1 はじめに 2006年3月27日から29日の3日間に渡り,米国フィラデルフィアで開催された国際図書館コンソーシアム連合(ICOLC:International Coalition of Library Consortia以下ICOLC)に参加する機会を得たのでここに報告する。 1997年に結成されたICOLCは,世界各国のコンソーシアムが一体となって,電子資源に関する様々な共通する問題に取り組み解決していこうというもので,これまでに,電子資源の保存や適正価格のあり方を示した声明文を発表するなどしている。年2回開催される会議は,春は北米,秋は欧州で毎年行われており,通算17回目となる今回の会議では電子資源の保存問題,電子資源経済,利用統計,電子ブックなどについてのセッションや,「グリル」と呼ばれる特定出版社(Nature,ACS(American Chemical Society))との直接懇談が行われた。
2 セッション 今回の会議では大きく4つのテーマのセッションが設けられていた。最初に報告者数人による問題提起の後,質疑応答という進行形式であった。
(1)保存とアクセス
6つのコンソーシアム代表者から所属機関の電子資源保存の取り組みについて紹介があった。オランダ国立図書館(KB:Koninklijke Bibliotheek)や日本の国立情報学研究所などの国の機関の取り組み事例や,トロント大学図書館のような1大学図書館のローカルリポジトリの事例報告があり,外部依存型の「Portico」や「LOCKSS」などについて報告があった。現時点で最も望ましい形がはっきりしたわけではないが,出版社の恒久性,技術進歩による媒体変化,天災など考えると重要な課題として真剣に検討しなければならないことを痛感した。
(2)電子ジャーナル経済
価格高騰に対抗するには,代替案をこちらから提案する事が必要という観点から以下の3つについて適切かどうか議論した。 (2-1)オープンアクセス オープンアクセスが価格高騰に対抗する唯一の解決策でもなければ万能薬でもないとの問題提起があった。学術資源を電子公開するには資金源が必要であるため,フリーアクセスは重要であるが別の課金モデルを考えなければいけないとの結論であった。 (2-2)利用統計による課金モデル 横断検索などにより利用環境が向上すると,利用統計は増加するものであるから,利用統計の数値で課金モデルを組み立てるべきではないという報告があった。しかし,代替案としてPay-Per-Viewモデルも適当ではないし,FTEによる利用者数課金モデルは,海外でも学生数が問題となるので,必ずしも適当ではないなどの意見が出て,具体的な優れた課金方法の結論が出るものではなかった。 (2-3)ビッグディールについて ビッグディールはサイズを削減する必要があり,そのために図書館側で数年間の利用統計を正しく分析して必要なタイトルの契約をするべきだとの意見があった。
(3)利用統計について
図書館で電子資源の利用統計を入手する際に現時点では非常に大変な手間がかかっており,COUNTER準拠のデータでも分析にはさらに手作業を必要とすることが報告された。これに対して,2005年にキックオフしたSUSHI(The Standardized Usage Statistics Harvesting Initiative)では利用統計を自動的に処理するための基準を出版社側に示すことを検討していることが報告された。
(4)電子ブックについて
いくつかのコンソーシアムから電子ブック導入例が報告された。電子ブックは,電子ジャーナルのように利用度が安定していないため,契約の参考になりにくい。また,出版社とアグリゲータ系の関係がまだ未整備であることや,ILLの問題などについて意見があった。
3 グリル 電子ブックアグリゲータの2社,価格高騰の代表格2社,統計ソフト2つについて版元側から直接説明があり,その後質疑応答があった。特に,NatureとACSでは質問の応酬がつきなかった。主な説明は以下のとおり。
(1)MyiLibrary
世界最大の図書供給会社Couttsによる電子ブックアグリゲータ。400近い出版社と契約協議中であり,世界中の主要な電子ブックを同じプラットホームで提供する。
(2)e-brary
現在88,000タイトルを収録する電子ブックアグリゲータで,InfoToolsというリーダソフトで提供する。
(3)Nature
投稿論文数が激増しており,却下率が90〜95%となっているため,新規タイトルの創刊をこれからも追加していく予定である。コストダウンの方策も採っているが,品質保持も重要と考えている。
(4)ACS
投稿論文の増加から却下率が上がり続けており,対応に苦慮しているが,2007年に新投稿システムを取り入れて,新価格を提案する予定である。
(5)Onelog
アクセスログを解析し,利用行動を分析するための統計ソフト。横断検索の対応も可能である。
(6)ScholarlyStats
COUNTER準拠のデータをグラフ化し,分析評価する統計ソフト。
4 コンソーシアム
ICOLCには,約150のコンソーシアムが参加している。会議の開催にあたっては,毎回開催地のコンソーシアムが準備などを進めるが,今回のホストはPALINETであった。PALINETはOhioLINK,SOLINETなどと並ぶ米国の大規模コンソーシアムの一つで,東部地域5州100以上の図書館からなり,今年70周年を迎えた。このように米国は地域コンソーシアムが古くから発達し,電子資源の契約・管理・運営においても活発に機能している。次回は秋にローマで開催されるが,イタリアのコンソーシアム代表者は秋に向けて熱心に課題の整理をしていた。
5 参加者 11カ国104名の参加であったが,参加者全てが魅力的な人々ばかりであった。その中でも特に印象に残った人を紹介する。
(1)Tom Sanville
ICOLCの代表者であるが,OhioLINKの代表でもあり,とにかくバイタリティにあふれ,頭の回転が速く,早口だが機知に富んだ発言には,毎時間圧倒され続けた。会議の直前までパソコンをフル活用して準備していたようである。いくつかのセッションではOhioLINKの報告をしたが,全てのセッションとグリルで最後のまとめを行い,彼の発言には誰もが共感していたようである。
(2)Syun Tutiya
JANUL(Japan Association of National University Libraries)代表として初回から毎回参加しており,ICOLCではかなりの人気者で,どのセッションやグリルでも活発に発言を繰り返し,各国の人々と休憩中も昼食時も夕食時も熱く語りあっていた。日本人として少し誇らしい気がした。
6 終わりに 電子資源を取り巻く環境変化はまだ途上であり,これに対応する図書館は課題がつきない。しかし,今回会議に参加して,自分達でまさに今,問題解決をしていくという姿を目の当たりにし感動した。アメリカ合衆国発祥の地フィラデルフィアでの開催の機会をいただいた事に感謝すると共に,この経験を日本のコンソーシアムに生かして今後も活動していきたい。
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