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ナンバー14、2007年 目次へリンク 2007年10月1日発行
特集 メディアセンターにおける電子情報
電子ジャーナル契約維持のために
南野 典子(なんの のりこ)
信濃町メディアセンター係主任
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1 電子ジャーナルに対するニーズ
 信濃町メディアセンター(以下信濃町)では,1990年代後期,試験的に提供が始まった無料の電子ジャーナル(以下EJ)の登録を手始めに,塾内ではいち早くEJの導入を開始した。1999年からはメディアセンター本部予算でProQuest, IDEALなどのパッケージを実験的に導入し(参考文献1),その後NPO法人日本医学図書館協会(JMLA)や公私立大学図書館コンソーシアム(PULC)へ参加するなど,現在では全塾契約パッケージは60を超え,利用可能なEJ総数は3万以上に及んでいる。
 EJ検索のために,全塾的には電子ジャーナル検索システムが提供されているが,信濃町でも独自に電子ジャーナルリストをホームページ上に掲載している。このリストに含まれるEJは,信濃町で費用分担をしている医学・看護学など専門性の高い約1,600誌に加えPubMedで索引されているなど一定の基準をクリアした無料の800誌,および全塾契約誌のうち自然科学分野及び関連分野の雑誌を加えた合計約7,000誌である。こうしたサービスの提供は,信濃町キャンパスにおけるEJの利用に対するニーズの高さに応えるためのものである。
 電子ジャーナルに対する要求の高さは昨年実施した,今後の電子ジャーナル契約に関するアンケート調査からも明らかとなった。少なくとも現在の購読数を維持して欲しいという意見が大半を占め,信濃町における研究支援の基本は電子ジャーナルの提供であることを再確認した。
 本稿では,信濃町におけるEJの利用状況および契約状況から明らかになった問題点をあげ,今後の方向性を検討してみたい。

2 利用されないEJ
 実験的導入から10年を経てEJの普及は加速度的に広がっている。特に2003年頃からの全文ダウンロード(以下DL)件数の伸びは目覚しい。2000年当時1,400回のアクセスを記録したBiochemical and Biophysical Research Communications(以下BBRC)は(参考文献2),2006年には4,900回を超えるDLを記録している。BBRCを提供しているScience Direct(以下SD)全体の全塾DL件数も2003年の13,000回から2006年の26,000回へと2倍になっている。しかし,キャンパスごとの利用状況を見るとその差は大きい。SD全体のDL件数は信濃町,矢上キャンパスで毎年80%以上を占めており,SpringerLinkは88%,Blackwell Synergyでは75%と同様の傾向を示している。
 EJの利用が増加している一方,全く利用がない,あるいは年間で一桁のDLしかされないタイトルが占める割合の高いパッケージも存在する。2006年のSDでは1,103誌中61誌は1回のDLもなく,288誌は年間10回以下のDLであった。また,上位100位までで全DL件数の60%以上を占めている。SDはそれぞれのEJについてプリント版とEJもしくはEJのみの契約をしているが,パッケージで契約しているBlackwell Synergyの2006年統計では,939タイトル中419誌にアクセスはなかった。このように半数近いタイトルが利用されない場合,パッケージでの契約が本当に有益か否かを見極める必要があるだろう。
 また,Blackwell Synergyと同様にパッケージ契約をしているSpringerLinkについて,キャンパスごとのアクセス状況をみてみた。理工学からは1回以上のアクセスがあったEJは723誌(70%)であったが,三田は359誌(34.8%),信濃町は333誌(32.2%),SFCが286誌(27.7%),日吉は187誌(18.8%)という結果であった。アクセス数10回以上のEJは,理工228誌,信濃町167誌,三田77誌,SFC31誌,日吉15誌という結果であった。しかし,アクセス数が30を越える雑誌については,信濃町が103誌,理工学は92誌,三田は30誌,SFCが12誌,日吉が2誌と,利用される雑誌の集中傾向は信濃町が高くなっている。

3 統計からみえなくなる利用状況
 信濃町では現在,全塾コンソーシアムの契約には含まれない約280誌を個別に契約している。その中でも最も重要な雑誌であるJournal of Biological Chemistry(以下JBC)について,論文の単価に注目したい。図1は,DL件数と1DLあたりの単価を示したものである。1DLの単価は,JBCの契約料をDL数で割ったものとした。DL件数が増えれば,1DLの単価は安くなることになる。しかし,興味深い変化が起こり始めた。2006年の実績では,JBCのDL数は減少したのである。考えられる要因としては,電子出版後6ヶ月を経過した論文へアクセスできるEJのオープンアクセス(以下OA)化である。つまり,最新部分は契約をしなければアクセスできないが,電子出版後一定期間(おおよそ6ヶ月から2年)を経ると無料となり,世界中から誰でもアクセスすることができる。一般的に文献の利用が最も高まる時期は発表後3年前後と言われているため,数年後には統計から見えるDL数は減り,1DLあたりの単価は高くなる可能性がある。実際,信濃町で個別契約をしているタイトルのうち,JBCを含めたDL件数の多い上位20誌中,19誌は一定期間を過ぎると無料で利用できる。そのうち14誌の2006年DL数は前年のDL数を下回っている。
 また,論文の投稿者が掲載費用を負担する方式のOA誌も増加する傾向にある(参考文献3)。Blackwell社では161誌が投稿者負担のOA誌であり,48誌が一定期間を経過した後無料でアクセスできるFree Back Fileタイトルになっている。このようなOA化傾向は,EJの価格高騰への批判とその対抗策として登場したが,統計による利用動向の把握は難しくなっている。しかし,DL単価の上昇や利用統計などの量的数値だけで,短絡的に購読の可否を決めるのは危険である。特に先導的な研究を目指す機関としては,タイトル数の多少を競うのではなく,研究に有益な資料をその質をみて選択すべきであり,速報性が重要な分野では最新情報を入手するためにもEJの契約は必須であると考える。

4 購読雑誌の値上がりによる購読中止
 メディアセンター全体の予算は2000年を境に下降傾向にあり,信濃町も2000年からはほぼ同額で推移している(図2)。一方,特に洋雑誌の価格は毎年値上がりしている。科学出版界の現状を調査したレポート(参考文献4)では,1984年から2004年における米国消費者物価は3.1%の上昇であるのに対し,American Research Librariesで発表している雑誌価格は7.6%の上昇であったことを指摘している。同様に,TenopirとKingの調査では商業出版,学会誌価格においては約3倍のインフレ率を示していることを報告しており,いかに学術雑誌の値上がりが大きいかがわかる。
 このような状況から信濃町では限られた予算内でこれまで購読してきた種類をできる限り減らさずに提供するために,プリント版を中止し,EJ化を進めてきた。EJの利用が浸透し始めた1999年には160誌を中止し,その後2005年,2007年と合わせて800タイトル以上の洋雑誌を中止した。この結果2,000誌以上あったプリント版外国雑誌数は,今や三分の一まで減っている(図3)。

5 ビックディール
 プリント版が減る一方で,アクセス可能なEJ数は増加の一途を辿っている。実験導入したIDEALは当初45誌に過ぎなかったが,その後ElsevierのSDに吸収され,慶應義塾全体ではSDだけでも1,000誌以上の利用が可能となっている。この他にBlackwell Synergy, Cambridge Journals Online, Oxford University Press, SpringerLinkなどいわゆるビッグディール契約も多い。ビッグディール契約は,一見廉価に見える価格設定がされているが契約には購読規模維持という条件が付き,前年度の契約額を下回ることが認められない。また,通常3年程度の契約の継続を条件に,プライスキャップという値上がり見込みが示され,確実に価格が上がる。継続の条件を受け入れない場合には,値上がり額がさらに大きく設定されてしまう。一方個別契約EJの価格形態は,サービス開始当初はプリント版に付随する無料もしくは小額を追加する設定だったものが,EJが普及するにつれEJ価格が別に設定されるようになり,プリント版と同額かプリント版よりも低く設定されるようになっている(参考文献5)(参考文献6)。
 このようにEJ数を順調に増やすことができたが,一方でこれらの契約を今後も維持できるかという問題に直面している。さらに,最近は個別契約タイトルもビッグディールと同様,学生数や教職員数をもとに契約価格が設定されるようになり,これもEJ価格の高騰に繋がっている(参考文献7)。いずれにしても,プリント版とEJをともに契約し続けることは不可能であるため,EJへの支払いが増加している(図4)。

6 購読を維持するために
 自然科学分野では速報性が重視されるため加速度的にEJが普及したが,検索からオリジナル資料の入手がデスクトップで可能となることは,人文・社会分野の利用者にとっても望まれるところであろう。本学ではできる限りどのキャンパスでも同じ環境でEJを利用できるように全塾的な契約を進めてきたが,そのための支払分担は電子化以前の支払い割合が基本となっている。予算の伸び悩み,契約価格の高騰により,全塾契約パッケージをこれまでどおり地区予算からの拠出に依存することは限界に達している。2008年4月には共立薬科大学と法人合併をするため,薬学分野の資料の強化も考慮する必要があり,ますます自然科学分野の占める割合が高くなるだろう。このままこれまでどおりの方法での地区分担を続けていくことは到底不可能である。EJのビッグディールに柔軟に対応するには予算の集中管理が不可欠であるとの報告もある(参考文献8)。図書予算の確保と提供すべき資料の見極めは重要であるが,目下の優先事項は地区縦割りになっている図書予算を見直し,全塾契約のための予算確保に向けた調整ではないだろうか。

参考文献
1)市古みどり.“医学メディアセンターにおける電子ジャーナル導入実験”.MediaNet.no.7, 1999, p.50-52.
2)平吹佳世子.“慶應義塾大学における電子ジャーナル利用状況統計分析”.医学図書館.vol.49, no.2, 2002, p.160-166.
3)Randy Dotinga.“急増する「オープンアクセス方式の学術誌」”.(オンライン),入手先<http://hotwired.goo.ne.jp/news/cultire/story/
20050415203.html>,(参照 2007-06-23).
4)Mark Ware Consulting Ltd.“Scientific publishing in transition:an overview of current developments”.available from <http://www.dab.hi-ho.ne.jp/cirrus/Links/Initiatives/OpenAccess.htm>,(accessed 2006-11-01).
5)加藤信哉.“電子ジャーナルの出版・契約・利用統計”.カレントアウェアネス.no.278, 2003, p.9-12.
6)加藤信哉.“電子ジャーナルのビッグ・ディールが大学図書館へ及ぼす経済的影響について”.カレントアウェアネス.no.287, 2006, p.11-13.
7)Frances L. Chen, et al.“Electronic journal access:how does it affect the print subscription price?”.Bulletin of the medical library association.vol.89, no.4, 2001, p.363-371.
8)Michael Roberts, et al.“The impact of the current e-journal marketplace on university library budget structures:some Glasgow experience”.Library Review.vol.53, no.9, 2004, p.429-434.

図表
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