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ナンバー13、2006年 目次へリンク 2006年10月1日発行
 
理工学メディアセンターにおけるレファレンスカウンター改修およびPCエリア開設
吉井 由希子(よしい ゆきこ)
理工学メディアセンター
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1 はじめに
 図書館が良い学習・研究環境を提供するためには,資料やデータベースを揃えるだけでなく,それらを有効に利用するための環境,すなわちパソコン等の設備,またレファレンスによる利用支援などの機能を拡充することが必要である。さらには,図書館自体が,学習・研究に適した居心地のよい空間であることも重要である。
 慶應義塾大学理工学メディアセンター(以下,当センター)では,これまでにも館内の美化・整備,また機能の向上に努めてきたが,情報の電子化が進み,利用者の利用形態やニーズが大きく変化する中で,電子図書館化に向けて機能の一層の向上と学習・研究環境のさらなる改善を図るため,2004年度,2005年度にかけて,本館1階レファレンスカウンターおよびその周辺エリアの大幅な改修を行った。
 本稿では,これらの改修までの経緯と現状について報告する。

2 2004年度
  ―レファレンスカウンターおよびその周辺

2.1 経緯
 改修前の本館は,1972年設立当初から30年以上,施設的にはほとんど変っておらず,2000年に増築された創想館側の図書館(新館)との連続性を欠いていた。1階のレファレンスカウンターも設立当初のもので,木製のがっしりしたカウンターには長年の間に幾つもの傷が刻まれ,重厚な雰囲気を醸し出してはいたが,反面,重く敷居の高い印象にもなりがちであった。立って対応するに充分な高さで,内側に事務用机と椅子を置き,職員は,利用者がいない時には座って仕事をするため,真正面から見ると,職員はカウンターに隠れてしまう。利用者と対応する際には,カウンターと事務机越しに話をするので,利用者との間に距離ができ,提示された資料が見えず,職員はカウンターの外に回って話をすることもしばしばであった。
 カウンター後方は事務用書架が並び,その奥は事務室へと繋がっていたが,その間に仕切りがなく,カウンター側から斜めにのぞくと事務室内が見えてしまうほか,事務室内から発する物音がカウンターに届くこともあった。
 これらの問題を解決し,レファレンスサービスの支援機能を電子図書館化に沿って向上させ,利用者に機能的で居心地のよい環境を提供することを目的として,カウンターとその周辺を改修し,カウンターと事務室との間に壁を設置することを計画した。
2.2 改修までの動き
 初めて改修案が作成されたのは,2004年度工事申請に向けての2003年8月である。この時点で,改修の目的と全容,総支出額の概算を,理工学部用度課工務担当に提出した。最終的に2年間の事業として採択されたため,他の事業計画に照らして工事内容を2段階に分けた。実際に改修に向けて動き出したのは,2004年10月,山中資料センターへの資料移管と館内資料の大幅移動が終了してからである。2月の工事に向けて,集中して準備を進めることになった。改修場所がレファレンスカウンターということで,事務長およびレファレンススタッフを中心に検討を行った。
 まず,現状の問題点と,改修後に備えるべき機能を整理した。それらを基に,他大学の図書館を見学し,雑誌や図書館施設のカタログ等も参考にした。写真を見ることで視覚的にイメージし,アイデアを出すことができた。まとまったアイデアを業者に伝え,具体的な改修内容を検討し,2005年2月中旬から3月末にかけて,改修工事を行った。
2.3 改修内容
 1)レファレンスカウンター
 正面カウンターを低くし,利用者・職員ともが座って,共にパソコン画面を見ながら,操作や画面の推移を確認しつつ,落ち着いて応対ができるようにした。当センターでは男子学生の利用者が多いため,身長の高い利用者を想定して高さを設定し,カウンターの下に足が入る空間を確保した。本館入口側には,立って対応できる高さのカウンターが便利だと考え,従来のカウンターの一部をリフォームして活用した。全体的に明るい雰囲気を出すため,カウンターは明るい色にした。カウンター上部にはサインも兼ねた吊り下げ型のルーパー付きの照明を設置し,天井にもスポット照明を増設した。
 また,利用者対応と事務作業の両方を効率よくこなすため,スタッフの作業スペースとして,カウンターと同じ材質,同じ高さの事務用机をカウンターと直角に設置した。パソコンは利用者対応用と業務用を別にし,カウンターには利用者対応に必要なもの以外は一切置かないなど,利用者からの見た目にも気を配った。
 新設のカウンターは,イメージ通りのものを実現させるためすべて特注で作成した。人の動きや,利用者とスタッフ双方にとっての使い勝手を考えながら何度も計測を行い,形や寸法,色,位置などを決定した。手間はかかったが,その結果,細かい部分にまでこだわることができ,思い通りの形や機能を得ることができた。
 2)壁の設置と事務室
 カウンター後方に置かれた事務用書架16連を撤去し,カウンターと事務室との間に壁を設置した。同時に,床上げ工事も行い,バリアフリーを実現した。壁の設置にあたっては,利用者サービスと事務業務の両面から効率性を考え,壁を隔てた相互の業務の切り分けや,業務の流れ,物の配置を見直して位置を決定した。
 事務室内では,利用価値の低い物置部屋を撤去し,事務用書架に代わる手動式集密書架を設置したことで,スペースが大きく確保された。これに伴い,事務室内の全スタッフおよび全什器の配置も見直した。パブリックサービスは,レファレンス担当と閲覧担当,さらにはデジタル環境担当が1箇所に集まり協力体制が強化された。テクニカルサービスの雑誌担当と図書担当,それに総務担当が空いた場所をそれぞれ有効に活用し,ここでも作業効率がアップした。壁を設置しても,事務室内からカウンターの様子が見えるように,壁には大きな窓とブラインドを取り付けて,必要に応じて開け閉めができるようにした。出入り用に設置した2箇所の扉も,人と物の動きを考え3枚扉とし,圧迫感が出ないようにガラス窓を取り付けるなどしてこだわった。
 3)レファレンスカウンター横のスペース
 レファレンスカウンターの横には,テーブルと椅子を置き,簡単な利用案内や相談対応,打ち合わせなどが行える4×2.5mほどのスペースを確保した。半透明のカーテンを引いて,他の利用者スペースとの間を仕切ることもできる。
 当センターでは,毎年春に主に新4年生向けの利用説明会を行っており,多くの学生の参加がある。参加者の多くが学部4年生で,研究室単位で申し込んでくることが殆どだが,時に熱心な3年生や,初めて慶應に在籍した大学院生や研究者が1名での参加を希望してくることがある。おそらく,参加を希望していても,1名で申し込むことをためらっている利用者が他にもいるものと考えられる。こういった利用者に対して,このスペースを使って気軽に利用説明会が行えるようになった。会場設定などの準備の必要もなく,2〜3人程度であれば1台のノートパソコンを用意し,それを皆で囲んで行えば十分用が足りる。今年の春も何度かこの場所が役に立った。今後はこのスペースを利用して,いつでも利用者の要望があった時に,気軽な形で説明会に応じていくことや,その他のサービスに使うことを考えている。

3 2005年度
  ―PCエリア,ラウンジ開設

3.1 経緯
 当センターでは,創想館と本館の「データベース検索コーナー」に,合計15台の利用者用のパソコンを設置していたが,これらは,あくまでもメディアセンターが提供する電子リソースを利用するためのパソコンとして,ネットワークにはアクセスできるがソフトウェア等は搭載していなかった。しかし,情報の収集から発信まで,学習・研究活動のすべての過程においてパソコンの利用が不可欠となった現在,これまでのパソコンの機能だけでは不十分と思われた。もちろん教員や大学院生の多くは所属する研究室で論文作成等を行うことが出来るが,まだ研究室を持たない学部3年生や,図書館内の資料を利用しながら論文を執筆する学生・研究者のためには,情報を収集するだけでなく,収集した情報を活用し,レポートや論文の作成までを行うことができる機能や環境を整備する必要があった。
 当時,レファレンスカウンター前のエリアには,パソコン6台を設置した「データベース検索コーナー」があり,その奥は「新着雑誌書架」,横には,抄録誌を収めた多くの低書架があった。この場所は本館入口近くの一等地として,重要かつ利用頻度の高い新着雑誌や二次資料が配置されていた。今回の計画は,資料の電子化に伴い,「新着雑誌書架」を「製本雑誌書架」近くに移動し,抄録誌はその殆どを別館に移動,低書架は撤去し,空いたスペースに,電子ジャーナル・データベースの利用に限らず,学習・研究活動のためにパソコンを利用することのできるエリアを開設するというものであった。ちょうど2006年度には利用者用のパソコンのリプレースが予定されていたこともあり,新たに設置するパソコンについても合わせて検討することができた。
 一方,移動する「新着雑誌書架」は,「製本雑誌書架」と近くなり雑誌書架としてまとまるため,これまでよりも探し易くなる。さらに,利用の多い新着雑誌を,ちょっと手に取って読むことができるように,小規模だが落ち着く閲覧スペースを新着雑誌書架近くに設置し,閲覧環境の改善も図ることになった。
3.2 改修までの動き
 30年を経て新着雑誌や抄録誌の書架を移動・撤去することで,レファレンスカウンター前に広い空間をつくることができた。この空間が,新着雑誌や抄録誌に代わり,今後の当センターの機能やサービスを象徴する場所となる。従来レファレンスカウンター前に設置していた「OPACコーナー」「データベース検索コーナー」の機能をさらに向上させることを多方面から検討するため,事務長,閲覧,レファレンス,デジタル環境の各担当から成る検討メンバーで,2005年6月に最初の打ち合わせを行った。基本コンセプト,スペースのデザインや什器の大まかイメージをまとめ,7月末に複数の業者に説明を行い,10月に業者を決定した。レイアウト,什器が決まると,それに応じて必要となる各工事や作業,日程等についてさらに具体的な検討を重ねた。電源やネットワーク工事に関しては,理工学部用度課,理工学インフォメーションテクノロジーセンター(以下ITC)に協力を依頼し打合せを行った。2006年1月に関係部署と業者との合同打合せを行い,日程,作業内容について最終確認を行い,2月上旬に2週間かけて工事が行われた。
3.3 改修内容
 1)レファレンスカウンター前のエリア
 前述の通り,エリア全体について検討を行った結果,3つの機能を持たせることになった。名称とコンセプトは以下の通りである。
 ・PCエリア
 それぞれにパソコンを備え付けた15台の充分に広い机と,座り心地の良い椅子を設置した,長時間落ち着いて利用できるエリア。一部の机は車椅子対応の高さである。レファレンスカウンターから少し離れた,窓近くの居心地の良い部分を広く確保した。壁は塗りかえたのち,ピクチャーレールを取り付け,ミニギャラリーを開設している。PCエリアを開設し,新たな環境を提供することが今回の改修の最も大きな目的であったため,準備には最も時間をかけた。机の大きさ,配置,パーティションの高さや色,椅子,カーペットなどを選定するにあたっては,カタログを見て,業者との打合せを重ねただけでなく,実際に目で確かめるためにショールームに足を運んだこともあった。
 ・データベース検索コーナー
 主にデータベースや電子ジャーナルを利用するためのパソコンを6台設置した短時間利用のエリア。混雑時に電子リソースが全く利用できなくなるということが起こらないよう,回転率をあげるため,レファレンスカウンター近くに設置し,スペースはあまり広くはとっていない。レファレンスカウンターに近いことで,スタッフが利用者ニーズを身近に感じ取ることができ,かつ利用指導を行いやすいという利点もある。
 ・OPACコーナー
 OPAC専用端末を4台設置したエリア。利用指導が行いやすいよう,レファレンスカウンター近くに設置した。OPACは長時間利用するものではなく,検索後はすぐに書庫に向かうことが多いため,4台の内2台は立ったままの利用ができるようにした。また,台の下には荷物が置けるよう棚を取り付けた。
 2)新着雑誌書架とラウンジ
 「新着雑誌書架」は「製本雑誌書架」の手前に新設した。「新着雑誌書架」に隣接したこの場所には,従来,古い索引誌等を収めた多くの低書架があったが,索引誌はその殆どを別館に移動し,低書架を撤去して場所を確保した。新しい「新着雑誌書架」は,ブラウズしたり立ち読みしたりできるよう,書架と書架の間を広くとった。雑誌の電子化に伴いこのエリアは縮小できるよう配慮している。また,新着雑誌書架横の窓際にスペースを確保し,ソファーとテーブル,スタンド照明を置いた「ラウンジ」を開設した。半透明の間仕切りを設置し,小さな書斎にいるような感覚で落ち着いて雑誌を読んだり,休憩したりすることができるようにした。
3.4 パソコン
 2006年度のリプレースを機に,利用者用パソコンは,決められた用途にのみ利用する一部を除きすべてをITC発行のアカウントで利用できるパソコン(以下,ITC認証PC)に置き換えることにし,「データベース検索コーナー」「PCエリア」に設置するパソコンはすべてITC認証PCとなった。これは,運用・管理の効率化,セキュリティ面を考慮してのことであったが,ITC認証PCは学生にとっては最も使い慣れた環境であり,日吉も含めたキャンパス内のワークステーション室に設置された他のパソコンと同じ環境で利用できることはメリットであると思われた。
 準備に当たってはITCに協力を依頼した。2005年9月に最初の打合せを行い,構想とおおまかなスケジュールについて話し合った。2006年1月末より,設置機器,搭載ソフトウェア,作業内容等について順次具体的に検討し,4月中旬にリプレース作業を行った。現在,創想館と本館の「データベース検索コーナー」と本館の「PCエリア」に,合わせて30台のITC認証PCが設置されている。ITCのネットワークプリンタも導入し,創想館「データベース検索コーナー」と本館「PCエリア」に各1台ずつ設置している。

4 改修後の状況
 改修後は,多くの方から「綺麗になりましたね」とか「使いやすくなりましたね」といった言葉をかけていただいた。学生からは「図書館らしくなった」という声も多く聞かれた。最近の学生が持つ図書館のイメージからすると,改修前の様子はやはり少々古びた印象だったのかも知れない。
 レファレンスカウンターは,利用者がスタッフに話しかけやすい雰囲気作りを心がけたため,以前よりも気軽に利用してくれるようになったようだ。立ったままでの応対に慣れていたので,椅子は利用されるだろうかと心配したが,利用者が座って,一緒に画面を見ながら時間をかけて相談に応じることが日常の風景となっている。
 「PCエリア」は開設するや否や大人気の場所となり,ほぼ一日中満席の状態である。ネットワークプリンタもよく利用されており,特に「PCエリア」に設置されたプリンタは,キャンパス内の他のプリンタと比べても印刷枚数が多いそうである。利用者はほとんどが学部生のようだが,大学院生や研究者にも時々利用されているようである。落ち着きすぎない環境に設定したつもりだった「データベース検索コーナー」も意外と落ち着いて利用されており,利用者の多い時間帯には満席に近い状態となる。ただ,パソコンの総台数が増加したためか,利用ができなくて困るというクレームは今のところ挙がっていない。
 パソコンの利用に関しては,学部生は全員がITCのアカウントを取得しているため問題ないが,教員や大学院生は必ずしもアカウントを取得しているわけではなく,一部の利用者から問合せやクレームを受けた。こういった利用者に対しては,変更の趣旨や他地区の状況,またITCで申請すれば利用出来ることを説明し,理解をいただいている。

5 おわりに
 インターネットの進歩,電子リソースの普及により,図書館の利用形態が非来館型へと変化している一方で,米国では「場所としての図書館」を考え直す動きが出てきている(参考文献1)(参考文献2)。つまり利用者のニーズに適した居心地の良い図書館空間を提供するということが見直されているのである。当センターにおいても,新しい環境に合わせた電子図書館機能と従来の印刷資料や閲覧機能をバランス良く取り入れ,来館型,非来館型の両方のサービスの発展に今後とも尽力していきたいと考えている。
 なお,改修は2年以上をかけて行われたものであり,この間には人事異動による担当スタッフの変更もあった。今回,たまたますべての過程に関わることのできた筆者が報告をさせていただいたが,これまでに中心となって計画を進めてくださった方々,ご協力いただいた他部署の方々,そして改修に関わったすべてのスタッフにこの場を借りて御礼申し上げたい。

参考文献
1)“Library as Place:Rethinking Roles, Rethinking Space”Council on Library and Information Resources. (online), available from<http://www.clir.org/PUBS/reports/pub129/pub129.pdf>,(accessed 2006-07-05).
2)根本彰.「場所としての図書館」をめぐる議論.カレントアウェアネス.no.286,2005,p.21-25.(オンライン),入手先<http://www.ndl.go.jp/jp/ library/current/no286/CA1580.html>,(参照2006-07-05).

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