MediaNet メディアネット
ホームへリンク
最新号へリンク
バックナンバーへリンク
執筆要項へリンク
編集員へリンク
用語集へリンク
慶應義塾大学メディアセンター
メディアセンター本部へリンク
三田メディアセンターへリンク
日吉メディアセンターへリンク
理工学メディアセンターへリンク
信濃町メディアセンターへリンク
湘南藤沢メディアセンターへリンク
薬学メディアセンターへリンク
ナンバー14、2007年 目次へリンク 2007年10月1日発行
特集 メディアセンターにおける電子情報
慶應義塾とグーグル社のライブラリ・プロジェクトでの提携について
杉山 伸也(すぎやま しんや)
メディアセンター所長・慶應義塾図書館長
全文PDF
全文PDFへリンク 184K

1 はじめに
 2007年7月6日,慶應義塾はグーグル社とライブラリ・プロジェクト(正確には,「Googleブック検索図書館プロジェクト」)において提携し,図書館蔵書のデジタル化をおこなうことを発表した。
 メディアセンターの使命は,塾内における教育・学習・研究・医療活動の支援,学術情報資源の保存と蓄積,および国内外の学術活動への貢献にあるが,メディアセンターもふくめて,現在大学図書館は多くの共通した課題に直面している。なかでもインターネットや電子ジャーナルの普及などの外部環境の変化と,それにともなう利用形態やユーザのニーズの変化にどのように対応していくかという課題は,メディアセンターの今後の方向性や次世代の図書館システムにかかわっている。
 グーグル社との提携については,慶應義塾の創立150年記念事業の一環として実施する方向で,関連部署によるタスクフォースを立ち上げ,さまざまな角度から実行可能性について具体的な検討をかさねてきた。その意味で,今回のグーグル社とのライブラリ・プロジェクトでの提携は,慶應義塾の創立150年記念事業の一環であると同時に,メディアセンターの「中期計画2006-2010」の一環としても位置づけられるプロジェクトである。

2 ライブラリ・プロジェクトの内容
 今回のグーグル社との提携は,慶應義塾のプレスリリースをはじめ,主要新聞各紙やIT関連のニュースでひろく取り上げられており,またライブラリアンとしてライブラリ・プロジェクトやブック検索についてはすでに知っていると思われるので,ここでは要点のみを記すことにする。
 グーグル社による書籍のデジタル化は,「世界中の書籍に含まれた人類の英知を検索可能にしようという取り組み」(グーグル社プレスリリース,http://www.google.com/intl/ja/press/pressrel/20070706.html)で,書籍のデジタル化は,2つの方法でおこなわれている。ひとつは出版社を対象とするパートナー・プログラム,もうひとつは大学図書館の蔵書をデジタル化するライブラリ・プロジェクトで,ともにGoogleブック検索で検索できる。
 世界の主要な図書館の蔵書をデジタル化するグーグル社のライブラリ・プロジェクトは,2004年12月に開始され,現在では,スタンフォード大学,ミシガン大学,ハーバード大学,カリフォルニア大学,ニューヨーク公共図書館,オックスフォード大学など欧米の大学図書館を中心にアメリカ,イギリス,スペイン,ドイツ,スイス,ベルギー6ヵ国の25機関が参加する国際的プロジェクトになっている。今回の提携により,慶應義塾大学は,欧米地域以外では,このプロジェクトに参加する最初の図書館となる。(なお本年8月にあらたにコーネル大学が参加し,慶應をふくめて27機関となった。)
 今回の提携プロジェクトでデジタル化の対象となるのは,慶應義塾図書館(三田メディアセンター)の蔵書のうち,著作権保護期間が満了した約12万冊である。内訳は,江戸中期から明治初期までに国内で発行された和装本約9万冊と,明治・大正期・昭和前期の日本語図書約3万冊である。
 契約期間は6年(以降1年ごとに自動更新)であるが,デジタル化作業は可能なかぎりはやい機会に終了する予定である。
 著作権処理は,現行の著作権法にしたがって慶應側でおこない,デジタル化する書籍を最終的に決定することになる。
 福澤諭吉の著書をふくむ慶應義塾関係の書籍約150冊については,2007年1月の公開をめざして先行してデジタル化を実施し,デジタル化が完了した書籍は,Googleブック検索で順次公開されると同時に,慶應のサイトでもグーグル社とは異なるインターフェイスで公開する予定である。

3 ライブラリ・プロジェクト参加の背景
 研究成果や教育活動など大学のもつ知的資産の公開と社会への還元は,いまや国際的な潮流となっている。とくにインターネットの普及とIT技術の進展により,ネットワークを介した情報の流通と知の共有が加速度的に拡大するなかで,ネットワークの整備がほぼ終了した現在,重点はコンテンツそのものにシフトしている。
 こうした流れのなかで,メディアセンターも機関リポジトリとしてKeio Academic Resource Archive(慶應義塾大学学術情報アーカイブ,通称KOARA)を構築して,塾内の紀要や研究成果をデジタル化して公開し,また大学の講義内容もOCW(OpenCouseWare)の国際コンソーシアムへの参加を通して一部公開されている。
 慶應における貴重書のデジタル化は,1996年のHUMIプロジェクトによるグーテンベルグ聖書のデジタル化を嚆矢とするが,メディアセンターも,福澤諭吉の初版版本55タイトル(全119冊)をはじめ,インキュナブラや高橋誠一郎浮世絵コレクションなど図書館や義塾所蔵の貴重書やコレクションのデジタル化をすすめ,デジタルギャラリー(http://project.lib.keio.ac.jp/dg_kul/index.html)で公開している。
 慶應義塾は,幕末以降の日本の歴史とともに歩みをかさねてきた総合的学塾で,その意味で,義塾の蔵書は日本の知的資産でもあるといってもよい。こうした蔵書コンテンツをデジタル化し,公共財として広く国際的に発信していくことは,慶應義塾にとって可能な国際的貢献であるばかりでなく,蔵書という人類の歴史的な知の蓄積を最新の研究成果と融合させることで,これまで出会うこともなかったあらたな知の創造を実現する可能性も期待される。
 とくに,今回のデジタル化により,地理的・時間的な制約をこえて日本語による図書資料の閲覧が可能になり,国内および海外の日本研究の進展にも寄与することができるだけでなく,さらにライブラリ・プロジェクトに参加している欧米の各大学との研究面での連携の強化も期待される。
 今回のライブラリ・プロジェクトへの参加は,福澤諭吉が明治時代に情報やメディアの重要性をいちはやく認識して,時代を先取りしたことを考えると,福澤の学問・研究に対する精神を現代において具体化するもので,慶應義塾が率先して「先導」するにふさわしいプロジェクトである。

4 ライブラリ・プロジェクトの意義と課題
 グーグル社との提携は,たんに蔵書のデジタル化が目的ではない。メディアセンターに問われるのは,デジタル化した蔵書コンテンツを,Googleブック検索とは異なるインターフェイスで,よりユーザ・フレンドリな図書館サービスを慶應として提供できるかどうかである。これは,次世代図書館システムとも密接に関連している。
 しかし,どのようなインターフェイスになるにしても,次世代図書館システムは,基本的につぎの2つの条件をみたす必要がある。それは,第1に,デジタル形態での図書資料の保存・蓄積と発信を前提とするインターネットとの高い融合性をもつシステムであること,第2に,来館型と非来館型の双方を視野に入れたハイブリッド型の図書館サービスが可能になるシステムであることの2点である。
 次世代図書館システムは,今後のメディアセンターの方向を決定づけることになるので,すでにライブラリ・プロジェクトに参加している欧米の各大学図書館のシステムや利用の状況について比較検討をする必要があるが,かならずしも十分な時間的な余裕があたえられているわけではないので,メディアセンターを中心に塾内のユーザの意見もききながら,集中的な議論をかさねていきたい。

5 おわりに
 「中期計画」も,このライブラリ・プロジェクトおけるグーグル社との提携をひとつの大きな機会として,さらに具体化されていくことになるが,そのためには,図書館内部のシステムや組織などの再検討の必要性もでてくる。
 メディアセンターが,欧米のトップクラスの大学図書館に伍して生き残っていくためには,「中期計画」でとりあげられている課題について,今後優先順位をつけて人材・予算および資源の集約化をおこない,特徴をもつ大学図書館へ転換していく必要がある。
 今回のグーグル社との提携を,どのようにポジティブに内部にとりこめるかどうかで,メディアセンターの真価が問われるといえるかもしれない。

 PDFを閲覧するためにはAdobe Readerが必要です このページのトップへ戻る
メインナビゲーションへ戻る
Copyright © 2007 慶應義塾大学メディアセンター All rights reserved.