韓国についてのどの本を開いても，真っ先に出てくる紹介表現は，「近くて遠い国韓国」である。確かに隣国でありながら，先の戦争の傷跡から友好関係を築いてきたとはいえず，お互いに情報公開もされていなかった。そんな中で2002年FIFAワールドカップ日韓共同開催があった。そして熱いサッカーファンによって盛り上がり，少し近づいた韓国へ旅行に行った。まだその頃は，昨年爆発した韓流ブームに火がついておらず，韓国といえば，焼肉，キムチ，あかすりエステというのが旅行の定番だった。
　実際に韓国へ行くとツアーの客は私達2名のみで，行きたいところがあれば，リクエストに応じどこへでも連れて行ってくれるという。困った。実はツアーに申し込んだという気持ちがあったので，韓国について下調べをしていなかったのだ。バスに乗ってソウル市内を観光して，日頃のストレス発散のため買い物し，おいしいものを食し，優雅なホテルライフを満喫するというつもりだったのだ。
　すると，旅行ガイドに北朝鮮との国境へ行かないかと誘われた。38度線なるものよく聞きはしたものの見たことはない。しかも時間もそれほどかからないらしい。せっかく韓国に来て連れて行ってくれるというならば，ちょっと見て来ようかと承諾した。
　国境への道は，左が川となっている。川べりには定間隔に小屋が建っている。そこに，国境警備の米軍が駐留し脱北者がないよう監視している。もちろん，韓国軍人も然り。韓国の男性は約2年間の兵役を課せられている。
　道路はかなり広く整備されている。行く道々には，かなり頑丈そうで大きな陸橋がいくつもある。これは，北朝鮮の軍隊が陸から攻めてきたときに，爆破し直進を妨げるために造られているらしい。
　国境の展望台へ到着すると，入り口でガイドのIDカードを提出するよう求められた。韓国では国民全員がIDで管理されていて常に身分を証明するために携帯している。これも脱北者対策のようである。
　いずれは統一されるのか，分断された両国が統一されれば，韓国側は今の経済状況を保つことはできないと危惧している。1997年のIMF危機を思い出す。国境から見える対岸の北朝鮮の施設・田畑は景気がいいように見えるよう整備されている。しかしながら，遠くに見える山の木々はすっかり燃料となり，山々は地肌を見せていた。
　さて，ここで景気のいい話をしよう。昨年来続いている社会現象とまで言われた，韓流ブーム。火付け役になったのは，NHKで放送された韓国ドラマ「冬のソナタ」。主人公を演じた，微笑みの貴公子・ヨン様ことペ・ヨンジュンは多くの日本人女性を魅了した。そして，その経済効果は，第一生命経済研究所が発表した試算によれば，2,300億円。ゼロが10個並ぶ。韓国では対日文化商品として最大と評され，ぺ・ヨンジュンは国宝級芸能人と紹介された。
　その後，日本では，各局で韓国ドラマを放映している。最初のころは，熱しやすく冷めやすい日本人の習性を読んでか，半年の予定で組まれていた番組が今も継続して放映されているところを見ると，一過性のブームではないということか？
　心に響く台詞，美しい景色，そしてそのとき流れた音楽すべてを疑似体験できる韓国のロケ地めぐりや，韓国や日本で開催される韓国芸能人のファンミーティングに日本人が殺到している。韓国では目立った産業がないだけに，国を挙げて映像・芸能文化を第1の産業とし，輸出していく政策を打ち出している。これから，どんな映像・芸能文化を展開していくのか注目したい。
　終戦から60年の年月が流れ，日韓国交正常化40年を迎える今年に入り，竹島の領有権の問題で日韓が一時硬直したときもあった。しかし，隣国どうしテレビドラマや映画を通じて日本と韓国の関係がさらに近く，親しみのあるものになればいいと思う。そして「日韓友情年」とされている今年は，両国の交流とお互いを理解する心をいっそう深くしていく第一歩の年になることを心から期待している。