MediaNet メディアネット
ホームへリンク
最新号へリンク
バックナンバーへリンク
執筆要項へリンク
編集員へリンク
用語集へリンク
慶應義塾大学メディアセンター
メディアセンター本部へリンク
三田メディアセンターへリンク
日吉メディアセンターへリンク
理工学メディアセンターへリンク
信濃町メディアセンターへリンク
湘南藤沢メディアセンターへリンク
薬学メディアセンターへリンク
ナンバー14、2007年 目次へリンク 2007年10月1日発行
 
大学生の変化に伴う情報リテラシー教育プログラムの変遷
大橋 史子(おおはし ふみこ)
日吉メディアセンター係主任
全文PDF
全文PDFへリンク 193K

1 はじめに
 日吉メディアセンター(以下,日吉MC)の情報リテラシー教育プログラムは,実質的な取り組み開始から10年が経過し,講義形式による「情報リテラシー入門」も部分的な実施ながらほぼ定着してきたといえる。しかしこの間,高校で「情報科」が必修になるなど,図書館のみならず学生側にも変化が生じてきた。本稿では近年の情報リテラシー教育プログラムへの取り組みとして,先ごろ相次いでリリースされたオンラインチュートリアルを導入した授業形態,そして試みとして行った利用者アンケートを紹介する。

2 オンラインチュートリアルの導入
 「情報リテラシー入門」は,主として1年生を対象に1回完結90分間の形式で行っている。現在は法,商,理工の各学部で実施しており,商学部を除いては必修科目の1コマとして位置づけられている。このため年間を通すと,受講生は2,500名を超える(2006年度統計)。しかしながら数百人規模の大教室で行う講義は学生の反応が掴みにくく,後日提出される実習課題の結果を見ても,学生の理解度に疑問を感じることがままあった。90分間のストーリーでいかに学生を惹きつけるかが大切だが,概念だけでは学生の共感を得ることができない。回数を重ねるにつれて講義形式の限界を感じるようになった。
 これと時期を同じくして,日吉MCはオンラインチュートリアルKITIE(参考文献1)を公開し,翌年にはPATH(参考文献2)が登場した。ともに自習用システムだが,授業の印象付けには効果的であると考え,広報を兼ねて講義に取り入れてみることにした。
(1)KITIE
 「情報リテラシー入門」では冒頭の動機付けが,学生を注目させる最初のポイントであり,最も難しい部分でもある。パソコン設置教室では,解説のかわりに,まずKITIEのプレテストを全員で受け,求められるスキルのイメージを感じ取ってもらっている。「情報リテラシー」の定義は一言では説明しにくいが,20の設問で問われるすべてが情報の取り扱い能力に関連する,と説明すると学生も実感を持つことができる。教員への紹介も兼ね日吉MCではオンデマンドセミナーでもたびたび利用している。
(2)PATH
 PATHは動画を使い,より初学者を意識したチュートリアルとなっている。これを受けて,本年度の「情報リテラシー入門」はPATHを要所に配置したストーリーに変更した。動画を挿入することで,検索デモをなめらかに実施し,90分間の講義内容にメリハリをつけることができる。個々のモジュールが複数の章に分かれているので,持ち時間に応じて必要部分を上映できる。モジュール4「KOSMOSの使い方」は4月の蔵書検索セミナーでも活用した。またモジュール1「大学における学び」では,日吉の教員が画面に登場しメッセージを伝えるという演出が好評(!)である。
(3)内容のスリム化
 「情報リテラシー入門」にPATHを取り入れるにあたり,90分間の構成も全面的に組み直す必要が生じた。当初は講義中に新聞,統計,ネット上の資源など多岐にわたる情報源を紹介してきたが,実習課題に関する質問などを受けてみると,学生が消化しきれていない状況に気づく。盛りだくさんな内容であった授業は,これを機に「蔵書目録」「記事索引」を2本の柱としたストーリーにまとめ直した。

3 新入生の「図書館体験」
 授業の内容はシンプルにしたものの,これで良いのかという疑問は残った。情報検索という行為に意味が見出せない学生たちの「大学入学以前の図書館体験」はどのようなものなのか。彼らは図書館という場に何を求め,図書館はそれに対してどう応えられるのか。そんな疑問から,新入生を対象としたアンケート調査を実施した。
 内容は「現時点でのメディアセンターの利用」と「高校までの図書館体験」の2項とした。対象は「情報リテラシー入門」実施学部である法学部と商学部(理工学部は事前の承認が間に合わず見送りとした),またオンデマンドセミナーを実施した学部共通科目「地理学」でも,担当教員の承諾のもと実施させていただき,この結果1,000件を超える調査票を回収することができた。このうち200件(法学部2学科で100件,商学部50件,「地理学」50件)をサンプルとして集計したものの一部が表1である。
(1)メディアセンターの利用
 週に1〜2回,またはそれ以上の頻度で来館する学生が多いが,目的は予習や試験勉強のため,次いでパソコンの利用が多い。蔵書の利用は4割ほどで,全体としては「待ち合わせ」「居心地がいいから」といった声も含め,居場所として利用されている。日吉MCがキャンパスでの学生のスペースを提供していることは,授業のない空き時間に来館するケースが多いことからも判る。
(2)高校までの図書館体験
 大学入学以前の段階で図書館を「あまり/まったく利用しなかった」学生が3割を占めた。また図書館の利用経験がある学生の中でも,図書館がネット上で提供しているサービスについては4割が「使った経験なし/存在を知らない」と回答している。彼らにとって図書館は「本を借りられるところ」であり,それ以上の役割は認知されていないに等しい。

3 連携するプログラムへ
 これまで日吉MCは,学部1〜2年の教養課程の学生を主たるユーザーとする図書館として,情報リテラシー教育プログラムを重視してきた。今後もそれが変わることはない。しかし今後は教養課程から専門課程へ,連携を持たせたプログラムが求められてくるであろう。そしてその中で日吉MCが担うのは「図書館を認知させる」ことではないだろうか。サーチエンジンで手に入る情報しか知らず,「ネットで探せないものはこの世に存在しない」と信じている学生に,図書館の利便性を知らせることが最初の一歩である。
 2007年6月,日吉MCは教養研究センターと共催で,教員対象ワークショップ「メディアセンターサービス活用術」を実施したが,その中でも現在の学生が陥っている状況について触れ,図書館への誘導の意味も込めて,改めて教員に現在の日吉MCの活動を紹介した。初めての試みであったが,予想を超える反響をいただいた。これもまた図書館を知らせる活動につながる。日吉MCの取り組みは,またひとつ新たな扉を開いたところである。

参考文献
1)2005年7月公開。
日吉メディアセンター.“KITIE”.(オンライン),入手先<http://www.lib.keio.ac.jp/kitie/>,(参照 2007-06-28).
2)2006年9月公開。
慶應義塾大学メディアセンター.“PATH”.(オンライン),入手先<http://project.lib.keio.ac.jp/PATH/>,(参照 2007-06-28/修正 2009-04-01).

図表
拡大画像へ
リンクします
表1
拡大画面を表示
 PDFを閲覧するためにはAdobe Readerが必要です このページのトップへ戻る
メインナビゲーションへ戻る
Copyright © 2007 慶應義塾大学メディアセンター All rights reserved.