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ナンバー15、2008年 目次へリンク 2008年10月1日発行
 
よみがえる福澤諭吉 ―デジタルで読む福澤諭吉―
原田 奈都子(はらだ なつこ)
三田メディアセンター
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1 はじめに
 慶應義塾図書館では数多くの貴重な資料を所蔵している。これらをデジタル化し,Web上で公開することにより,デジタル時代における新たなる知の構築の一端を担うことを目指し,浮世絵やインキュナブラなどの貴重書をデジタルギャラリーで公開するなど様々な取り組みを行ってきている。現在は慶應義塾創立150年記念プロジェクトとして,Google社のブック検索図書館プロジェクト(以下Googleプロジェクト)に参加し,和装本を含め日本語図書12万冊のデジタル化が進行している。本稿では,同じく150年記念プロジェクトで制作された福澤諭吉著作の初期版本のデジタルコレクションをコアにした「デジタルで読む福澤諭吉」プロジェクトの制作過程や今後の展開を紹介する。

2 第1フェーズ:福澤著作のデジタル化
 慶應義塾大学メディアセンターは福澤研究センターとの共同プロジェクトとし,『学問のすゝめ』や『西洋事情』などの福澤諭吉の全著作(初期版本)55タイトル,全119冊をデジタル化し2007年6月29日にデジタルギャラリー内に「福澤諭吉デジタルギャラリー」として公開した。(参考文献1
 公開にあたっては,従来の電子bookの使い勝手の悪さを解消するため,FLIPEERというソフトウェアを利用した。これにより,精密な挿絵を何倍にも拡大しても耐えうる高精細な画像でありながらデータ読込時の重さを感じることなく,著作を実際に手に取り読む際と同じ感覚で,ページを一枚一枚めくり読み進めていくことが可能になった。
 各著作のトップページには富田正文著『福澤諭吉書誌』(大塚巧芸社,1964年)からの解説を,各巻表示のページには『マイクロフィルム版福澤関係文書.収録文目録第2分冊・福澤諭吉関係資料(1)』(慶應義塾福澤研究センター編,雄松堂出版,改訂再版. 1998)の佐志傳氏の解説を掲載し,利用者が各著作の書かれた背景や概要などを理解できるようにした。

3 第2フェーズ:全文テキストデータの組み込み
 創立150年を迎えた2008年1月10日から2日間,第173回福澤先生誕生記念会行事の一環として企画展示「デジタルで読む福澤諭吉」展を旧図書館記念室で開催した。
 この日にあわせてGoogleプロジェクトでデジタル化された174冊の福澤諭吉の著作や慶應義塾の刊行物を「Googleで読む福澤諭吉」として紹介するとともに,イメージデータだけであった「福澤諭吉デジタルギャラリー」にテキストデータを追加し,全文検索機能をつけた新バージョンのデモンストレーションを行った。
 テキストは慶應義塾大学出版会の協力によって,『福澤諭吉著作集』(慶應義塾大学出版会,2002-2003年)を編集した時の29タイトルの電子データを入手し,それを加工している。また,『福澤諭吉著作集』に掲載されていない本や,印刷データからテキスト化できなかった本は,『福澤全集』(時事新報社,1898-1898)を典拠として26タイトルの全文パンチ入力を行いデータ化している。テキストデータは原本に忠実に改行,ページ付けがされ,初期版本のイメージデータに対応してテキストが読めるように工夫をこらした。この作業は自動化できないため,スタッフの手作業で行わなくてはならない。そのため当日までに検索用テキストデータが作成されたのは『学問のすゝめ』,『西洋事情』,『福翁自傳』(第1巻),『文明論之概略』,『窮理図解』の5点のみであった。さらにテキストにはルビをふり,当時の文体に不慣れな学生などが読む際の補助的役割を果たしている。
 検索は当時の文章を対象にしているため,キーワードの設定が困難な場合も考え,以前に検索された複数のキーワードを例として画面に表示し,クリックによる再検索を可能にした。また,旧字を新字に置換して検索するなど,使いやすさを重視したものとした。
 検索結果は,著作のタイトルごとに一覧で表示され,キーワードが色付けして表示されるため,一目でどの著作の何ページにどのような形で含まれているかがわかる。また,検索結果から初期版本の画像とテキストへのリンクが貼られており,前後の文章を容易に確認することも可能である。
 全文検索機能を追加した「福澤諭吉デジタルギャラリー」はデモンストレーションが好評だったこともあり,名称を企画展示会と同様の「デジタルで読む福澤諭吉」に変更して,更に機能の充実を目指すことになった。
 また2007年3月には,日本を代表する思想家・教育者である福澤諭吉の研究資料としての価値の高さ,異字体調整機能・使われた検索語の例示などのキーワード索引機能の高さ,大学図書館にふさわしい研究・教育・学習に対する情報発信機能などが評価され,私立大学図書館協会の2007年度協会賞の受賞が決定した。

4 第3フェーズ:福澤諭吉関係研究文献目録
 著作のテキスト作成を進める一方で,福澤研究を支援する「福澤諭吉研究文献目録」データベースの制作も並行して行われた。1月10日にはそのプロトタイプとして『福澤諭吉年鑑』(福澤諭吉協会編)巻末掲載の「福澤諭吉研究関係文献目録」,「福澤諭吉研究文献目録」,「研究文献案内」のデータとGoogle Book Searchにて公開された福澤及び慶應義塾関連資料のデータを公開した。このデータベースは,研究者が資料の検索・入手・閲覧という3ステップを容易に行えるように,過去に出版された福澤諭吉研究書誌をデジタル化し,検索結果からワンクリックでOPACでの所蔵確認やGoogle Book Searchによる全文閲覧ができるようにしたものである。
 メタデータのスキーマは,今後の流用性を考慮してMetadata Object Description Schema(MODS)に準拠して開発された,慶應義塾大学学術情報リポジトリ(KOARA)と同様のスキーマを採用している。入力項目・記述方式もKOARAに倣いデータを作成した。Book・Journal Article・Newspaper Articleなど様々な資料タイプのコンテンツを扱っているが,入力項目は全資料タイプに共通で,表示項目及び項目名を資料タイプ別に変更している。底本となった目録では細かな資料タイプ分けがされていないため,書誌情報を抜き出す際に資料タイプの設定を行った。今回は一度に3,000件を超えるデータを作成したため,まず,テキストファイルにパンチ入力したデータを目録用Accessデータベースへ一括で流し込んだ。その後,資料タイプにあわせた必要項目への入力などの修正を1件1件行った。
 2008年9月には,「デジタルで読む福澤諭吉」の福澤著作初期版本全119冊全点のテキストデータ組込が終了し,タイトル及び著者名の「読み」での検索機能とISBN・ISSN・BookID・URLをキーとしてOPAC・Google Book Search・KOARAへのリンク機能を拡充した「福澤諭吉研究文献目録」を正式に公開した。

5 おわりに
 「デジタルで読む福澤諭吉」の公開によって,貴重で簡単には手にとってページをめくることが不可能であった福澤諭吉の初期版本がパソコンとインターネットさえあれば,時間や場所に制限されること無く誰もが自由に目を通せるようになった。テキストデータの組込により全文検索が可能となり,例えばある単語が福澤のどの著作のどのような文脈で使われているかを簡単に確認できるようになった。更に,文献目録により関連文献を検索し,物によってはそのまま文献の全文を閲覧できるようになった。機能追加により研究者による利用の可能性が格段に広がっている。より充実したコンテンツの構築を目指し,データの追加は今後も継続的に行われる予定である。
 慶應義塾創立150年を記念しスタートしたこのプロジェクトは,今なお続く慶應と福澤の強い結びつきの象徴であり,福澤に関する多くの貴重な資料を所蔵する慶應義塾でこそより価値のある物を構築できるだろう。

参考文献
1)“慶應義塾図書館デジタルギャラリーデジタルで読む福澤諭吉”.(オンライン),入手先<http://project.lib.keio.ac.jp/dg_kul/fukuzawa_about.html> ,(参照2008-06-29).

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