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ナンバー13、2006年 目次へリンク 2006年10月1日発行
 
文献複写ILLの最近の動向
―湘南藤沢メディアセンターの場合―
角谷 佳未(すみや よしみ)
湘南藤沢メディアセンター
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1 はじめに
 湘南藤沢メディアセンター(以下,藤沢)のILL(InterLibrary Loan:相互貸借)業務に携わって2年強,ILLは水物だと感じることが度々ある。もちろん文献の所蔵をみつけられるかどうかが運次第ということではなく,その動向がである。藤沢のILL担当では学内外を問わず現物・複写の申込・受付の業務を行っている。加えて看護医療学図書室(以下,看護)の複写と学外現物貸借の申込・受付,鶴岡タウンキャンパス(以下,TTCK)にある致道ライブラリーの複写申込の業務を代行している。分野の異なる利用者を対象とするため,藤沢の複写ILL業務が同時に複数の傾向を示し,近年どのように変化しているかについて,本稿で紹介したい。

2 オンライン申込100%
 藤沢では1999年に学内でいち早く図書予約取寄せ申込と文献複写取寄せ申込のオンラインリクエストを開始した。9割(注1)の学生が個人でノートPCを所有しているキャンパスのため,オンラインリクエストは学生・教職員ともに浸透しており,現在オンライン率が図書予約取寄せで約70%,文献複写では100%と非常に高い。
 複写のオンラインリクエストでは「受取館」という項目を設け,複写物を受け取る地区を藤沢/看護/TTCKから選択できるようにしてあり,看護とTTCKの利用者もオンラインで藤沢に直接申し込めるため,申込受理には3地区で時差はない。しかし,一度藤沢に届いた複写物を塾内便で看護とTTCKに送るための時間差は今後の課題として残っている。また3地区分の処理を行うためILLシステム(富士通iLiswave)には藤沢独自にカスタマイズした機能があり,次世代での全塾的なサービス統合を念頭におくと,可能な作業から標準機能に合わせていく必要性を感じる。

3 申込ピークは2002年
 複写申込件数はオンラインリクエストの手軽さも手伝って増加を続けたが,2002年を頂点にそれ以降は減少を続け,2002年から2005年の3年間で半減している(図1)。
 電子ジャーナルの普及がILLに及ぼす影響については,件数が「減る」「変わらない」と事例によってまちまちだが(注2),藤沢の申込件数が減少している要因の一つは電子ジャーナルのビッグ・ディール(包括的なアクセス契約)だろう。藤沢所属者の研究分野は多様だが,2000年以降の急激な件数増加の大部分を担ったのは自然科学系のある研究室所属者の申込だったため,電子ジャーナル導入の効果が如実に現れたと考えられる。申込件数が最多の2002年に藤沢受取と指定した複写申込のうち,この自然科学系研究室の申込は62%を占めていたが,その後は年々減少し,2005年には18%まで減っている。
 もう一つの要因として考えられるのは,他地区や他大学へ申し込むことの多い雑誌の購入努力である。雑誌の購入検討時期に合わせて,年に11回以上(目安)複写を申し込んだ雑誌を対象に申込回数や申込者数,申込者の所属,需要のある年代などを調査し,藤沢の資料選定委員会で購入を検討している。申込内容の検証は,「大学図書館間協力における資料複製に関するガイドライン」(注3)に努力義務として掲載されているからというだけでなく,利用者の研究分野の把握にもなるので,新規購入の可否に関わらず積極的に行っていきたい。
 以上のように利用者ニーズ充足の結果としてILL申込件数が減少していると考えられる一方,申込の多くはコアユーザーに留まっており,利用者層拡大の余地は大いにあるだろう。

4 受付の6割以上は看護所蔵資料
 一方,文献複写の受付は増加を続けており,特に著しいのは2001年度=看護医療学部が開設した年以降である。2005年度の複写受付のうち看護所蔵資料が占める割合は68%であった(図2)。
 看護分野の文献需要については,千葉大学附属図書館亥鼻分館(ヘルスサイエンス系図書館)が詳細な報告をしている(注4)。千葉大学では電子ジャーナルの契約に関わらず複写申込・受付とも件数に大きな変動が現れず,それぞれの申込内容を調査したところ,申込・受付ともに看護系のタイトルが上位にきていた。看護系大学・大学院数の増加や看護系雑誌論文の雑誌記事索引中の収録数増加からも,研究者の人口が増え研究活動が活発になっているということが窺え,このことが電子ジャーナルの契約によるILL件数減少を相殺するほどの傾向となっていると報告している。
 学外から看護の所蔵資料へ申し込まれる複写受付に対し,看護から学外への複写申込が13分の1以下しかないのは,看護の資料が充実している証しといえる。この急激な受付件数増加に対応するため,2005年7月末に藤沢―看護間でインターネットFAXでの文献送付を開始した。これまで看護所蔵資料は,看護で複写されたあと塾内便で藤沢に届き,課金・発送処理をしていたが,インターネットFAXにより塾内便到着時間の業務の集中を緩和でき,電話回線を使う従来のFAXに比べ,インターネット回線を使うため通信費も抑えられている。

5 おわりに
 ビッグ・ディールの影響と看護分野研究の活発化を受け,藤沢の複写ILL業務は2〜3年で大きく変化した。しかしこのような全国的にも見られる動向は,何らかの理由付けも今後の予想もある程度可能だ。受付についていえば,看護所蔵資料への申込件数は増加とはいえ右上がりの傾斜は緩やかになっており,今年度も同様の傾向ならば,看護分野の文献需要の隆盛も一段落したと予想できる。もしくは終末期医療など政府政策が本格化すれば更に研究が活発になるかもしれない。
 実のところILL担当を本当にヒヤヒヤさせるのは,このような大きな流れよりも,1人で1日200件といった突然かつ膨大な申込である。利用者が気まぐれなのは常のこと,ILL申込は利用者ニーズを表す鏡と思い,今後も誠心誠意つとめていきたい。


1)慶應義塾大学.“総合政策学部・環境情報学部”.慶應義塾大学点検・評価.(オンライン),入手先<http://www.tenken.keio.ac.jp/pdf/f-pm_ie.pdf>,(参照2006-06-30).
2)加藤信哉.電子ジャーナルのコンソーシアム利用が大学図書館の文献デリバリーへ及ぼす影響.カレントアウェアネス.no.281, 2004, p.3-5.
3)国公私立大学図書館協力委員会.大学図書館間協力における資料複製に関するガイドライン.(オンライン),入手先<http://www.soc.nii.ac.jp/anul/j/documents/coop/
illfaxguideline050305.pdf>,(参照2006-06-30).
4)米田奈穂 他.ビッグ・ディール後のILL―千葉大学附属図書館亥鼻分館における調査.大学図書館研究.vol.76, 2006, p.74-81.

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