2008年6月2日から4日まで,フィラデルフィアでリサーチ・ライブラリ・グループ・プログラムズ(以下,RLG)の年次大会が開催され,欧米の大学図書館,研究図書館,博物館,美術館などの館長,副館長クラスを中心に約150名が参加した。RLGがOCLCに統合されたとはいうものの,図書館関係者のあいだでRLGの活動にたいして根強い期待感のあることが感じられた。 フィラデルフィアは,福澤諭吉がかつて「其気風品格の高尚なる」「後進生の亀鑑」と讃えた馬場辰猪の終焉の地であり,慶應にとってもけっして無縁な地ではない。馬場が38歳の若さで,ペンシルヴァニア大学病院で不帰の人となったのは,ちょうど120年前の1888年11月のことであった。ウッドランズ墓地に笹にかこまれて眠る馬場のオベリスク状の墓碑には「大日本馬場辰猪之墓」,台座にはローマ字で「TATSUI BABA/DIED NOV. 1. 1888/AGED 38 YEARS」と刻まれ,この馬場の墓を訪れる人は,異郷における馬場の「無念さ」にしばし熱い想いを馳せずにはいられまい。 さて,年次大会第1日目は,午前中に,RLGの基本方針とWork Agendaについて,エンドユーザと図書館の管理・運営をつなぐ利用者環境,図書館コンテンツ,経営環境などを中心に趣旨説明がおこなわれ,午後は,分科会のテーマについて説明があった。第2日目は,“The future of collections”,“New service(and co-development opportunities)”,“New modes of scholarship”,“Renovating description and practice”の4分科会にわかれ,午前中はRLGからテーマについての詳しい趣旨説明と報告があり,午後はすべて討論にあてられた。今回の大会では,「コレクションの将来」分科会の報告として,慶應のグーグル図書館プロジェクトについてのプレゼンテーションを依頼されていた。出席者は約40名。報告では,慶應義塾図書館の概要,デジタル・ギャラリーなどデジタル化事業の現状,慶應のグーグル図書館プロジェクトの内容,プロジェクト参加の意義などについてふれ,公共財としての蔵書コンテンツのデジタル化の意味,デジタル・コンテンツの流通のむずかしさ,マイナー言語としての日本語書籍のデジタル化の意義について話をした。慶應のGoogleへの参加については,とくに東アジア関係のコレクションをもつ大学図書館からの期待が多くきかれた。 大会直前にマイクロソフト社の書籍デジタル化事業からの撤退表明があったが,グーグル図書館プロジェクトにかぎらず,参加者の図書館蔵書のデジタル化にたいする関心は非常に高く,デジタル化の図書館や研究者へのインパクトについて活発な議論がおこなわれ,デジタル化を軸に図書館のパラダイム・シフトがおきていることが実感された。それと同時に,デジタル化による蔵書の共有化が進展するなかで,蔵書の共同利用,共同保存書庫の設立など図書館相互間の連携と再編がはやいスピードで進展しているという印象をうけた。とくに各図書館が,蔵書構築に関連してスペシャル・コレクションやユニーク・コレクションを中心に各図書館の特徴を顕著にしながら,対外的なアピールに努力していることも感じられた。 今年5月にはOCLCとグーグル社とのあいだで書誌レコードの相互交換に関する協定が結ばれ,今後WorldCatとGoogle Book Searchとが相互にリンクされるようになる。OCLCにとっても,RLGの今後のデジタル化事業の展開が大きな鍵をにぎっているといえよう。ユーザにとっても,検索の対象は,OPACをはるかに超えて,インターネット上で公開されるデジタル化された蔵書や資料へさらに拡大していく。そうした環境変化のなかで,慶應の図書館も,海外の大学図書館や研究図書館と,どのような協力関係を構築することで国際的な知的活動の一端をになっていくことができるのか,国際的な視野から考えなければならない重要な時期にさしかかっている。
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