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ナンバー15、2008年 目次へリンク 2008年10月1日発行
 
文学研究科図書館・情報学専攻情報資源管理分野の誕生から現在まで
田村 俊作(たむら しゅんさく)
文学部教授
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 正式名称で呼ぶと標題のような長い名前になる分野が図書館・情報学専攻に誕生してから丸四年が経ち,修了者も30名近くに達した。本稿では,同分野の概要を紹介し,その意義や成果について私見を述べたい。なお,本稿は筆者の責任において執筆したものであり,見解は筆者の見解であることをお断りしておく。

1 情報資源管理分野の概要
 情報資源管理分野は,図書館・情報学専攻内に設けられた社会人向けのコースである。入学定員は10名,授業は月曜日と木曜日の夜,および土曜日の午後に開講されている。
 情報資源管理分野は,制度上は大学院の基礎単位である「専攻」の新設ではなく,既存専攻の拡充というやり方で設けられている。つまり,文学研究科の中に,図書館・情報学専攻とは教員等が異なる新組織を誕生させるのではなく,既存専攻の定員や科目を増やすことによって新分野を開設したのである。ちなみに,教員は人数もメンバーも変わっていない。
 新分野誕生に伴い,従来の昼間のコースは「図書館・情報学分野」と呼ばれるようになった。図書館・情報学専攻が拡充されて「図書館・情報学分野」と「情報資源管理分野」の2分野が誕生したのである。昨今専門職大学院など,高度職業人養成を主眼としており,修了の要件や学位の名称も独自の大学院が登場しているが,情報資源管理分野は,内実はともかく,制度的には従来の学術大学院の枠組みの中で設けられていることになる。そのため,文学研究科の他専攻と同様,合計32単位の科目履修と修士論文が修了の要件になっている。
 実際の運用では,情報資源管理分野と図書館・情報学分野とは,まったく異なるコースである。図書館・情報学分野とは別に独自にカリキュラムが組まれ,開講時間帯も別である。学生は原則として情報資源管理分野で開講されている科目の中から履修科目を選択しなければならない。
 入学時の受験資格や試験科目も異なっている。情報資源管理分野では,入学時に大学卒業後3年以上経過し,図書館等における実務経験ないし司書資格を持っていることが,出願の条件になっている。試験科目では,筆記試験は専門科目(図書館・情報学)のみで,他に面接試験がある。つまり,入学条件として図書館・情報学に関する知識や経験を重視しているのである。

2 開講科目等
 表1に開講科目を挙げた。すべて半期2単位である。科目名が全部「情報資源管理特殊講義」ないし「情報資源管理特殊講義演習」となっているのは,科目の運用の弾力性に配慮したためで,実際の科目内容は表1の中段の通りである。
 大部分が館種を問わない図書館情報学の諸領域を扱う科目である。館種に関わる科目は公共図書館関係と大学図書館関係に限定した。これは教員構成,想定される主要な入学者,科目数の制約(後述するが年間14科目しか開講できない)を考慮したためである。専門図書館や学校図書館の皆様には申し訳ないことになっているのだが,実際に開講してみた印象では,学生が館種に特別にこだわって履修をすることもなく,むしろ大学院を他館種の話を聞き,他館種の人たちと交流する良い機会と捉えているようである。講師にとっても,他館種の学生の意見におもしろいものがあり,館種の限定が履修上の障害になっているようには見えない。
 情報資源管理特殊講義VIIIとXでは,メディアセンターにお願いをして,各地区メディアセンターで2回のレファレンスサービス演習を行っている。実務に即した科目ということで,他館のサービスの実際を経験し,自らの勤務する図書館と比較することが狙いである。学生には好評で,繰り返し履修する学生も毎年出ている。
 情報資源管理分野の科目が開設されているのは,毎週月曜日と木曜日の6限(午後6時10分〜7時40分),7限(7時50分〜9時20分),および,土曜日の3限(午後1時〜2時30分),4限(2時45分〜4時15分),5限(4時30分〜6時)の合計7時限である。この時限数で年間に開設可能なのは14科目になる。このため,科目数とその各年の配分には特別の注意を払った。
 まず,研究指導に関わる演習の4科目は必修のため,毎年開講される。さらにI(経営)とXI(情報処理技術)も基本科目として毎年開講される。表1で残った16科目は隔年で開講して,開設可能な残りの8時限に配分することにより,在籍する2年間のうちに最大限多様な科目を選択履修できるようにした。また,同一科目の再履修を認めているので,同じ科目を繰り返し取ることも可能になっている。
 履修上の配慮は他にもある。月曜日と土曜日を開講曜日に設定したのは,公共図書館や大学図書館の勤務に配慮したからだが,シフトの都合で毎週出席するのは難しい,との意見を採り入れて,近年は1〜2科目を除きすべて隔週交代で開講するようにした。また,今年度から調査研究法とデータベース構築の2科目を夏休みに集中講義で開講する。さらに図書館・情報学分野の科目も8単位まで履修が可能としている。これにより,例えば月曜日が休館の公共図書館員などが,月曜の昼間の科目を履修することが可能になっている。
 配慮といえば,情報資源管理分野は厚生労働省の教育訓練給付制度の指定講座となっているため,一定の要件を満たせば,修了後費用の一部を補助してもらうことが可能である。

3 修士論文その他
 開講科目にも示されているように,情報資源管理分野の重点は,1)経営と2)ITの知識・技能を修得することと,3)自ら課題を見出し,解決する能力を養うことの3点である。このうち,課題の発見・解決能力を養う手段として最も重視しているのが修士論文である。修士論文の作成を通じて,学生は課題の発見と明確化,適切な手順の検討,解決に向けた首尾一貫した議論の構築と執筆,という一連の作業を経験する。「研究」というのがどのようなものなのかを知ってもらう,ということも目的の一つである。
 論文の準備のために,院生は隔週のゼミ(情報資源管理特殊講義演習I・II)で指導を受けるほか,2月に始まり,6月,9月と複数回開かれる中間発表会で,図書館・情報学専攻の教員や他の院生に進行状況を報告し,意見をもらう。きめ細かな指導を通して,学生の課題解決能力・研究能力を鍛えることが狙いである。学術大学院の一分野として,修士論文には内容も水準も図書館・情報学分野と遜色のないものを要求しているので,勤務を続けながらの修論の執筆では,提出日が近づくと,それこそ寝る暇もない思いをするようだが,その甲斐あって,提出された修士論文には力作が多い。表2に平成19年度の修士論文を示す。当然のことながら実務に関連したものが多いが,この際,かねてから取り組みたいと思っていたテーマを取り上げた,という人もいる。

4 発足の経緯
 専攻の性格上,現職者の受け入れは以前から行われていた。20年ほど以前までは,主としてメディアセンターの職員が履修する委託研修生という制度があった。この制度では,研修生は修士課程の学生とともに図書館・情報学専攻の科目を履修し,修士論文を提出して修了する。履修内容は修士課程の院生と何ら変わるところがないのだが,学位は取得できない。また,現職者を対象とする課程ではないため,実務を意識した科目編成にはなっていないなど,成果は大きかったものの,現職者教育という点からは一層の充実が求められていた。
 本格的な現職者教育のためのコースを作ろうとする計画が浮上したのは,1990年代の前半,図書館・情報学専攻の学部課程のカリキュラムを大改訂したときである。1993年に学部課程を図書館,情報メディア,情報検索の3コースに分け,多様な履修の途を開いた後,専攻の教員間では修士課程で現職者向けのコースを開設することが話題に上った。
 大学設置基準が大綱化されて多様な設置形態が可能になり,また,社会人を対象とするコースや高度職業人養成を目的とする大学院が開設されるようになっていた。一方,図書館情報学の分野では,図書館法・学校図書館法という制度的枠組に制約された現行の専門的職員養成や現場の職員配置の限界を超えて,図書館経営の中核を担うような人材の養成が必要とされていた。現職者向けの新コースは,こうした社会的背景のもとで,図書館における高度職業人養成の要請に応えようとするものであった。
 コースの可能性を探るために,現職者にアンケートをしたり,学内のバックアップ体制を調べるなどの検討を重ねた。最大の問題は開講時限で,この当時はまだ,学内関連組織が夜間開講に対応できていなかった。社会人向けコースのニーズは十分にあると手応えを感じたものの,コースの開設はあきらめざるを得なかった。
 約10年の後,法科大学院など,三田キャンパスにも専門職大学院や社会人向けの大学院コースが開設されるようになったため,社会人向けコースの検討が再開された。学内関連組織でも夜間・土曜日の開講をサポートすることに前向きに対応してくれた。教員の増員がなかったため,教員各人にはかなりの負担増となることが予想されたが,反対者はいなかった。現職者教育の場を設けることの意義を皆良く認識していたのだと思う。

5 開設してみて
 表3に開設以来の入学者数と修了者数を示す。開設当初の人気こそ落ち着いたものの,入学者が減るといった兆候はまだ見られない。
 1期生は14名の入学者が全員2年間で修了して教員を驚かせたが,さすがに2期生以降では続いていない。2時間以上かけて通学してくる人,休職・退職して通学する人,在学中に結婚したり出産したりした人と,皆大変な苦労をして通学しており,その学ぶ意欲には頭が下がる。
 そのためかどうか,学生同士の結びつきが大変強いことは,他の大学院などにない情報資源管理分野の大きな特色だろう。在学中互いに励まし合っているのはもちろん,修了後も,ときどき同窓会を開いて近況報告などをし合っているようだ。授業での学習に加えて,館種を超えた緊密な交流の場を持てることは,本分野に在籍することの大きなメリットになっていると感ずる。
 また,研究を修士課程に留めず,博士課程に進学する人も毎年いる。互いに交流する機会の提供という面でも,修士課程での研究面の達成という面でも,情報資源管理分野は学生にとって意味のある存在となっている。
 教員にとってはどうか。確かに忙しくなった。筆者など,月曜日の帰宅は深夜になる。終電車で帰宅することもまれではなくなった。しかし,おかげで現場の声を聞き,皆で考える貴重な機会を得ることができた。これは教員にとっても得難い機会である。
 開設前にはどの程度ニーズがあるのか,ニーズに即したコースを作ることができるのか不安があったのだが,開設してみると,教員側の努力と共に,充実した学習を求める学生諸君の努力と協力のおかげで,目下のところは筆者にとっても教えて楽しい充実したコースとなっており,開設して良かったと感じているところである。

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