富士通iLiswaveをベースに慶應義塾大学メディアセンター仕様に開発した新ILLシステムが稼動して2年が過ぎた。本誌No.10(2003. 10)でその概要を紹介したが,その後のシステムの拡充と,ILL(Interlibrary Loan=図書館間相互貸借)業務全般の動きについて報告する。このILLシステムは,複写と現物の双方に対応したものではあるが,現物の場合,その多くを占める学内貸借はかねてより閲覧システムCALISで運用されているため,本稿も焦点を複写ILLに絞ることとした。
1.ILLシステム―その後の展開 2003年4月に全学でスタートさせたILLシステムにより,学内各地区メディアセンターが同じ様式でILL業務を一括管理できるようになった。その後,外付けのWebオンラインリクエストを連携させたことで,利用者がオンラインリクエストでインプットした書誌事項をそのまま業務画面にオーダー情報として取り込み,かつ申込者への各種連絡もメールで容易に発信できるようになった。これらの実現は,ILLスタッフの作業の大幅縮減に結びついた。オンラインリクエスト連携機能は体制の整った地区から順次参入し,その後1年ですべての地区に広げることができた。各地区のオンラインリクエストのページはメディアセンター本部の管理下にあり,状況の変化に応じて常に改訂を加えている。大学全体の国際化を考慮し,地区のニーズに応じて英文併記も進めた。 表1は,2004年度における利用者からの複写申込みの中でオンラインリクエストによる申込みが占める割合を示しており,4分の3以上がオンラインからの申込みとなっていることが分かる。当初姿の見えない利用者からの申込みに抵抗があり,オンラインリクエストへの参入が最も遅れた三田メディアセンター(以下,三田)でも,開始1年ですっかり浸透し,さらに伸びる様子が伺えるという。世の中全般のインターネット普及に見合ったサービス展開といえるであろう。 また2003年9月には,それまで各地区の総務担当者が行っていたILLにまつわる料金集計をシステムから抽出したデータで行うツールと,年度末の標準統計に提出する数値データを切り出すツールをそれぞれ外付けで開発し,業務の効率アップに繋げた。
2.複写ILL業務量の推移 各地区メディアセンターの複写ILL業務の件数について,ここ5年間の動きをみたのが図1のグラフであり,「借」「貸」共に2002年度がピークで,その後は若干の減少傾向となっている。 2002年度までの増加の理由としては,
- 学術文献数の経年的累計数の自然増加
- 洋雑誌の価格高騰に伴い購入中止タイトルが増加し,ILLに頼らざるを得ない状況
- 各メディアセンターにおける利用者教育の成果としてユーザである学生が文献検索能力を身につけたことと,学内で利用できる二次文献データベースの充実が相まって,文献の存在を容易に調査できるようになったこと
などが考えられる。逆に2003年度から減少に転じた理由としては,
- 学内で利用可能な電子ジャーナルタイトルの増加
- インターネット上で自由にアクセスできる学術情報の増加(無料の電子ジャーナル,特許,研究者個人のホームページ等)
などの影響と推察できる。
3.海外ILL(OCLC-ILL,日米・日韓GIF) 国内で入手できない文献の手配は,国立情報学研究所の図書館間相互貸借システム(以下,NACSIS-ILL)を通してのBritish Library(以下,BL)への依頼が簡便であるが,三田ではBL以外にも本学を代表しOnline Computer Library Center,Inc.(以下,OCLC)のILLに参加しているほか,国立大学図書館協会がNII(国立情報学研究所)等と協力し進めているGIF(Global ILL Framework)プロジェクトにも2002年4月のスタート時から積極的に参画している。 三田でのOCLC-ILLは開始後既に5年が経ち,順調に運用されている。最近では文献の電子的送信や指定されたURLからダウンロードするやり方が増え,BLより早くて安価なためむしろ多用されるようになった。2004年度実績は,複写依頼200件,複写受付29件である。 日米間のGIFプロジェクトについては,2005年6月現在の参加館数が北米側48館,日本側111館と全国的な広がりを見せており,2003年度の複写・現物の合計数値では,日本から北米への依頼が1018件(うち成立530件),北米から日本への依頼が799件(うち成立131件)となっている。三田は受付のみで依頼には使用していないが,2004年度の実績は複写受付18件(うち成立8件)である。文献海外手配は時間・手間・料金がかかるというイメージを払拭し,三田では普通に利用されるようになったOCLC-ILLや日米GIFを,全学的に取り入れる道を探っていきたい。 2004年11月には日韓GIFも暫定プロジェクトとしてスタートした。こちらへの加入は各メディアセンターの判断に委ねられ,2005年6月現在,三田,湘南藤沢,信濃町(加入順)の3メディアセンターが参加している。三田における2004年11月〜2005年3月の受付は7件と報告されている。 また,慶應義塾大学がメンバーとなっているResearch Libraries Group,Inc.(RLG)のILLシステムであるSHARESについては,参加による恩恵と負担,その仕様や加盟館等をOCLC-ILLと十分に比較検討する必要があり,運用に至らないまま保留となっている。
4.NII料金相殺サービスへの加入 2004年4月より,国立大学の国立大学法人への移行によってその会計処理規則が大幅に緩和されたことに伴い,NIIがNACSIS-ILL参加館を対象とした「ILL文献複写等料金相殺サービス」をスタートさせた。このサービスに参加することで,それまで1件ずつ処理していた文献複写や現物送付にかかる料金の決済が3ヶ月に1度で済むようになり,事務処理の大幅な合理化が図られた。本学では,サービス開始時よりすべてのメディアセンターが加入し,順調に初年度を経過し2年目に入っている。我々のILLシステム外付けの料金集計ツールにも改訂を加え,相殺サービス対応版とした。 NIIでは,学内各メディアセンター間での文献複写料金の決済についても,このサービスを利用することを認めている。しかしそのためには学内の依頼・受付もNACSIS-ILLシステムを通す必要があり,定常的に学内ILLシステムの簡便さをメリットとして運用している現在では,すぐに移行することは考えていない。
5.おわりに NIIがまとめた「平成15年度ILLサービス分析表」がある。それによると,本学のILLシステム複写サービス稼動率(他機関からの受付窓口を開放している時間の割合)は92.3%であり,全国平均61.65%,私立大学平均76.56%に比して,非常に貢献度の高い数値を示している。また複写平均所要日数でも,全国平均1.6日,私立大学平均1.1日に対して,本学は1.0日であり,大学図書館間相互協力機能を全うしているといえるであろう。 内部のシステムを整え,学外からの学術情報要求にも迅速に応え,海外とのILLにも積極的に参加し,ILLは安定した業務となっている。しかしながらそれに満足することなく,次のステップとして以下を取り組むべき課題と考えている。
- 学術雑誌の急速な電子化に呼応し,電子ジャーナルをも対象とするILL
- 2004年3月に示された「大学図書館間協力における資料複製に関するガイドライン」により可能となった文献電送の学内メディアセンター間での実現
- 二次文献データベースの検索結果からオンラインリクエストへの連携
- OPACの検索結果からオンラインリクエストへの連携
- 利用者本人が申込みの進捗状況を確認できるシステム
これらの中には,メディアセンター全体あるいは大学全体の動きと連動すべきものもあり,実現に相当の時間と労力を要するが,忘れてはいけない目標として掲げておきたい。
参考文献 1)(オンライン),入手先<http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/INFO/ILL/ISO/statisti cs/global-ill-statistics-j.html>,(参照2005-06-23). 2)国立情報学研究所.NACSIS-CAT/ILL業務分析表.2005. 3)(オンライン),入手先<http://wwwsoc.nii.ac.jp/janul/j/documents/coop/ill _fax_guideline_050305.pdf>,(参照2005-06-28). 4)関口素子.新ILLシステム―開発の経緯とその特徴.MediaNet. no.10, 2003, p.36-38.
|