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ナンバー15、2008年 目次へリンク 2008年10月1日発行
 
利用者調査ワーキンググループ活動報告
―学部生に対するフォーカスグループインタビューを中心に―
浅尾 千夏子(あさお ちかこ)
湘南藤沢メディアセンター
藤本 優子(ふじもと ゆうこ)
日吉メディアセンター
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1 はじめに
 慶應義塾大学メディアセンターでは,2006年に「メディアセンター中期計画2006―2010」(参考文献1)を策定した。この中期計画では4つの柱があり,その中の1つである「環境変化に対応した図書館サービスの実現」のための行動計画(参考文献2)として,ポータルサイトの構築,重点サービス群,基盤整備が挙げられている。この基盤整備の一つとして利用者調査が位置づけられ,“利用者ニーズを把握し,サービスの改善を図るための調査を行う”ということを基本的な役割とし,ワーキンググループが立ち上がった。本稿は,利用者調査ワーキンググループ(以下,利用者調査WG)の2007年度活動報告である。

2 2007―2008年の活動概要
 利用者調査WGは,2007年2月から活動を開始した。行動計画を策定し,その計画に基づいて2007年度は,主に以下の3つの活動を行った。
 はじめに,利用者調査にあたって必要な知識を得て共有するために,図書館評価(参考文献3)と国内外で実施された利用者調査についての先行調査(参考文献4)を確認した。
 次に学習と図書館利用についての学部生の実態調査を行った。この調査の目的は,現中期計画の重点目標となっている学習支援サービスの方向性を確認することである。
 そして,国際ワークショップ「図書館利用者を知る:LibQUAL+®によるサービス評価」を開催した。LibQUAL+®とは,図書館サービスの質をウェブによって調査するツールであり,慶應義塾大学では2008年度の実施が決定していた。そこで,LibQUAL+®の実施に向けて慶應内に利用者調査の目的や手法を紹介するとともに,国内図書館関係者と知識を共有し図書館評価活動を促進することを目的としてワークショップを実施した。
 2008年度は,次期中期計画のために現中期計画で実行中のサービスを評価するLibQUAL+®の実施に向けて活動している。本稿では,2つ目に挙げた実態調査のみ報告する。

3 学部生の学習と図書館利用についての実態調査

(1)フォーカス・グループ・インタビューとは
 今回の実態調査ではフォーカス・グループ・インタビュー(以下,FGI)という手法をとった。FGIは,“具体的な状況に即したある特定のトピックについて選ばれた複数の個人によって行われる形式ばらない議論”(参考文献5)のことである。グループで議論することによって,自分でも気付いていない潜在的なニーズを掘り起こせることが,FGIの特徴のひとつである。

(2)概要
 調査の目的は,学部生の学習の実態を把握し,図書館における学習支援に対するニーズを明らかにすることである。
 調査対象は,学習支援の対象となる日吉キャンパスと湘南藤沢キャンパス(以下,SFC)の学部1・2年生である。図書館によくくる人だけでなく,図書館にこない人も対象とした。
 参加者の募集は,1年生については4月に日吉およびSFCで行われる全員が出席することになっているガイダンス時に募集のちらしを配布した。2年生については,教員に協力を依頼し,授業内にちらしを配布してもらった。その結果,日吉149人,SFC31人が集まった。7月のインタビュー実施直前に,4月に集まった学生に対し,図書館によくくるグループとこないグループに分けるためのアンケートをつけて,参加の最終確認メールを送った。図書館にこない人が少なかったため,学事センターや学生総合センターに協力を依頼した。その結果,日程が合った図書館によくくるグループ(日吉5名,SFC5名)と図書館にこないグループ(日吉7名,SFC6名)の計4グループ23名の参加となった。
 2007年7月20日にSFC,27日に日吉キャンパスで2時間程度のインタビューを行った。インタビュー内容は,学習方法,学習上の問題点,図書館の利用実態,図書館に望むこと,現在のサービスに対する満足度,図書館の新コンセプト案の6項目である。司会はWGメンバー4名が交代で担当した。
 分析作業は,WGメンバーが記録したカードと参加者の同意を得て録音したデータから発言をエクセルに書き起こした。約900行の発言を全員で読み込み,発言の意味や思いを解釈した。そして,発言ごとにラベルを付与し,カテゴリを抽出した。

(3)分析結果
 WGの分析作業でまとめた以下の4つの図表を元に,FGI調査で見えてきた分析結果を示す。より詳細な分析結果については(参考文献6)(参考文献7)の文献を参照のこと。

a 館内の明確なゾーニングの必要性図1
 学生が科目の予習や復習,試験勉強等をするには,一人で集中する場所を求めている。一方,学生は講義の内容等でわからないことがある場合,友人と一緒に教えあい学習する。このような学習の際にはグループで話が出来る場所を欲している。これまでも図書館は,個人のための机やグループのための机の設置などの場所を設けてきたが,より目的に沿ってデザインされたゾーニングが必要であろう。

b キャンパスごとの学習方法の違い図2
 日吉キャンパスにおいては,教科書,自分や友人のノート,試験の過去問と回答といったものが学習の中心にあげられ,主として講義内容について確認される試験対策としての勉強が中心である一方,SFCではWeb,はんだごて,映像編集機等があげられており,ものづくりや創造的提案のための学習が中心であることがわかる。この結果から,日吉キャンパスでは学習を支援する材料として,学生の学習成果物の蓄積や提供,SFCでは,ものづくりや創造的な提案を支援するための道具を備えた作業場の設置が求められると言える。

c ウェブサービスの認知度
 学部生が学習する中で,図書館のウェブサイトは,どのように認知されているか。コンテンツの中心であるゲートウェイサービス,データベースや電子ジャーナルは,学部生の学習の中には入っていなかった。「ホームページは見ない」という意見が殆どであった中,唯一OPACは利用しているという結果から,OPACを中心に据えたコンテンツサービスが有効であると考えられる。

d 学習をする上で必要とされている人
 学部生がわからないことを聞く相手は,自分が知っている人,聞きたい内容について答えられる人の2つに絞られる。「自分が知っている人」の代表は友達であり,その理由としては,「知らない人には聞きづらい」「知らない人に聞くのは恥ずかしい」等があげられている。「聞きたい内容に答えられる人」とは,授業の担当教員,TA・SA(教員の授業運営や資料作成をサポートする学生アシスタント),同じ授業を履修している学生であり,学生は自分が欲している知識,スキル,情報を持っていることが確実な人に聞いているとことが分かる。教員に対しては,最も聞きたい対象であるが「忙しそうで聞きづらい」,「大学には研究個室しかなく,どこに聞きに行けばいいかわからない」といったコメントもあった。

e 図書館員に対する印象
 図2からも読み取れるように,学部生にとって「図書館の人」は「何をしてくれるのか,よく分からない人」であると言える。このことから,まずは「学生と一対一の関係を築くこと」「彼らに知っている人」として認知してもらうこと,そして図書館員が何について知っていて,何を答えられるのかを明確に学部生に示す必要がある。

f 飲食ルールと読書空間図3
 学習以外のニーズとして特に高かった飲食関係と読書空間を示した。飲食については,勉強すると「お腹が空くし喉も渇く」「本格的な食事ではなく,学習の合間に少し食べたり飲んだりしたい」という意見とともに,飲食が解禁された場合「汚れたりして環境が悪くなるのは嫌」「ルールはあっていい」との意見が出された。このことから,学部生は公共の場としての妥当なルール設置と,エリアを限定した飲食許可ルールの設置の並存を求めていると言える。次に読書・読書空間に関しては「読むための本,DVD,CDがもっと欲しい」「本についての情報(内容の要旨,書評,お勧め本,新刊案内)が欲しい」といった意見が多く出された。さらに表紙を見せる,コーナーを設ける,ポップを出す等,見せ方・置き方を工夫してほしい,というコメントが出された。また「本を読むためのソファが欲しい」「入館者のチェックはちゃんとして欲しい」等のコメントから,図書館は安全で快適な場所であってほしいというニーズが浮かび上がってくる。

g 図書館で提供しているサービスの使いやすさ図4
 現在のサービスへのニーズとして,提供しているサービスの全体像が見えにくい為に分かりにくい印象を与えていることが分かる。サービスを知ってもらうためには,一目でわかるナビゲーションの工夫が必要である。さらに手続き時にかかる煩雑さや経済的負担の軽減,時間の短縮等,よりスムーズでストレスフリーであることを求められている。次に図書館員に対しては,「やってもらえなそう」「言い出すには遠慮してしまう」等の障壁があることから,まずは利用者との信頼関係づくりが肝要である。またガイダンスや情報リテラシー教育については,知ってはいるが「知りたい時期ではなかった」「説明会に出るのは面倒だが,レポートを書く際には参考にしたい」等の意見から,学生が求めている時に提供出来るプログラムづくりを考えていく必要がある。

(4)活用事例
 上記の分析結果を踏まえ,FGI調査を行った日吉・SFCメディアセンターの活用事例を紹介する。

a 日吉メディアセンター

(a)教員への情報提供
 2007年から日吉メディアセンターでは教養研究センターと共催で教員対象ワークショップ「メディアセンター・サービス活用術」を実施している。このワークショップの目的のひとつは現在のメディアセンターの活動を教員に紹介することである。
 2007年11月と2008年6月に実施したワークショップでは,FGIによって浮かび上がってきた学部生の「学習に必要な道具・場所・環境」,「学習に必要な人」,「学習以外のニーズ」の3点を紹介した。教員が知る機会の少ない学生の学習の実態やニーズを伝えることができたのではないだろうか。

(b)ブックカバーの利用
 現在,日吉では学生の読書推進を目的として読書推進ワーキンググループが活動している。その活動のひとつに図書館では通常廃棄してしまう新着図書のブックカバーの利用がある。これは,「資料の情報(内容・装丁)がほしい」という学生のニーズに応えるひとつの方法であると考えている。具体的な利用方法として以下に二点挙げた。
 第一に,ホワイトボードを使ったカバーの展示である。1階新着図書棚の横にホワイトボードを設置し,新着図書のブックカバーをはり付けている。日々入ってくる新着図書の全てのカバーをはることはできないため,慶應の教員著作や目を引くカバーなどを選び,学生が飽きないように毎朝開館前にはり替えている。
 第二に,企画展示用の展示ケースでの利用である。入れ替えのため展示ケースが空になった数日〜1・2週間の間,ホワイトボードにはりきれなかったカバーも含めて展示ケースに無造作にちりばめている。整然と並んでいるよりも興味がわくのか,足を止める学生をよく目にする。

b SFCメディアセンター
 SFCメディアセンターでは,FGI調査の結果は,この事業計画が学習支援の方向性に沿ったものであることを裏づけ,よりニーズに答える形での実行を促したと言える。加えて限られた予算の中で,より学部生に直接的な効果をもたらすサービスへの資金投下を意識していくきっかけになったと言えよう。以下に各項目の実施状況を紹介する。

(a)サイン計画(総合案内板)への応用
 2007年度より,向こう3カ年計画で進めている館内のサイン改修計画である。当初は,各施設の部屋名のプレート交換を予定していたが,より学生へのナビゲーション効果の高い,入り口付近の館内総合案内板の作成に変更した。これはパブリックサービスのスタッフの一致した意見であった。

(b)レファレンスエリアの改修
 従来の大型机から,個別に仕切られた個人で集中して学習するためのエリアとして,2008年3月に改修した。また,1つ1つの机にPC用の電源を設置。SFCの学習環境にマッチしていること,かつ他のエリアとの使い分け(ゾーン分け)を意識した。改修後の利用率は,改修前の2倍以上となり人気のエリアとなっている。

(c)教員推薦図書の展示スペースづくり
 きっかけは学部生からのリクエストであった。新入生が入る春・秋学期開始時期に合わせ,2階フロアに教員の著作と図書の現物とコメントを展示するとともに,小休憩用のベンチを設置。学生と教員の交流の場を目指した。

4 FGIの結果とLibQUAL+®
 FGI調査の結果から,学部生へのサービスの方向性・検討事項が以前より見えてきた。2008年度に予定しているLibQUAL+®の調査結果と照合することにより,より利用者のニーズをつかむことが出来るであろう。そして,最も重要なのは,その結果を私たちがどう読み取り,活かしていくかである。調査結果を実際に目に見える形で利用者に提示出来て始めて調査の意義があろう。

参考文献
1)慶應義塾大学メディアセンター.“メディアセンター中期計画2006―2010”.(オンライン),入手先<http://www.lib.keio.ac.jp/jp/headquarter/pdf/midrange_plan2006_2010.pdf>,(参照2009-01-19/修正2009-04-01).
2)慶應義塾大学メディアセンター.“メディアセンター中期計画2006―2010の行動計画Ver.1.1”.(オンライン),入手先<http://www.lib.keio.ac.jp/jp/headquarter/pdf/ActionPlan2006-2010ver11.pdf>,(参照2009-01-19/修正2009-04-01).
3)Peter Hernon,Robert E. Dugan.“図書館の価値を高める:成果評価への行動計画”.永田治樹,佐藤義則,戸田あきら共訳.東京,丸善,2005,268p.
4)慶應義塾新図書館計画実行委員会編.新図書館計画のための調査:利用者調査報告(三田地区ほか).東京,慶應義塾新図書館計画実行委員会,1962-1763,132p.
5)Beck, L.C., Trombetta, W.L., Share, S. “Using focus group sessions before decisions are made ”.North Carolina Medical Journal.vol.47.no.2.1986,p.73-74.
定義部分の日本語訳は,Vaughn, Sharon, Schumm, Jeanne Shay, Sinagub, Jane.グループ・インタビューの技法.田部井潤,柴原宜幸訳.東京,慶應義塾大学出版会,1999,215p.
6)上岡真紀子.“慶應義塾大学における利用者調査の事例”.情報の科学と技術.Vol.58.no.6.2008,p.278-284.
7)利用者調査ワーキンググループ公開用サイト.(オンライン),入手先<http://project.lib.keio.ac.jp/assess-wg/index.html>,(参照2008-06-26).

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