1 はじめに
協生館図書室(写真1)は2008年8月に竣工した「協生館」の4階に位置する。協生館は“2008年4月に開設した2つの新大学院「システムデザイン・マネジメント研究科」「メディアデザイン研究科」をはじめ,「経営管理研究科」,保育支援施設,開放型体育施設等を設置”(注1)した複合型施設である。本稿では,2008年9月1日の開設から1年近く経過した,協生館図書室の現状及び今後の課題と展望について述べたい。
2 現状
(1)施設と蔵書
当図書室は,経営管理研究科(以下,KBS),メディアデザイン研究科(以下,KMD),システムデザイン・マネジメント研究科(以下,SDM)あわせて3研究科の教職員,大学院生を主たる利用対象者としている。蔵書冊数約6万5千冊,書庫スペース434m2,閲覧・学習スペース176m2,閲覧席数71(内PC設置席11)席である。現状では,蔵書の9割以上は旧大学院経営管理研究科図書館の蔵書を引き継いだものである。
KBSの図書(一部雑誌を含む)はLC分類を使用,企業関連図書,会社史等は独自の分類を採用している。一方KMD,SDMの蔵書はNDC分類を採用しており,これらを研究科ごとにエリア分けして配架している。
(2)スタッフ
専任1,派遣1の計2名でパブリックサービス業務を主に担当し,平日17時以降及び土曜日は委託スタッフが閲覧業務を行っている。また,テクニカル業務に関しては日吉メディアセンターのテクニカルサービス担当が日吉図書館において行っている。本部集中処理機構に負うところも大きい。
(3)利用状況
協生館図書室は,2009年4月から6月の各月の入室者数がそれぞれ4,949人,5,393人,7,630人で,月平均約6,000人である。3研究科別の割合でみると各月ともほぼ同じ割合で,KBSが全体の約75%,KMD15%,SDM10%となっている(注2)。
2008年度の図書室入室者数は50,170人で,2007年度の経営管理研究科図書館当時の入館者数29,006人と比べると73%の増加率である。同様に貸出冊数を比較すると2008年度は7,516冊,2007年度は5,106冊で増加率47%である(注3)。
学内からの紹介状(当図書室は3研究科所属者以外は学内利用者も紹介状を必要としている)受付件数は月により多寡があるが,平均すると月26件である。所属地区別にみると三田が約70%,残りの30%を日吉,矢上,湘南藤沢地区がほぼ同じ割合で占めている。
3 今後の課題と展望
(1)スペース
収容冊数約8万冊という書架スペースの制約があるため,新しい資料,利用の多い資料を協生館図書室に配置するとともに,それ以外の資料は日吉保存書庫(独立館地下書庫)に別置することを前提として資料配置の運用を考えている。
また移転の際に,資料群ごとの分量により配架場所を決定したために,利用頻度の高い政府刊行物や修士論文が集密書架に収められており,一般書架に比べて利用しにくい状況にある。今後,使い勝手のいいように再配置を行いたい。
閲覧席も現状では不足気味である。当図書室はワンフロアで,細長いスペースの片側に書架,通路を挟んでもう片側に閲覧席を配しているが,現状の71席では3研究科合計の現在の利用対象者数635人に対して,約1割強にとどまるのみである。実際LibQUAL+®(注4)にも閲覧席スペースが少ないという意見が複数寄せられている。その上,閲覧机は二人掛けの机で,仕切りがない。このため,一人で二人分を占有してしまう利用者が多く,ただでさえ少ない閲覧席が一層少なくなってしまう。これを防止するために席と席の間に仕切りをつけることで,せめても本来の席数確保を考えている。
(2)蔵書
限られた予算の中で,蔵書の充実を図るには,各研究科図書委員によるところが大きいが,可能な範囲でのサポートができればと思う。
一方で大学院3研究科の図書室という特性から,それぞれの主題にとどまることなく,横断的に最大限に資料を利用してもらいたい。実際,KBSの院生がSDMの図書を借りたり,KMDの院生がKBSの図書を借りたりといった分野をまたいだ資料の利用傾向が多く見受けられる。
(3)サービス
創設間もないKMD,SDMと,1978年にビジネス・スクールから大学院へと改組されたKBSという3研究科の図書室として有効に機能していくためには,学生部大学院担当との連携も不可欠のものと考える。
また利用対象者が国内外からの既卒者や,数年以上の実務経験のある社会人なので,これらの様々な利用者の受け皿としていかに有用なサービスを展開していくことができるか,試行錯誤の日々である。これに関連して,日吉メディアセンターレファレンス担当と連携をとって利用者教育を充実させていきたい。
(4)その他
これまで,KBS図書館はメディアセンターとは別個の組織で,独自の方法で運営されてきたこともあり,メディアセンターとの相違点も多かった。
図書のインベントリ(蔵書点検)はこの春休みに実施し,データの整備をおこなった。雑誌のインベントリ,データ整備に関しても,次期図書館システムへの移行ともからみ急務の課題である。
また,入室や貸出規則が学内の他の図書館と異なっており,特に3研究科以外の所属者が利用する際の規則はかなり厳しい。この点について3研究科の教員と連携をとりながら,可能な限り規則の共通化を図りたい。
注 1)慶應義塾の活動と財務状況:2008年度事業報告書.東京,慶應義塾,2008, p.7. 2)入館ゲートシステム統計データより算出. 3)2007年度,2008年度メディアセンター標準統計,来館者数データより算出. 4)LibQUAL+® 2008 Survey.協生館図書室 調査コメント.
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