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ナンバー14、2007年 目次へリンク 2007年10月1日発行
 
『日本の参考図書』は2.0の夢を見るか
―ハイブリッド環境下での二次的レファレンスツールの模索―
長野 裕恵(ながの ひろえ)
三田メディアセンター
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1 なぜ『日本の参考図書』か
 1962年,図書館員の選書ツールとして,あるいはレファレンスサービスを提供するためのツールとして登場した『日本の参考図書』が刊行されてから45年が経つ。その間,本書は日本で唯一無二の参考図書解題として版を重ね,最新の第4版は2002年に刊行された。一方,この間に図書館,そして社会を取り巻く環境は劇的に変化した。特に学術情報を含む情報の流通環境は,当時から見るとSFの域に達してしまったとも言える。図書館の中でも真っ先にその波にさらされたのが「参考図書」の一部である,文献索引や目録類だった。1970年代,米国でMEDLINEやDIALOGが登場し,日本でもJOISが稼働する。文献索引ばかりでなく,蔵書目録にもオンラインカタログが次々と導入された。
 特にインターネットが登場してからのデータベースの変化は大きかった。分厚いマニュアルと首っ引きでコマンドを入力して初めて検索結果が得られる旧式のオンラインデータベースは,誰でも使えるウェブベースのデータベースへと取って代わられた。同時に一次文献のデジタル化も急速に進み,文献の検索から全文の入手まで,図書館に来なくても,研究室の端末や自宅のパソコンで完了してしまうという時代がやってきた。昨今は今まで紙媒体で発行されていた文献索引が,発行形態そのものをデジタル版一本にするという動きも多い。日本でも国立国会図書館が編集発行していた『日本法令索引』が,紙媒体での刊行が終了し,オンラインの無料データベースへと完全移行した例などがある。このデータベースは,同時に国会会議録へリンクし,法令沿革から審議されたときの議事録を確認できるなど,紙媒体では考えられなかった機能を追加して,その利便性を向上させている。
 しかし,これらの事象は提供媒体が変化しただけで,情報を縮約して一覧させ,情報探索の一助となる「参考図書」(“図書”ではないかもしれないが)そのものが過去の遺物となったわけではない。かつて「オンライン検索」と言えばコレとコレ,と呼ばれたような時代と異なり,有料無料,また内容も玉石混淆のデータベースが巷にあふれている。一方で古くから継続して刊行される参考図書もまだまだ多い。その中には図書からCD-ROMへ,あるいはWeb版へと提供媒体を変更する資料もある。そのような紙とデジタルがハイブリッドに存在する環境において,どのようなツールを使えば,自分の求める情報を得られるかを提示する「参考資料解題」の重要性は,逆に増しているとも言えるかもしれない。
 しかしそれを一から作るとなると,人手と時間がかかることは自明の理であり,また改訂することもままならないようでは,早々に陳腐化する。そこで,まずは既に多大な労力をかけて作成され,評価も得ている『日本の参考図書』をオンラインデータベース化し,そこに今後成長できるようなシステムを取り入れてみよう,という試みが行われることになり,研究グループがたちあげられた。筆者はそこに「評価班」の立場で参加することになった。なお,本報告は,慶應義塾学事振興資金(平成17年度,平成18年度)の研究成果に基づくものである。

2 Web化とモニター館の反応
 『日本の参考図書 第4版』(以下,『第4版』)を刊行する際,組版の元となるデータは,デジタル形式で蓄積されており,その使用許可を著作権者の日本図書館協会からいただくことができた。その既存データを元にWeb形式のデータベースを作成し,プロトタイプができたところでモニター館を募り,意見を取り入れていくという手法がとられた。
 検索機能は,Googleのようにすべてのデータを一律に検索する簡易検索,項目を指定してキーワードを入力し,出版年などで絞込みができる詳細検索,そして冊子体の特性を生かし,分類を元にディレクトリ型で一覧することができるカテゴリ検索の3つのアプローチを用意した。また検索結果を一時的に保存し,後で一覧できるような簡易保存機能をつけることになった。
 検索機能が出来上がったところで,次のステップとして外部データベースへのリンク機能を取り入れることになった。手始めに各館OPAC, Webcat Plusなどの外部データベースとのリンク機能を付加した。また,Amazonのデータを使い,書影やAmazonへのリンクなどを自動的に生成する機能も追加し,モニター館へと公開した。
 当初モニター館は大学図書館に限定したが,その反応は『第4版』のデータだけでは物足りないという意見が多かった。新設校ではレファレンスブックの選書に役立つという意見も聞かれたが,実際にレファレンスの現場において役に立ったという意見は少なかった。大学図書館は特に専門的な資料も多く,『第4版』を事務用資料として所蔵はしていても,頻繁に使うことはないという理由もあったかもしれない。後半,モニターの範囲を公共図書館まで広げると,好意的な反応が多くなった。しかし同時に,大学図書館の所蔵が中心となるWebcat Plusではなく,NDL-OPACや総合目録データベース,レファレンス協同データベースとの連携を求める意見が多く見られた。いずれにしても『第4版』のデータだけでは新しい資料がヒットせず,物足りないという意見は多く寄せられた。
 そこで『第4版』の収録範囲以降の資料について,国立国会図書館より了承をいただき,試験的に『日本の参考図書 四季版』(以下,『四季版』)のデータを全件追加することになった。『四季版』のデータ項目が『第4版』と一致しない箇所が散見されたため,一部の検索機能,表示機能に手を加えることになったが,登録は無事終了し,収録件数はそれまでの3倍,約2万2000件に伸びることになった。
 個人的には,冊子体とは別の調べ方が可能になったという意味で,デジタル化した意味はあったと考える。例えばある人物の肖像を探しているとする。冊子体で事項索引の「肖像」を見ると1件しか出てこない。しかし,Web版で「肖像」と検索してみると,123件もヒットする。『外国映画人名事典』には,俳優の顔写真が原則添付されていることがわかるし,タイトルからは想像もつかない『教育人名辞典』にも,肖像写真があることがわかる。モニター館の意見にも,「著作権というキーワードで検索した場合,「特許」や「文化行政」に関する本もヒットするのがブラウジングで思わぬ本を発見するのに似ていて重宝する」という意見があったが,こうして解題を含むすべてのデータがキーワードとなることで,レファレンス質問に対し,今までとは違ったアプローチができる可能性がある。

3 今後へ向けて
 今後,さらに利便性をあげるためには,データベースや資料自体の収録数を広げることもさることながら,キーワードとなる情報を増やす必要があるだろう。モニター館の意見にも「解題がもっと長いほうが良い」「こういう使い方が出来たというコメントがつけられる機能が欲しい」というものがあった。しかし今までの『日本の参考図書』の出版には,解題の作成から編集まで膨大な人手と時間がかかっていたことも事実で,実際のところ新たなデータを新規に作成するのは難しいと言わざるを得ない。なるべく省力化した形で新しい情報,役立つ情報を付け足すには,他のウェブサービスとの連携,コメント機能,タグ付け機能などによる別の更新方法を考える必要があるだろう。モニター館の意見にも多く見られたレファレンス協同データベースとの連携や,簡単なコメント機能などにより,有用なデータが追加される可能性は高い。またそのような双方向性を確保することで,このデータベースを核に,レファレンスサービスと,それに付随するレファレンス資料情報の共有を図ることも可能ではないだろうか。
 まだ発展途上の本データベースであるが,今後日本図書館協会へと引き継がれ,協会の提供するウェブサービスの一つとして公開が予定されている。今後の発展に期待したい。

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