documents/
minitenji/index.htm
(2004.6.30参照)
5)慶應義塾大学図書館.“<展示情報>”慶應義塾大学図書館.入手先
 http://www.mita.lib.keio.ac.jp/lib_info/
display_info.html
(2004.6.30参照)
6)松下眞也“展覧会の企画と運営”.早稲田大学図書館紀要.No.50, 2003.3, p.25-70
7)日吉行事企画委員会(HAPP).“HAPP活動の趣旨”.入手先
 http://www.hc.keio.ac.jp/happ/(2004.6.30参照)

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