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ナンバー14、2007年 目次へリンク 2007年10月1日発行
 
「国際目録原則に関するIFLA専門家会議
(IME-ICC4)」に参加して
古賀 理恵子(こが りえこ)
メディアセンター本部
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1 国際目録原則に関するIFLA専門家会議とは
 現在の国際目録原則は1961年に採択された,通称パリ原則と呼ばれるものである。この原則に基づき英米目録規則(以下AACR),日本目録規則(以下NCR)等諸目録規則が定められているが,既に40年以上が経過し,目録一つをとってもカードからオンラインへ,取扱う資料も紙媒体・非図書・電子資料と多様且つ大量になるなど,この間の変化は相当のものがある。このような変化を背景に原則の見直しが始まり,「国際目録原則覚書」(注1)(以下フランクフルト原則)の草案が出された。この草案は,以下の通り世界の5地域で順に行われる「国際目録原則に関するIFLA専門家会議(IFLA Meeting of Experts on an International Cataloguing Code. 以下IME-ICC)」で提示され,検討・変更を加えられた後,新たな国際目録原則として形が整えられ,改訂されるという運びである。
開催年 開催都市 対象地域
2003年 フランクフルト 欧州
2004年 ブエノスアイレス ラテンアメリカ,
カリブ海諸国
2005年 カイロ アラビア語地域
2006年 ソウル アジア
2007年 ターバン アフリカ
 2006年には8月16日から18日にかけて(実質2日間)第4回目となる会議がソウルの大韓民国国立中央図書館で行われた(注2)。17か国61名の招待者のうち12か国44名が参加,座長である米国議会図書館(以下LC)のバーバラ・ティレットさんをはじめ,IME ICC企画委員会メンバーを加えた16か国49名が参集した。日本からの参加者は11名で,慶應義塾大学(以下慶應)からは酒井由紀子,酒見佳世,古賀が参加した。慶應には,ホスト館より協力依頼があり,現場の図書館員としての立場からなんらかの貢献ができればということで派遣された。
 本稿ではこの会議とそれをとりまく目録世界の動きについて簡単に報告したい。

2 国際目録原則覚書
 カード目録時代の業務を反映したパリ原則で取り扱われている範囲は,主に標目の形式と選択で,所蔵資料の管理および検索を実現させるための内容となっている。一方,フランクフルト原則はあらゆる種類の資料を想定し,インターネット上に展開する図書館目録における書誌レコード,典拠レコードといったより広い範囲を対象としている。また,IFLAの打ち立てた新しい概念モデル「書誌レコードの機能的要件(Functional Requirements for Bibliographic Records.以下FRBR)」(注3),および「典拠レコードの機能的要件と典拠番号(Functional Requirements and Numbering of Authority Records.以下FRANAR)」(注5)を取り入れ,図書館にとどまらず,美術館や文書館といった隣接するコミュニティでの相互利用を意識し,記述とアクセスを可能にすることを視野に入れている。
 また,FRBRはフランクフルト原則の重要な骨組みを担っているが,これは実体関連分析の手法で利用者の観点から目録の機能・目的について再検討しモデル化したもので,目録を所蔵管理のツールから利用者のために重点を移したものといえる(注6)。

3 会議への準備
 過去3回の会議の記録を見るとワーキングミーティングとして議論が活発であること,また,日本図書館協会の目録委員や図書館・情報学の研究者と同じ場に参加させていただくということもあり,初めは正直気後れがしたし,どのような準備をしたらよいかもわからず戸惑っていたが,愛知淑徳大学図書館の鹿島みづきさんが,ワーキンググループのテーマにまでおよび,丁寧に手引きをしてくださった。現在の慶應での目録業務について,度々の助言をくださっているが,今回も骨を折っていただくこととなった。
 パリ原則とはいかなるものか,そしてFRBRとはどのようなものかを前提にした上で,フランクフルト原則を読む。どのような意味を持ち,現状では何が不足しているか,そして実務者としてはどのようにとらえられるか…といった道筋のレジュメと,それを検証するために読むべき国内外の膨大な資料のリストが送られてきた。またそれらを読むだけでなく,2度にわたる解説の場を設けていただいたことで,自分ではわからなかった点が明らかになり,フランクフルト原則が奥深くダイナミックな取組みであること,様々な関連性を持ち,広範な認識が必要であるということがわかった。

4 会議当日の様子
 会議は第一日目にはInternational Standard Bibliographic Description(以下ISBD),FRBR,フランクフルト原則などについての講演,各国の目録規則についてカントリーレポートの発表が行われた。第二日目は5つのワーキンググループ,1.個人名,2.団体名,3.逐次性,4.統一タイトル・GMD,(一般資料表示)5.マルチパート・マルチボリュームに分かれ,それぞれテーマについての討論と,フランクフルト原則の各項目についての検討を行い,その後,全体での総括ミーティングを行った。酒井・酒見はグループ4に古賀はグループ5に参加した。
 ワーキンググループでの議題には日常業務で頻繁に生じる迷いが含まれていた。私たちが扱う“資料”は,ときに現在の規則で想定されている状況を越えている場合があるため,それは実は当然で,だからこそ目録規則改訂にあたっては焦点の一部になっている。
 情報のありようが多様化することでその物理的な形態の差別化は重要になってくる。また,何を著作の1単位とし,資料の関連性をいかにナビゲートするか,主題として関連する資料のジャンルや形式はどのように表現するか等,目録の有意性を追求する中で考えるべきことは多い。
 グループ5では,多巻によって出版される資料には様々な刊行形態・慣行があるという例を具体的にあげ,書誌単位をどこに置くか,書誌の関連・構造はどうなるかといった点について,各国のプラクティスを伺った。また,それらはFRBRではどのように描けるか,物理単位(physical unit)という概念はどうなるだろうかなど話題が広がった。その結果,原則の検討には多くの事例が必要であること,また各国で違いがある中で,標準化することが必要であるという認識は得られたが,具体的な妥協点や意見を求めるには時間が必要であった。
 なお,会議における議論の詳細については既に「図書館雑誌」や「全国書誌通信」等に報告されているので,そちらをご覧いただくこととしたい(参考文献1)(参考文献2)。
 今会議の場合,個々のワーキンググループの場でも,韓国語をハブにしたウィスパリングで日本語・中国語・英語の通訳がついた。カントリーレポートを聞くにあたっても,アジアは地域でいうと大変大きく,その国状も,言語・文化も様々であるし,共通言語がない難しさも改めて実感した。
 どれだけ自分の考えを持つか,関連する知識を持ち備えるかが重要であるが,言語の壁はやはり厚いように思われ,英語によるメーリングリストでのやり取りなども今ひとつ活発には行われていない印象を受ける。

5 今後の予定
 各ワーキンググループで議論された草案に対する変更提案については,座長のバーバラ・ティレットさんによりまとめられ,アジアミーティング参加者の出来る限りの合意の下,IME-ICC参加者に提示される。そのためミーティング終了後もメールで投票が行われている。
 2006年12月と2007年3月に二度の投票が行われたが,話題になったのは“コントロールされたアクセスポイント”の定義,“物理単位(Physical unit)”をGlossaryに加えるか,継続資料について刊行頻度を書誌の必須要件とするか,といったことである。反対する場合は論拠を示し次回の投票で参加者の再判断を仰ぐといった,議論としては正規の手続であるが,それぞれの方が大きな流れを自分のこととして受け止めて,討論する姿勢は大変印象深かった。
 2007年にはターバン(南アフリカ共和国)でアフリカ地域を対象とした最後のリージョナルミーティングが行われ,最終案がまとめられる。

6 目録をめぐる動き
 IME-ICCの開催と平行してISBDやAACRの改訂/準備作業が行われている。国際目録原則の改訂に基づき,順次,AACR, NCRと改訂が行われていくこととなるが,三訂版となるAACRは,デジタル環境に適応した柔軟性を反映し,名称も『資料の記述とアクセス(Resource Description and Access:RDA)』(注7)となる予定で,ユーザーフレンドリーであるとともに,他のメタデータ規則を持つコミュニティとの融和を意識した指針が示されている。また,FRBRの要素を取り入れた関連付けの規定や記述に関する章が設けられるようである。
 情報の多層性・アクセスの多方向性に応えるため,目録にも立体的な視点を求められる。利用者の視点とも言えるだろう。しかし,それは記述方法を定めるだけでなく,システムとの密接な関わりで表現が可能となる。ICC, RDA改訂の過程でも,機能の実現にはシステムコミュニティとの連携が必要であることが明言されている。
 目録がオンライン化されたことでグローバル化は必至である。言語的な違い等問題はあるが,国際標準の型が定められたとき,日本国内の目録規則・システムにとって,その潮流に乗らないという選択はありえるだろうか。
 目録はオンラインに世界がひらけたことで,管理や所在の有無を示すだけに留まらない多様性を持ちうる。しかし一方で,各図書館における目録の作成は委託化が進行しているのが実情である。コストを削減することは誰もが望むことだが,同時に機能の充実を追及するにはどうしたらよいか。
 もともとFRBRは全国書誌を作る機関にとっての要件であり,各国の目録規則も同様といえる。各館での人的努力よりも,多機関での連携も考えられるし,より大きな,国としての取り組みも期待されるところである。少なくとも,集約と関連の広がりをもたせるためには(FRANARやFRBRを部分的にでも実現させるためには),参照可能な典拠が必要である。
 また,現在,OCLC, LC,ドイツ図書館の三者による「バーチャル国際典拠ファイル(Virtual International Authority File:VIAF)」(注8)が構想されているが,このようなプロジェクトを考慮しても,現状のような,国会図書館,国立情報学研究所,商用MARCのそれぞれが作成した典拠をバラバラに使うのでなく,著者・タイトル・件名を含め,国として統一した典拠が作られれば,より大きな恩恵が得られるのではないだろうか。

7 国際会議を経験して考えること
 様々な可能性が示されたとしても,実務・現場とどう折り合いをつけていくかは大きな課題である。会議の準備段階で,パリ原則とNCR,慶應のプラクティス(テキストの和洋に関わらずAACRII2002年改訂版に基づく),フランクフルト原則の比較を行った。様々な制約がある中で,目録で何を提供するか,目録の目的・目標を明確することは重要なことだと再認識した。その上で方針を定め,書誌で何を記述し,コントロールすべきかを考えて,必要な作業をしなくては一貫した目録は構築できない。
 たとえば,慶應一館においては“関連”のコントロール,主題のコントロールの範囲をどうしていくか,といったことである。
 会議参加にこぎつけるため,準備段階から様々なバックアップしていただいた。特に貴重なお時間を割き,初歩から指導してくださった鹿島さんには重ねて御礼申し上げたい。
 ルーティンとしての業務とより大きな流れへの視界,両者を融合させて自分の仕事・考えを構築していくことができるか?図書館員としての今後の自分の仕事のスタイルにも大きな課題と提言をいただけたように思う。

参考文献
1)永田治樹ほか.“第4回IFLA国際目録規則専門家会議(4th IFLA Meeting of Experts on an International Cataloguing Code:IME ICC4)報告”.図書館雑誌.vol.100, no.12,(通号997号)2006年, p.822-825.
2)原井直子,横山幸雄.“アジア初の目録専門家会議―IME ICC4報告―”.全国書誌通信.vol.125, 2006年, p.1-3.


1)全文(本原稿執筆時の最終案は2007.3.6改訂のもの)が上記1)内に,日本語訳が「国際目録原則覚書」に掲載されている(PDF)
(オンライン),入手先<http://www.ddb.de/standardisierung/pdf/
statement_japanese.pdf>,(参照2007-07-09).
2)IFLANE“4th IFLA Meeting of Experts on an International Cataloguing Code”大韓民国国立中央図書館HP内.(オンライン),入手先<http://www.nl.go.kr/icc/icc/main.php>,(参照2007-07-09).
会議資料や報告,投票結果等もあわせて掲載されている。
3)IFLA Study Group on the Functional Requirements for Bibliographic Records「Functional requirements for bibliographic records:final report」(PDF)
(オンライン),入手先<http://www.ifla.org/VII/s13/frbr/frbr.pdf>,(参照2007-07-09).
4)“翻訳「書誌レコードの機能要件:IFLA書誌レコード機能要件研究グループ最終報告:IFLA目録部会常任委員会承認」”.日本図書館協会.2004年
5)IFLA Working Group on Functional Requirements and Numbering of Authority Records「Functional Requirements for Authority Data A Conceptual Model:draft」(PDF)
(オンライン),入手先<http://www.ifla.org/VII/d4/FRANAR-ConceptualModel-2ndReview.pdf>,(参照2007-07-09).
6)OCLCではWorldCatをFRBRに準拠させる“FRBR化”(FRBRization)プロジェクトが進められ,その実現可能性や実現に伴う課題の検証を行っている。プロトタイプシステム『FictionFinder』のベータ版が,2006年12月に公開されたが,このシステムでは,WorldCatから抽出された小説の書誌レコードを,“FRBR風”(FRBResque)に検索・表示することができる。
(オンライン),入手先<http://fictionfinder.oclc.org/>,(参照2007-07-09).
7)Joint Steering Committee for Revision of AACR:RDA
(オンライン),入手先<http://www.collectionscanada.ca/jsc/rda.html>,(参照2007-07-09).
8)OCLC「VIAF:The Virtual International Authority File」
(オンライン),入手先<http://www.oclc.org/research/projects/viaf/>,(参照2007-07-09).

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