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ナンバー12、2005年 目次へリンク 2005年10月1日発行
特集 メディアセンターにおけるリスクマネジメント
有効な洋雑誌コレクション構築の危機
宮入 暁子(みやいり あきこ)
大学院経営管理研究科事務長付
2005年5月まで理工学メディアセンター課長代理
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 理工学メディアセンター(以下,理工)は,理工学部専門課程(学部11学科,研究科3専攻)の活発な研究を支援するため学術情報の提供に努めてきたが,今日その主要資料である洋雑誌コレクションの構築に危機が訪れている。

1.理工学メディアセンターの状況
 理工の場合,海外より購入する洋雑誌(電子ジャーナルを含む)・データベースに図書予算の約88%(2004年度約2億3千万円)を費やしている。義塾の緊縮予算により全塾メディアセンターの図書予算総額は2000年度をピークに下降線を描いているが,理工の図書予算は同額ないし僅かながら増額した年度もあった。しかし,洋雑誌価格の年平均7〜8%の値上げに見合う伸びは望めず,また常に為替レートの動向に左右される危うい状況にある。円が大幅に下落すれば予算不足となり,相応の購入中止を余儀なくされる。
 さらに理工系の洋雑誌は平均単価が高い。理工の2005年洋雑誌購入平均単価は203,648円で,前年比7.6%増であった。表1は3年間の主題別洋雑誌平均単価調査(注1)の結果を示したものだが,価格上位のChemistry,Physics,Engineeringは基礎科学として理工が購入する雑誌の上位3分野に等しい。近年は,高額誌の購入希望に対応できない状態が続いている。
 一方,電子ジャーナルの導入を推進することは,利便性の向上や利用の拡大に繋がっているものの,支出増加の一因にもなってきた。

2.洋雑誌見直しのためのアンケート2004年
 こうした状況を受けて,理工では2004年度,有効な洋雑誌コレクションを安定的に提供していくための対応策の一つとして,「洋雑誌コレクション見直しのためのアンケート」を実施した。その目的,調査内容・結果の概要は以下の通りである。
 (1)目的
 ・購入中止や,冊子体から電子ジャーナルへの移行の可能性を探り,支出額の抑制を図る。
 ・教育内容の変化や新刊雑誌の発行に対応し,可能な範囲で新規タイトルへの差し替えを図る。
 ・上記2点を達成するために塾内外のコンソーシアムへの参加を検討する際の判断材料にする。
 ・大幅な為替変動や誌代の急騰といった事態に迅速に対応できるよう準備する。
 (2)対象:理工学部矢上専任教員 260名
 (3)第1部:購入全洋雑誌の評価等(矢上教職員のイントラネット認証システムを使ったWeb版)
 ・対象誌790件:パッケージ商品は1件と算出。
 ・研究主題/必要度および提供形態(電子ジャーナルか冊子体)/新規洋雑誌購入希望と評価等
  →回答率:70%(180名/260名)
  →選択率:90.4%(714件/対象誌790誌)
  →新規購入希望:67名54件。
 (4)第2部:特定雑誌・パッケージ・データベースに関する質問(用紙)
  →回答率53.5%(139名/260名)
 (5)事前調査:対象雑誌の分析(分野別所蔵数,インパクトファクター,電子ジャーナル利用統計)

3.理工における対応
 アンケート結果を元に次のような対応を行った。
 (1)他地区と共同してコンソーシアム参加を検討した出版社の雑誌は,参加条件や今後の契約条件を考慮して,最優先で見直しの対象とした。各種コンソーシアム契約を機に,非購読誌の電子ジャーナル閲覧等を通じ,タイトルの拡充が図れた。
 (2)冊子体の購入を中止し,電子ジャーナルの購入のみに移行することは,支出を抑制し,書庫の狭隘化対策ともなる。IELなどアーカイブの保証を得られる出版社の雑誌については,可能なところから電子ジャーナルのみへ移行した。
 (3)評価者が存在している雑誌でも,他地区と重複講入し,電子ジャーナルが確保されるタイトルは,回答内容や評価した教員の意志を確認してから,冊子体の購入を中止した。
 (4)評価者0名の雑誌は,過去のアンケート(1998年,2002年実施)の評価にまで遡り,問題が生じないか総合的に判断した上で,購入を中止した。
 (5)支出縮減に見合う可能な範囲で,新規タイトルへの差し替えを図った。この場合,電子ジャーナルがあれば電子ジャーナルのみの購入を基本にした。

 最適な蔵書構築には,研究分野の特性や情報利用行動,分野間の相違などを理解することも必要である。電子ジャーナル利用が浸透している生命科学分野がある一方で,電子ジャーナルの利便性は認めながらも研究形態等から冊子体が好まれる分野もある。バックファイルを比較的よく利用する分野に化学があるが,表2は理工における有機化学分野バックファイル購入前後の利用アクセス数の増加を示している。
 理工では,電子ジャーナルのアクセスログを可能な限り入手・分析しているが,パッケージ購入のもの等を中心に,利用0回の雑誌も少なくない。
 その一方で,地区という地理的区分を超えて,より多くの電子ジャーナルにアクセスしたいという利用者の要望は高まりつつある。利用者は確かに利便性を求めている。しかし,理工の場合,それは即ち,図書予算不足という課題に直面することでもある。

4.今後の対応策について

(1)予算逼迫への対応
 ・図書予算以外の資金を確保し,予算基盤の安定を図る。(単年用資金は,バックファイル拡充等には有効だが,洋雑誌講入には継続的な資金が必要)
 ・予算配分を検討する。(電子ジャーナルやデータベース等の費用は地区を超えた予算が必要)
 ・運用を見直す。(急激な予算不足に対応するため,図書予算残金の年度持ち越しの可能性等)

(2)2005年度 見直しの実施
 ・2004年実施アンケート結果を参考に,さらなる見直しを利用者の理解の下に行う。

(3)外部との交渉と関連した活動
 ・コンソーシアムに関しては,「購読規模維持の問題」「コンソーシアムの連携や条件・契約内容の相違」等に対応する。
 ・SPARC効果による商業誌の価格抑制を期待する。

(4)塾内協力体制の強化
 ・リソースシェアリング・選書協力(特に他地区に所蔵が多いMedical Sciences,Business and Economics分野)
 ・雑誌の利用・購入について,研究分野の特性から生じる違いを理解するコンセンサス。

(5)新しい活動の展開(事業計画)
 ・「学術機関リポジトリ」等への取り組み

 以上のような対応策の実現なくしては,理工は有効な洋雑誌コレクション構築の危機からは脱せない。対応策の実現には,今後相当の努力と関係部署の協力が必要である。


1)Born, K. Periodical Price Survey 2005. Library Journal. vol.130, no.7, 2005, p.43-48.

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