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ナンバー13、2006年 目次へリンク 2006年10月1日発行
ティールーム
人やモノを感じるデジタルキャンパスを目指して
〜RF-IDによる「存在」の情報化とその流通〜
南 政樹(みなみ まさき)
政策・メディア研究科特別研究講師
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 RF-ID(Radio Frequency Identification)は,バーコードの発展形として商品を識別し管理を容易にするために開発された技術である。しかし,その可能性は非常に広く,多くの研究者は社会や生活の情報化を実現する基盤技術として注目している。
 RF-IDは,発信器(以下,タグ)の識別子情報(以下,ID)を読み取り器(以下,リーダー)で読み取る単純な仕組みである。多くの人が注目するのは,読み取りが簡単であり,さらにIDとその個体の情報を自由に紐付けして利用できる点にある。
 バーコードとの大きな違いは,同じ商品であっても実際に存在する一つ一つの個体に異なるIDが割り当てられる点にある。産地・流通経路・製造年月日などそれぞれの個体が潜在的に持つ情報が異なる場合でも,それぞれ独立して情報化できる。
 RF-IDの性質を知る上でもう一つ注目したいのがリーダーの読み取り可能な距離である。RF-IDには大きくパッシブ型とアクティブ型の二種類がある。パッシブ型は,リーダーが発する電波・電磁波などによって発生する電力を元にタグ内部の回路を動作させ,IDなどの情報を送信するタイプのRF-IDである。一方,アクティブ型は,タグが電源を持ち,一定間隔でIDなどの情報を送信するタイプのRF-IDである。一般的に読み取り可能な距離は,パッシブ型では数cm〜数mであり,アクティブ型では数m〜数十mである。
 湘南藤沢キャンパス(以下,SFC)でも,多くの教員・職員・学生がこの技術に注目しており,既に利用している事例もある。たとえば,非常勤講師の勤怠管理システムは,世界的なRF-ID技術の研究機関でSFCに日本の研究拠点があるAuto-ID Lab.とSFC事務室が連携して構築されたものである。また,毎年秋に開催されるオープンリサーチフォーラムでは,来場者が「ここは面白い!」と意思表示を行うツールとしてRF-IDを利用し情報化を行い,(本人の許諾を前提に)興味や行動を示す情報として戦略的なマーケティングに利用できることを示している。
  私がRF-ID技術に注目している最も大きな理由は,情報技術が苦手としてきた「実空間上に存在する人やモノを情報空間上で扱う」ことが簡便にできる点にある。さらに,これをきっかけにそれぞれの情報がインターネットを通じ結合することで,新たな価値が創造できる期待を持っている。
 このような背景から,我々のグループは文部科学省の「特色ある大学教育支援プログラム」に採択された「デジタルキャンパスの実現」の一環として,RF-IDを自由に利用できる基盤をSFCに構築し,人やモノの存在を情報化する取り組みを行ってきた。2006年9月までに,メディアセンター1階オープンエリアをはじめ,学生ラウンジ,教室(κ〜λ),大教室(Ω館),教員食堂,生協など主要なエリアを,比較的読み取り可能距離を稼げるアクティブ型RF-IDでカバーできるようにした。また,サンプルアプリケーションとして,約10名の教員有志にタグを持ち歩いてもらい,存在情報を常時公開することも行ってきた。
 これらの取り組みで,実空間における人やモノの存在を情報化しそれらの関係を客観的に捉えることができるようになると,行動支援やコミュニケーションの誘発,知識の獲得など日常生活をサポートする仕掛けを考えることができる。2005年に「情報環境論」という授業でこのインフラの利用方法を考える課題を課したところ,メールなどのコミュニケーションツールとの連携や混雑状況に基づいた人の誘導アプリケーションなどが提案された。今後,利用可能範囲の拡大によってさらに多くの仕掛けが生まれてくることに期待している。
 私は,人やモノの「存在感」が情報化され,あらゆる方法で伝えられることは,物理的な距離感を縮める一つの方法として大きな可能性を持つと考えている。これまでの取り組みはデジタルキャンパスの一部に過ぎない。今後も他の事例に縛られず,自由な発想と挑戦する気持ちで,次の5年,10年を担える環境の整備を継続していきたい。

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