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ナンバー15、2008年 目次へリンク 2008年10月1日発行
巻頭言
理工学メディアセンター所長に就任して
椎木 一夫(しいき かずお)
理工学メディアセンター所長
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 昨年10月に,はからずも理工学メディアセンター長を拝命しました。ここ数年,まともに図書館に足を運んだことがなかったので,まさに晴天の霹靂といったところです。最近は便利なもので,研究室はもちろん,自宅からも電子ジャーナルを見ることができます。これまで,その幸せな環境をもっぱら享受するばかりで,実はその裏にメディアセンター職員の方々の日頃の努力があったことを知りませんでした。しかも大変な努力にもかかわらず,図書館が危機に瀕しているとは全く気がつきませんでした。
 電子ジャーナルのような便利なシステムができたのは最近のことです。紀元前7世紀にアッシリアの王アッシュールバニパルは権力にまかせて文献を集め図書館を作ったと言われています。図書館には,神話や医学などの学術書が約3万点の粘土板に記録され,収蔵されました。王は世界の知識を集めたことを誇り,力を誇示しましたが,一般人がその知識を活用できたとは思えません。
 アッシリアの帝王は姿を変え商業出版者として現代に復活しました。王は,権力のかわりに「研究者の評価システム」をたくみに利用して,世界の知識を集めて電子ジャーナルを作りました。最初,彼らは人々にその便利なシステムを安価な値段で提供して世の中に浸透させ,無くてはならぬものにしました。今は何人も彼らの言うことを聞かざるを得ません。彼らは毎年,およそ8%ずつ価格を上げて来る上に,必要のないものまで買わせようとします。そのため早ければ来年にも,理工学部の予算では電子ジャーナルが賄い切れなくなりそうです。帝王は世界の知識を集めて富を得ましたが,結局その知識を使えるのは,お金持ちの特権階級だけということになりそうです。
 ところで,アッシュールバニパルの図書館は19世紀半ばに発掘され,メソポタミア文明を現代に伝えました。楔形文字が記された粘土板は大英博物館に保管されて,今後もその情報を長く後世に伝えていくに違いありません。そういう意味では,王の業績は高く評価されるべきでしょう。電子ジャーナルはどうでしょう。もし核戦争で今の文明が滅びたとすると,その情報はあとに残らないかもしれません。
 半導体メモリーのように電気的に蓄えられた情報は消えてなくなるでしょう。DVDやCD(R)は化学的に不安定です。ハード・ディスクは磁石のNとSで情報を記録しますが,それも何千年ももつとは思えません。現代の情報化社会を支える電子情報は,バックアップを続けなければ,実は短寿命なのです。
 今の文明が滅べば現代は空白の時代になってしまいます。3000年後に私たちの文明が掘り出されても,それがどういうものだったか,分からないのです。しかし,大英博物館を発掘してみると,そこには6000年前の粘土板があって,その時代の情報を伝えているのは,なんとも皮肉なものです。現代の帝王は,このままでは文明に,なにも貢献できそうにありません。
 もちろん,電子ジャーナルは粘土板に比べればよいところがたくさんあります。せめて今生きている間に,私たちの文明のために,電子ジャーナルを役立てたいものだと思います。世界の中には,ナショナル・プロジェクトで共同体を作って帝王に対抗しようとする賢い人たちがいます。また,オープンな電子ジャーナルを作るなど,商業出版社への投稿拒否の動きもあります。しかし残念ながら,日本国内では未だ十分な対抗策は取られていません。今メディアセンター長としては,帝王と戦うために,皆様のご協力を切にお願いする次第であります。

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