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ナンバー12、2005年 目次へリンク 2005年10月1日発行
特集 メディアセンターにおけるリスクマネジメント
外国雑誌前払い契約における危機管理について
平尾 行藏(ひらお こうぞう)
メディアセンター本部事務次長
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前払い契約
 外国雑誌の購入契約は,1月から12月にかけて刊行される号を対象として,前年の11月頃に大学図書館と洋書取次店等との間で取り交わされるのが日本および世界の書籍流通業界の慣行である。本学ではその支払いを毎年12月に行っている。
 洋書取次店は,大学図書館から支払いを受ける1〜2ヶ月前には各雑誌の出版者に対し翌年分の支払いを済ませるので(Cash with Order),大学図書館から入金があるまでの間の金利負担は取次店が負うことになる。この支払い行為によって,出版者は翌年の刊行に必要とされる資金を前年の10月〜11月に手にし,編集・刊行事業を継続することができる仕組みになっている。
 図書館での通常の支払い行為は,図書等の納品後になされるが,外国雑誌(紙媒体と電子媒体の双方)とデータベースの場合は,最初の納品がある前にまたは利用を始める前に支払うという商習慣が(私学においては)定着しているために,経理面で危機管理上の問題が発生する。図書館においては長年に渡って外国雑誌の購入を前払いで行ってきたという経緯があり,ここ数十年間はさしたる問題とはなっていなかった。ところが2002年初めにある洋書取次店が倒産し,その取次店へ発注していた雑誌の2002年12ヶ月分を他の複数の取次店等に再発注せざるを得なくなった。それに要する対価はいわば二重払いとなり,また破産訴訟は行われたものの債権回収は不調に終わったので,本学は大きな被害を蒙った。これをきっかけに危機管理面で問題が顕在化した。

危機管理の観点
 この時の反省に立ち経理管財当局の指導も受けて,翌年度以降,いくつかの対応策を講じた。以下のような観点を検討した(順不同)。

・前払い契約取次店の与信管理
 10社程度の取次店に対し信用調査会社による調査を始めた。会社概要,資本金,自己資本利率,年間売上高,経常利益,当期利益等の事実関係の調査の報告,および資金現況,資金調達余力等を含めた現況と今後の見通しについて報告を受け,可能な場合は財務諸表を見る。いくつかの要件を基準に評価が出されているので評点も参考とするが,規模に重点が置かれているため,中小規模の企業が過半を占める取次店を対象とした場合は必ずしも評点だけを判断材料とすることはできない。

・資格審査結果通知書の提出
 与信管理の一環として位置づけられるが,国立機関の入札参加に求められる全省庁統一資格の保有者であることを示す「資格審査結果通知書」の提出を,取次店に求めることとした。

・契約書の作成
 前払い契約については「外国雑誌供給契約書」を取り交わすこととした。顧問弁護士の助言を得て,2005年度契約からは一部改訂を施し信用状況による契約解除条項を追加した。

・取次店から出版者への送金確認
 出版者が取次店に対して発行する受注証明(代金受領証明書)あるいは銀行が取次店宛てに発行する送金証明書を提出させることは極めて煩瑣で事実上不可能であるため,次善の策として取次店から「送金報告書」の提出を求めることとした。ただし同文書に法的効力はない。

・発注先の分散,危機の分散
 信用調査報告を受けて学内で行う評価と書店懇談会(後述)等に基づいて,取次店倒産の被害を蒙ったキャンパスのメディアセンターを手始めにこの点を実行に移した。キャンパスの特性や取次店の扱う主題分野等によって,取次店毎の取引額が予算に占める割合はキャンパスごとに異なっていたが,発注先を一部変更する,あるいは新規取引先を加える等の配慮を加えて若干の平準化を目指すこととした。

・学内手続きの厳格化
 従来外国雑誌購入契約更改は,理事決済を仰ぐ学内手続き―稟議―の案件としてこなかった。つまり数千タイトルの雑誌の購入に要する金額は総額にすれば4〜5億円に達するが,個々の雑誌の価格は稟議対象額を下回っていることから稟議から外していたのだが,価格稟議だけでなく,そもそも取次店の選定について審議すべきであるという観点から通常の稟議にかけることとした。

・国内取次店経由から出版者直接購入への切替え
 雑誌に限らず図書についてもこの話は過去に何回となく繰り返されるが,有効な方法ではないという結論で終わる。しかし最近では外国雑誌の電子化の進展という別の側面での大きな変化が直接購入を促す要因となりつつある。紙媒体価格のDDP(=Deep Discount Price,例えば電子媒体の他に紙媒体を購入する場合は通常の85%引き等)への移行,電子媒体のみへの移行による発注先の再編成が始まっている。

・支払方法の中間払い・後払いへの変更
 関係部署や取次店との交渉は行ったが,既述した商習慣を変更することはできないという結論に達した(国立大学法人は例外措置を受けている)。

・大学の支払代金への保険
 この点については話題の域を出なかった。

契約更改
 外国雑誌を購入する取次店の選定にあたり,根拠資料として各取次店から次のような資料の提出を求め,予算の執行管理を行うことにした。
(1)資格審査結果通知書
(2)主要取引先リスト
(3)会社概要
 このうち(1)の「資格審査結果通知書」を取得していないいくつかの小規模取次店からは前払い契約を辞退したい旨の申し出があった。それらの取次店との取引は都度払い(後払い)に変更するか他の取次店へ移された。
 契約書類として提出を求めるものは次の2つとした。
(4)外国雑誌供給契約書
(5)送金報告書

書店懇談会
 メディアセンターでは受け入れ資料を一括して整理する部門,いわゆる集中処理機構を1998年10月に本部の中に設置し,和洋の雑誌についても,自然科学系2キャンパスの一部の業務を除き,集中して処理する体制をとっている。しかし,危機管理の観点から既述した方策を立て,発注先の変更等について本部と各キャンパスが協議することはあっても,選書,注文先の決定と予算管理は最終的には各メディアセンターの専権事項であるため,本部では取次店との直接的対話の場が不足していた。そこで前払いの外国雑誌購入契約を結ぶ主な取次店との間で,書店懇談会と称し,情報交換の機会を本部主催で持つこととした。
 書店懇談会は毎年6月に開催しているが,メディアセンター図書予算概況,契約更改手順とスケジュールの確認は定番の懇談事項である。今年特に顕著であったのは,外国雑誌の電子化の進展が及ぼす影響について各取次店の関心が高かったということである。紙媒体版のキャンセルと市場の縮小,そして電子ジャーナルの定着に果たす取次店の新たな役割の模索等に論議が集中した。危機管理だけがテーマではなくなりつつあるといってよい。

まとめ
 その後も海外の大手取次店の倒産や緊急資本増強報道等があり,国内だけでなく海外においても,学術雑誌の出版および流通業界の先行き不透明感は拭えない。外国雑誌電子化の急速な展開は,この側面でも大きな影響を及ぼす要因の一つといえるだろう。一つの大学図書館が,営利性と学術性という2面性を持つこの大きな業界の国内と海外の実情を,果たしてどの程度把握できるのかと考えると,正直言って難しい。しかしながら,私たちに実行可能と思われる範囲で,今後も外国雑誌前払い契約の危機管理に取り組んでいきたい。

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