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ナンバー13、2006年 目次へリンク 2006年10月1日発行
特集 情報ポータル
図書館ポータル:図書館2.0と図書館員2.0へのステップ
市古 みどり(いちこ みどり)
信濃町メディアセンター事務長
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1 はじめに
 図書館ポータルに関する考え方や事例報告は,永田論文(参考文献1)が発表された2001年以降増加している。電子ジャーナルの導入やインターネットの影響により,図書館業務ばかりでなく,利用者の情報要求や情報探索行動の変化も顕著化してきた時期である。では,図書館ポータルとは何であろうか。逸村は,次のように定義している(参考文献2)。
 図書館ポータルとは,利用者に対する図書館サービスの入り口である。同時に構成員が外部電子情報を利用する際の出口機能も一元的に持つものである。図書館ポータルは図書館の目録,オンライン・レファレンス資料,電子ジャーナルや電子ブック等の学習教育研究資料等そして高品質なネットワーク情報源や契約により構成員が利用できる外部情報源へのアクセス機能を持つ。大学内外に散在する情報資源と情報システムを集約し,情報チャネルというユニットでエンドユーザーに提供するのがポータルである。
 米国研究図書館協会(Association of Research Libraries:ARL)は2002年から2003年にかけて学術情報ポータルに関する現状調査を行い,サービスと機能の要件等を集約しているが,そこにも単一の定義は示されていない(参考文献3)。国内外のこうした動きを見る限り,図書館ポータル構築に欠かせないのは,大学図書館の主たる利用者である,学生,教職員の学習・教育・研究・医療活動に図書館はどうすれば貢献できるのか,貢献するために現在あるさまざまな資源を活用して図書館サービスのインターネット上の入り口を設計し,利用者を適切な資料へと効果的に導き,それを次の学習・研究・教育・医療活動へと結びつけられるようにするかを考えて構成してゆくことではないかと思われる。

2 ポータル構築のためのシナリオ
 たとえば,ワシントン大学ヘルスサイエンス図書館は,利用者別(研究者,一般,学生向けなど)にポータルを構築している(参考文献4)。本稿では大学図書館の主たる利用者である学部生用のポータルを追求すべきかを,近未来に実現可能なシナリオに表すことによって,その要件を洗い出すことにする。
 大学2年生の鈴木さんは,インターンシップ科目を履修し,最終報告書として8,000字のレポートの提出をしなければならない。鈴木さんは,大学1年次に図書館オリエンテーションを受け,本を借りる,AV資料を館内で見ることを中心に図書館を利用してきた。図書館ニュースや新着図書はRSS配信されている。資料の返却が遅れると,学生証にデポジットされている電子マネーから延滞料が引き落とされる。図書館資料の貸出状況は図書館ホームページ(ポータル)で確認することができる。また,貸し出しの延長や,相互貸借(ILL)の申し込み,購入希望もオンラインで可能となっている。これらの機能を使うためには,個人認証が最初に行われる。このために必要なIDとパスワードは大学入学時に配布されている。大学では各所にあるパソコンを利用するほか,モバイルパソコンを持って授業に出席することもある。また,自宅から大学へもブロードバンドを使ってアクセスすることができ,個人認証後,大学が契約しているデータベースも使える環境にある。授業の内容は,学事システムを通してウェブ上で確認でき,シラバスやリザーブ資料もウェブ上で入手できるほか,レポートの提出もこのシステムを通して行っている。授業によってはiPod用の資料が授業前に配布され,授業ではその内容に基づくディスカッションが行われる。大学にはライティング研究所があり,教員を中心に,図書館員,TA(大学院生)の協力によって,対面によるヘルプのほか,ウェブ上にも情報が掲載されている。
 鈴木さんは,大学1年次に「情報リテラシー入門」の授業を受けたものの,ある目的のために資料を網羅的に集めたり,データを収集したことはなかった。授業で印象づけられたことのひとつが,自宅にいながらにして資料収集ができることであった。そこで自宅から大学の図書館サイトにアクセスし,早速資料収集に取り掛かろうとした。鈴木さんは気づいていないが,ログインと同時にシステム側は鈴木さんが大学2年生であることを認識し,学部生用のポータルページが表示されている。しかし,まず何から始めるべきかわからず途方にくれてしまった。幸い,「リサーチヘルプ」という見出しが目に留まり,そこにある「研究を始めるために」をクリックした結果,研究の手順を確認することができた。ただ,テーマの絞り方,資料の効率的な収集,どの資料が現在の情報要求に必要十分であるかについてはいまひとつあいまいな状態であった。そこで,鈴木さんは,授業で紹介された「KITIE」というウェブチュートリアルを使い,検索方法について自主学習を行い理解を深め,テーマを絞り込むことができた。自分のテーマの概略を掴むために蔵書目録「KOSMOS OPAC」で概説書を探して大枠を理解した。OPACの検索結果からさらに読むべき資料を選択するために,学生のコメントや,システムから推薦された図書も参考にした。自分の問いをさらに明確化した結果,図書からだけでは自分の考えを主張するには不十分であることに気づいた。裏づけのための資料やデータをさらに探さなければならない。これらを探すために,大学が契約しているデータベースの検索を試みた。しかし,提供されているデータベースの種類は200を超え,最適なデータベースを選択できなかった。再度リサーチヘルプ画面で,「データベース検索システム」や「データベースリスト」を使うことによって利用すべきデータベースを確認した。いよいよ実際にデータベースにアクセスした。データベースは個別に検索も可能だが,複数のデータベースを一度に検索することもできるインタフェイスがある。必要な資料のイメージが固まりきっていないし,少し幅広く資料を集めようと考え,このインタフェイスを利用することにした。しかし検索といえばGoogleばかりを使っていたため,あまりのヒット件数の多さに圧倒されてしまった。そこで,再びリサーチヘルプを参照し,検索の絞込み方法について学習した。その結果を受けてデータベースに戻り,再検索を実行した。成功したと思われた検索結果を見ると,役立ちそうな文献が15件程度に絞られていたので,文献管理ソフト「RefWorks」へエクスポートして保存した。15件を精査すると,PDFファイルやHTMLで原文を入手できるものがある。できない場合には,他大学の資料を申し込みができるよう,書誌情報が申し込みフォームに転記されている。必要と考えられる資料については,ILLの申し込みボタンをクリックし,記入を確認してから発注した。支払いはクレジットカードで決済し,文献の配送は自宅宛とした。この検索を定期的に実行するために,検索式はプロファイル機能を使って登録した。こうして着々と研究を進める中でも時々資料や検索に対する疑問が生じたため,ポータル上のリサーチヘルプにあるチャットレファレンスを利用した。レファレンス担当者から画面にさまざまな資料やウェブサイトを紹介してもらい,それらを一緒に確認することができた。しかし,チャットを受けてもらえる時間には制限があるため,時間外の場合には,質問用のフォームを使った。すると,翌日の午前中には回答を得ることができた。
 いよいよ執筆がはじまり,教員やTAに時々面会しアドバイスを受け,あるいは,ライティング研究所サイトの執筆に関するティップスを参照しながら,ついに完成することができた。最終原稿提出前には科目内のコンペがある。コンペは単にレポートだけで評価されるのではなく,15分間のプレゼンも課せられていた。プレゼンのために,レポートを再加工する必要があった。プレゼンも初めての経験であったのでウェブチュートリアルでまず方法を学習した。PowerPointの操作自体は簡単であったが,効果的な表現方法については教材作成協力スタッフに電話で相談にのってもらった。審査の結果,最優秀論文と評価され,教員から学内のリポジトリのコンテンツとなっている紀要への投稿を薦められた。

3 ポータル構築に必要な要素
(1)利用者を知る
  このシナリオは,学部生を対象にした大学図書館のポータルを考えた一例に過ぎない。シナリオは利用者グループを想定して書かなければならない。シナリオ執筆の意義は,これによって利用者とサービスや資源をどのようにつなげることができるか,あるいはつなげるべきかを具体的にイメージできることにある。
 一方,こうした視点は,構築する図書館スタッフの頭の中だけで考えたものでは利用者志向という観点からは片手落ちとなる。利用者の要望を取り込むためには,図書館サービスに対する要望や利用者行動に関する幅広い調査を実施し,分析を行い,それをポータル構築に反映すべきであろう。
(2)ポータルを支える技術,情報環境
 図1はMaloneyらがポータルを支える技術や要素を表したものである(参考文献5)。単に図書館ポータルだけでなく,履修に関する情報や教材などが一度に得られる学事系ポータルのほか,学内に存在するその他のポータルなども一つの認証によってシームレスに行き来できることをこの図から読み取ることができる。また,セキュリティ面から,各種リソースの契約面からも,個人認証システムは不可欠な要素である。すべてのサービスを一度に実現することは難しいが,望まれるサービスの全体像を見据えて鍵となる技術は基本設計の段階から取り込みたい。
  慶應義塾大学における電子リソース契約は急速に進み,図書予算の30%以上がこれに費やされている。これらのデータベースや電子ジャーナルがさらに有効活用されるためには,書誌データベースから電子ジャーナルへのリンクがあり,さらに所蔵がなければILLの申し込みに進むというように,最終的に情報入手を可能にするためのリンクリゾルバは不可欠である。複数データベースを同時に検索できるメタサーチあるいはフェデレーテドサーチといわれるシステムもまた必須となろう。また,図書館側からの一方的な提供では満足できない利用者も存在するだろう。目指すポータルを学生向けのものとすれば当然研究者には不要のコンテンツもある。こうした利用者には個人仕様に作りこむマイライブラリーなどといわれる機能も用意したい。
 学内における情報環境の整備はポータルの実現に欠かせない。単にパソコンが準備されているだけでなく,無線LAN環境は必須であろう。利用を助ける人的なサポートもまた重要である。たとえばトロント大学では,インフォメーションコモンズというスペースが設けられており,ここでは学生のさまざまな利用行動を想定し,情報機器,ソフトウェアばかりでなく,仲間が集ってパソコンを利用しながら会話もできる場所や,騒音を吸収する壁紙,反射を防ぎつつ空間を演出する天井の工夫など,外部資金を獲得しながら情報空間が整備されてきた。スペース作りのほか情報技術に関する利用者サポートにも力が入れられ,メールや電話のほか,アポイントによって個別相談にも対応している。
(3)リサーチヘルプ
 どれほど資料を豊富に揃えたとしても,それらを有効に活用してもらえなければ意味がない。特に学生の場合,問題解決のために必要な資料をうまく探せない,的確なデータベースの選択に困難を感じていることなどが,筆者の担当する授業を通して確認できた(参考文献6)。図書・雑誌・電子リソース情報の入り口として最新のウェブ技術を活かし,OPAC機能の拡張ができないだろうか。
 学習や研究のためのヘルプ機能にはどのようなものが必要であろうか。研究の入り口段階で戸惑う利用者の道しるべとなるパスファインダー,学習や研究場面で起こりうるトラブルや質問に対応するFAQ(How do I?),研究分野ごとに研究方法やリソースをまとめた主題別リスト,適切なデータベースを検索できるようにしたデータベースの構築などが求められるだろう。一館での構築は難しいのであれば,学内外の共同作業による構築も視野に入れたい。
 人が介在すべき,あるいはしなければならないサービスへのナビゲーションも考慮しなくてはならない。レファレンス担当者から直接アドバイスを受けられるように,メールによるレファレンスのほかバーチャルレファレンスへの展開も考えられる。また,情報収集,評価,活用能力を大学時代に身につけてもらうために図書館員が実施してきた情報リテラシー教育の内容の強化や,カリキュラムや教員との連携もまたポータルを支える重要な要素であろう。
 さまざまなヘルプを実現するための方法は技術の進歩により変化することは当然であるが,最終的にいかに利用者のために必要な情報を集めそこへ導けるようにできるかは,図書館員の最も基本的な仕事である資料の収集と組織化の能力,さらに利用者を知るための活動に左右されると考えられる。最近では,情報アーキテクトという職域が注目されつつあるが(参考文献7),彼らの仕事の基本は図書館員の仕事と全く同質であるように思われる。
(4)業務の見直し
 出版された資料,世界中で無料で交換される学術情報,学内外の学習・研究活動によって生産される情報など,情報の種類,形態,質は大きく変化し,情報の流通は複雑化してきた。これらの情報を限りある財源の中で効率的に効果的に収集し,適時に提供するには,従来からの業務を見直し,組み立て直しを行わなくてはならないだろう。
 慶應義塾大学ではKOSMOSの稼動やテクニカルサービスの集中化によって地区別という考えが少しずつ取り除かれている。もちろん,統合的なサービスを補うきめの細かいサービスは地区ごとに残すべきである。しかし,たとえばこうした集中化という考えをレファレンスサービスや相互貸借サービスに持ち込む必要や可能性はないだろうか。そのためには,どのような組織作りや研修が必要とされ,人的配分が可能となるであろうか。インターネットが浸透する以前の典型的なレファレンスサービスは,所蔵する資料の中身をよく理解しているベテラン図書館員が,選書にコミットしながら全国書誌を集め,書誌事項の確認や所在確認を行うというものであった。あるいは,図書館の使い方や資料の使い方を説明するなど,対面コミュニケーションを通して行われるものであった。レファレンス担当者の知識や技術はこうした中で蓄積されてきた。一方,図書館ポータル上のバーチャルなレファレンスサービスでは,各地区に存在するレファレンス担当者の知識や技術を集約して答えを出せるシステムを利用者に提供し,その裏側で電子時代に即した知識の集約を可能とするシステムを稼動させることによって,地区に依存しないサービスの可能性が出てくる。このように考えると,あらゆる場面において人材,資料(選書,配置,蔵書構築),予算の分担(これらすべてをリソースシェアと考えるべき)という考えで業務を再度分析し,変化しつつあるサービスの提供方法に対応できる業務の組み立てができるのではないだろうか。

4 おわりに
 情報ポータルを実現するために必要な要素を挙げた。図書館ポータルとは単なるリンク集ではない。さらに図書館ポータルはこれまでの図書館のホームページの役割として考えられてきた広報的な役割とは別の方針に基づいて構築されてゆくものである。図書館ポータルの構築が利用者の情報要求を満たすために不可欠であるとすれば,理想論ではなく実現するための計画と戦略が必要である。ただし,この作業は一気に完成できるものでもないし,到達点も定めることはできない。また,図書館だけでは実現できないことも多々ある。他部署と連携しながら,ある時点に実現目標を定めつつ,前進させるしかないだろう。
 世界中の図書館で,人材の確保・育成,資料の収集・保存,予算の確保が問題となっている。そのような状況においても,図書館ポータルを実現し,サービスの向上を実現している図書館は存在する。利用者のための「次の図書館」と「図書館員の次の時代」を築くために,ポータル構築を目標とすることは意味深い挑戦であると思う。

参考文献
1)永田治樹.サービス戦略としての図書館ポータル.情報の科学と技術.51,no.9,2001,p.448-454.
2)逸村裕.“第5章 図書館ポータル”.変わりゆく大学図書館.逸村裕,竹内比呂也編.東京,勁草書房,2005,p.58-66.
3)Jackson Mary E.“The current state of portal applications in ARL libraries:results of a survey conducted by the ARL Portal Applications Working Group”. Washington, DC:Association of Research Libraries, 2004. (online), available from<http://www.arl.org/access/portal/PAWGfinalrpt.pdf>,(accessed 2006-07-19)
4)University of Washington.“HealthLinks”. (online), available from<http://healthlinks.washington.edu/hsl/>,(accessed 2006-07-19)
5)Maloney, Krisellen, Bracke, Paul J.“Chapter 6. Library portal technologies”. Michalak, Sarah C, ed. Portals and libraries.Binghamton, NY.Haworth Information Press, 2005, p.87-112.
6)市古みどり.“資料検索法2006”.(オンライン),入手先<http://info-literacy.sfc.keio.ac.jp/index.html>,(参照2006-07-19).
7)Rosenfeld, Louis, Morville, Peter. Web情報アーキテクチャ:最適なサイト構築のための論理的アプローチ,第2版.東京,オライリー・ジャパン,2003.

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