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ナンバー12、2005年 目次へリンク 2005年10月1日発行
 
掲載・放映のための写真提供サービス
市古 健次(いちこ けんじ)
福澤研究センター事務長兼三田メディアセンター事務長付
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1.隠れたサービス
 三田メディアセンター(以下,メディアセンター)の利用者サービスは,閲覧,貸出,レファレンス,複写,文献取り寄せ,そして出版社との契約による電子ジャーナル閲覧と拡大の一途をたどり,利用者のあらゆる情報欲求に答えようとしている。こうしたサービスはいわば,メディアセンターの表立ったサービス,顕在化しているサービスである。大学図書館であれば,その利用者層は,所属の学生,教員,そして所属図書館で発行する「図書閲覧願」に基づく他大学所属学生,教員,さらに公共図書館で発行する「図書閲覧願」による一般市民へと広がりを持つ。こうしたことは,大学図書館での一般的なサービスである。
 その反面,メディアセンター,特に貴重書室では次のような資料を管理し,刊行物への掲載依頼に応えるサービスも行っている。社会科の教科書で幕末,明治時代に活躍した人物のひとりとしてあげられるのが福澤諭吉である。1万円札と同じ肖像写真,あるいはちょんまげ姿の写真,あるいはサンフランシスコの写真屋の娘との写真などいくつかの写真が掲載される。
 また,ビジュアルな側面を強調する雑誌が多く発行されて,現代写真と比較する意味で「浮世絵」の風景画を掲載する例も多くみられる。国文学の世界にもビジュアル化の波は押し寄せている。「浦島太郎」,「文正草子」,「酒呑童子」に代表される御伽草子,奈良絵本を扱った本では有名な場面のカラー写真とその解説が載っている。また印象に残っている掲載依頼は,以前にも掲載したことがあるという雑誌『愛犬の友』社からである。鎖国時代の窓口,長崎には西洋,中国,東南アジアから珍しい動物が来ていた。それを大名の絵師が手彩色して動物を描いた「唐蘭船持渡鳥獣之図」を所蔵している。イヌの歴史的な側面を扱った記事に当時の西洋犬を載せるために依頼してきたのである。
 写真が掲載されている教科書,ビジュアル版雑誌,図書を見ても,そのページや巻末に出典の所蔵館の表示の違いはあるものの,クレジットとして所蔵館が明記されている。見逃してしまいそうであるが,図書館は出版社,放送局,あるいは執筆者に掲載写真を提供しているのである。これもサービスの一つ,いわば隠れたサービスとしてみることができる。

2.お茶の間にも
 2003年8月4日の「英語でしゃべらナイト」(NHK総合)というテレビ番組のスペシャル枠で当時の千円札,5千円札,1万円札に載っている人物,夏目漱石,新渡戸稲造,福澤諭吉を取り上げている。三人の人物と英語は容易に結び付く。最初の国費留学生で2年間のロンドン滞在で英書500冊を読破したという夏目漱石,トム・クルーズと渡辺謙の共演映画「ラスト・サムライ」の原作にも大きな影響を与えた『武士道』を米国滞在中英語で書いた新渡戸稲造,そして横浜での衝撃で蘭学から英学へと志を変え咸臨丸で米国に渡った福澤諭吉。番組では来日したブッシュ大統領が福澤諭吉の言葉を引用した国会演説から始まり,福澤が『福翁自伝』の中で述べた横浜で店の横文字看板が読めず,それはオランダ語でなく英語で,それを機に英語に関心を持ち始める場面へと続く。
 現在も毎週月曜日に人気を博して放送されている「英語でしゃべらナイト」という番組にメディアセンターは何を提供したのであろうか,一般利用者でなく,公共性が特に高い放送局に。それはもうすぐに推測がつくと思われる。福澤諭吉のちょんまげ姿の写真である。掲載写真は,メディアセンターが提供したちょんまげ姿の福澤諭吉の写真がテレビに放映された時のワン・カットである。教科書で誰もが知っている福澤諭吉がお茶の間にもこうした形でも登場しているのである。

3.提供サービスの実態
 貴重書室での出版社への写真提供は,サービスとしては以前からあったサービスである。出版年が古い図書では,カラー写真でなく,モノクロ写真が掲載されている。放映への提供サービスをいつごろから始めたかは明確でないが,1995年から10年間続いたNHKの「コメディーお江戸でござる」,江戸時代のトピックを取り上げ,それをコメディー化したこの番組では,当時筆者は担当していなかったが,慶應義塾の一大コレクションである「高橋誠一郎浮世絵」の歌麿や広重などの浮世絵が番組にポジフィルムで提供され,テロップに「慶應義塾所蔵」という文字が何回も出ていた記憶がある。
 統計的に掲載・放映の年間提供数は,2003年度では掲載が154件,放映が37件,2004年度では掲載が136件,放映が24件である。提供写真で最も多いのが,本拠である故提供の義務もある福澤諭吉関係である。いくつかの肖像写真,『学間のすゝめ』などの著作の巻頭,「咸臨丸難航之図」(複製)で,教科書改訂によって件数は変わるが,年30件はくだらない。「高橋誠一郎浮世絵」のほか,メディアセンターでしか所蔵していない資料も提供回数が多い。先端的な技術でデジタル化を推進してきたHUMIプロジェクトによる『グーテンベルク42行聖書』(注1)をはじめ,2004年11月に郵便切手になった「平賀源内肖像画」は,2003年度の掲載・放映は計13件にも及んだ。

4.情報はどこから
 出版社や放送局からの問い合わせが来ると,「その情報はどこから得たのですか」と聞くようにしている。最近はホームページが情報源である。福澤諭吉,慶應関係だと,ホームページにある「慶應義塾写真データベース」(注2)が多い。三田メディアセンターのホームページにある図書館員による「貴重書紹介」(注3)や展示委員会が行っている月例展示紹介(注4)も,情報源になっている。
 検索容易なインターネットは便利な情報源であるが,博物館や美術館で作成した企画展示図録も旧来からある確実な情報源である。当センター所蔵・提供した資料が,その展示図録に掲載されているからである。例えば,平賀源内の肖像であるなら,「東京江戸博物館の図録『平賀源内展』(2003)の30頁の肖像を掲載したい」という形である。

5.社会的貢献
 掲載・放映へのサービスは,いわゆる図書館の一般的なサービスと異なる。年間200件にも満たないサービスであるが,こうしたサービスを行う理由の一つに社会的貢献が考えられる。一般のサービスは,累積総数は多いが,個々人で,サービス対象は極めて狭い範囲である。一方,掲載・放映へのサービスも1出版杜,1放送局に過ぎないが,その出版杜,放送局の背後にいる読者,視聴者を考えると,ポジフィルム,画像の提供という一つの行為でも,その影響力,効果,貢献ははかりしれない。稀少性の高い資料を所蔵している図書館の社会的責任とも思える。そうしたことに答えるためにも準備を整える必要性もある。できるだけ「サービスは一律」,担当者によって受け答えが違わないようにルール決めが必要である。幸い掲載・放映へのサービスの経験があるために蓄積があり,マニュアル化を図ってきた。法令遵守,コンプライアンスにのっとって社会的貢献の一役を担いたいと考えている。


1)HUMI Project.(online),available from<http://www.humi.keio.ac.jp/en/index.html>,(accessed 2005-09-07).
2)慶應義塾写真データベース.(オンライン),入手先<http://photodb.mita.lib.keio.ac.jp/>,(参照2005-09-07).
3)慶應義塾図書館.“貴重書紹介”.(オンライン),入手先<http://www.mita.lib.keio.ac.jp/lib_info/rare.html>,(参照2005-09-07).
4)慶應義塾図書館.“展示情報”.(オンライン),入手先<http://www.mita.lib.keio.ac.jp/lib_info/display_in
fo.html>,(参照2005-09-07).

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