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ナンバー16、2009年 目次へリンク 2009年9月30日発行
巻頭言
図書館はどこへゆく? ―伝統と革新の融合―
長谷山 彰(はせやま あきら)
常任理事文学部教授
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 「秋の日の図書館のノートとインクの匂い〜枯れ葉の散る窓辺〜学生時代」東京オリンピックの年にヒットしたペギー葉山の歌「学生時代」の一節である。一昔前,図書館といえば静寂の中で読書と思索に耽る場であった。筆者の学生時代の記憶でも,三田の古色蒼然たる図書館は教室や食堂とは異次元の空間という印象である。薄暗いホールに浮かぶ大ステンドグラスを見上げながら閲覧室に入ると自然と気持ちが落ち着いた。夏も冷房はなかったが,開け放った窓から風が吹き渡り,夕暮れ,シャンデリアに灯がともると,閲覧室は幻想的な空間に変わった。
 月去り星移り,図書館はメディアセンターとなり,その機能も多様化している。主要な変化は電子媒体資料と非来館型の図書館利用の増加である。その背景にはデジタル化やオンライン化の進展がある。いずれも学術成果の保存や発信・共有に貢献するものであり,世界的な傾向といえる。「慶應義塾図書館デジタルギャラリー」の開設や「グーグル図書館プロジェクト」もその流れに沿うものであろう。ほかにもポータルサイトの充実,機関リポジトリの構築など,さまざまな取り組みが進んでいる。
 時代の変化は新たな問題も生み出した。電子ジャーナルの価格高騰は深刻で解決の即効薬はない。出版社との粘り強い交渉,大学間の有効な連携,あるいは国策レベルの対応などあらゆる努力が必要とされている。古くて新しい問題もある。図書館の蔵書はそれ自体が文化であり,未来に伝える義務がある。貴重書のデジタル化は文化の発信に寄与するが,それだけで文化を守ることはできない。京都の陽明文庫には近衛家が応仁の乱を避けて疎開させた多くの典籍類があり,先人の努力が千年の後に貴重な文化を伝えてくれた。長期保存という点で電子媒体資料は脆く,紙媒体の信頼性は高い。現在の蔵書も後世に貴重な文明の遺産となる可能性を秘めていることを考えれば,安易な廃棄は慎み,蔵書の劣悪化を防ぐ工夫が必要であり,書庫スペースの確保も依然として課題である。また蔵書デジタル化には前提として徹底した書誌学的調査に基づく完全な蔵書目録の作成が必須である。いずれも地味で労力のいる作業だが,図書館の原点ともいうべき仕事であり,今後も重要性に変わりはない。来館者にとっての居場所の充実も課題である。2008年秋に実施されたLibQUAL+調査の結果では,学生のニーズとして多かったのは,一人で学習に集中できる場,友人と一緒に教えあい,話のできるグループ学習の場であった。これは大学キャンパス全体に求められている方向でもある。インターネットを利用した遠隔型授業の増加で教員も学生もあまりキャンパスには来ない代わりに,キャンパスでは少人数授業,課外活動における人と人とのふれあいや快適な生活空間が求められるようになるであろう。図書館にも学びの場,憩いの場としての機能が求められている。すでに各キャンパスのメディアセンターで利用者の新しいニーズに沿った空間再構築の試みが進んでいることは喜ばしい。
 さまざまな問題を抱えつつも図書館は確実に進化している。その進化は伝統と革新の融合を図るものであってほしい。メディアセンターの「中期計画2006―2010」には「来館型と非来館型双方の図書利用要求に応えることができる複合型のサービス基盤を,情報技術を活用して構築する」とあり,今後の方向が端的に示されている。また各キャンパスの図書館・メディアセンターがそれぞれの特色と個性を活かした発展を遂げてゆくことも大切であろう。電子ジャーナル問題や保管施設問題など図書館単独では解決困難な問題もあり,法人としてできる限りの支援を惜しまぬ決意であるが,何よりも図書館関係者の一層の努力に期待したい。

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