平成16年11月,三田メディアセンターの人事異動に伴い,国公私立大学図書館協力委員会(以下,協力委員会)専門委員会のひとつ「大学図書館著作権検討委員会」(以下,著作権委員会)の委員の委嘱を受けた。今回はこの著作権委員会の活動について,大学図書館における著作権上の問題およびその解決に向けた動きを紹介したいと思う。 著作権委員会は平成14年に組織され,その下部組織の「著作権問題拡大ワーキンググループ」(以下,WG)とともに大学図書館における資料複製,ILL業務の円滑な運用のための調査・広報活動,および著作権者団体や複写許諾権利の委託を受けた著作権管理団体との懇談や交渉を続けている。慶應からはWGにも2名の派遣を行っている。 大学図書館でのサービスや利用者からの要望は著作権法では制限されるものがある。著作権委員会が取り組んだ課題は大きくは以下の2つにまとめることができる。 (1)館内のセルフ式コピー機による複写が著作権に従っていることを保障し,利用者に対して著作権尊重を啓蒙する。 (2)ILL業務において迅速な提供を可能にするFAX,インターネットによる複製資料の送付と,取り寄せた資料の自館での複製を可能にする。
セルフ式コピー問題 (1)について,協力委員会が平成11年から権利者側と協議を重ね平成14年ようやく「大学図書館における複写に関する実務要綱」(参考文献1)を上梓した。 この要綱ではセルフ式コピー機においても,利用者からの「複写申込書」を用いた申請と,「誓約書」の提出,およびコピーを管理する図書館が「点検」随時監督を行うことが義務付けられている。権利者側の意向を尊重した形になっているが,大学図書館にとっては館内に設置された複数台のセルフ式コピー機を要綱に則って運用するのは大変困難であると言わざるを得ない。これについては継続的な協議および,システム的な解決が必要になる。 要綱には著作権法尊重態度の周知も図書館で行うことになっている。利用者が著作権を理解し,資料の複製を行うという,いわば性善説に立った対応が現状では一番実行可能な対策なのかもしれない。著作権委員会では,コピー機近くに掲示できる著作権法遵守を促すポスターを作製し,各大学への配布を行った。各メディアセンターでもセルフ式コピー機には著作権に関する注意事項の掲示がなされていると思う。さらに著作権委員会は図書館員の著作権法理解のために「大学図書館における著作権問題Q&A」(参考文献2)(以下,Q&A)を刊行した。Q&Aでは著作権法31条では具体的に示されていない「発行後相当期間を経た」刊行物の定義について,従来言われていた「次号が既刊となったもの,または発行後3ヶ月を経たもの」に加え「3ヶ月を経た後も市場に流通している限りは相当期間を経たとは認めない」といった新たな解釈も加わっているので,図書館業務に携わる者は目を通すべき内容になっている。Q&Aは平成17年度に第4版が出され,WGにより今後も毎年改訂される予定である。
ILLに関連する問題 (2)については著作権法の「公衆送信権」の問題があり,従来FAXで複写物を提供するのは著作権法違反であるとされてきた。この問題をクリアするため著作権委員会は,著作者団体ではなく,学術出版に関連する日本複写権センター,学術著作権協会,日本著作出版管理システムという著作権管理団体と協議を重ね,平成16年各団体と個別に「大学図書館間協力における資料複製に関する許諾契約」を結ぶことに成功した。その契約書をもとに「大学図書館間協力における資料複製に関するガイドライン」(参考文献3)(以下,ガイドライン)を発表した。ガイドラインによると図書館は著作権管理団体との契約に基づいて“受付館は当該資料の複製を行い,依頼館宛に通信回線を利用して送信し,依頼館は紙面に再生した複製物を申込みをした利用者に渡す。”とあり,これらの団体に著作権の許諾を任せている学術誌についてはFAXだけではなくインターネット送信も無償で可能となった。これは大学図書館にとっては大きな前進であった。 ところが契約締結直後文化庁著作権課から,「インターネット送信」「無償許諾」の2点について,それぞれの団体の団体委託契約定款や使用料規定と齟齬がないかという指摘がなされた。つまり,通信回線にインターネット回線が規定されているか,著作権を寄託した著作権者に複製利用の対価を支払うことになっている約款があるにも関わらず無償提供ということがありえるかということである。この指導を検討した日本複写権センターは,使用料規程,定款に規定されておらず,契約内容としては不備があるが,定款を著作権者と協議改訂するのではなく,平成17年度以降については大学図書館との契約を継続しないという結論を出したのである。学術著作権協会では定款を改訂するのは先送りとして「契約」ではなく「合意書」という形でFAX,およびインターネットによる無償の送信を継続することになった。ただし「合意書」に賛成しない権利者のものは除かれることになった。日本著作出版管理システムとは契約が更新される予定である。 大学図書館が個々の権利者と契約,合意を形成するのは現実的ではないし,出版社等が著作権管理団体を脱会する,あるいは新たな管理団体が出現することもあり得る。今後文化庁やこれらの団体の動向を注意して見ていく必要があり,楽観はできない。 またガイドラインでは著作権者の利益を守るため“同一雑誌タイトル資料の過去3年間に発行された巻号からの複製依頼,又は同一書籍資料からの複製依頼を,1年間に11回以上行った依頼館は,その資料を購入する努力を行うものとする。”という購入努力義務が大学図書館側に課せられている。これはILLの記録から機械的に抽出するような作業が必要となる。 他館から複製物を取り寄せるのではなく,現物を借用することも多くなっている。この場合は借用館では閲覧しかできないことに不便を感じる利用者も多い。このことについては現在WGメンバーが,日本図書館協会が主催する「図書館における著作物の利用に関する当事者協議会懇談会」(公共,学校図書館等の図書館団体と映像や文芸家協会等の著作権者団体からなる)で継続して審議中である。 著作権法は著作権者の権利を守るものであるが,社会の文化的生活の発展を阻止するものではない。著作権で設けられた制限は著作者の了解を得る,あるいは必要な代価を支払うことで利用は可能なわけで,従来の「法律であるから守らなくてはならない=提供しない」的発想ではなく,合理的な解決方法を見出すことが図書館に求められていることを意識して活動していかなくてはならないと思う。
参考文献 1)国公私立大学図書館協力委員会.大学図書館における複写に関する実務要網.平成15年1月30日.(オンライン),入手先<http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/j/documents/coop/yoko .pdf>,(参照2005-07-26).
2)国公私立大学図書館協力委員会大学著作権検討委員会.大学図書館における著作権問題Q&A.2005年3月15日.(オンライン),入手先<http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/j/documents/coop/copy rightQA_v4.pdf>,(参照2005-07-26).
3)国公私立大学図書館協力委員会.大学図書館間協力における資料複製に関するガイドライン.平成17年3月5日.(オンライン),入手先<http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/j/documents/coop/ill_ fax_guideline_050305.pdf>,(参照2005-07-26).
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