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ナンバー16、2009年 目次へリンク 2009年9月30日発行
 
慶應義塾大学病院ひろばプロジェクト
舘 田鶴子(たち たづこ)
信濃町メディアセンター事務長
南野 典子(なんの のりこ)
信濃町メディアセンター係主任
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1 患者サービスへの一歩
 患者さんのために小さなコーナーで情報サービスを試行したいという希望が信濃町メディアセンタースタッフの心のうちにあった。病院機能評価やがん拠点病院の指定においても,患者さんへのサービスは重要なポイントである。先行する米国の一般市民への情報サービスを模範に,すでに国内大学病院においても東京女子医科大学の「からだ情報館」など患者図書室の成功例がいくつかあり,また静岡県立静岡がんセンターの「Web版がんよろず相談Q&A」は先駆的な患者さんのための情報サービスとして注目されていた。信濃町メディアセンター(以下,MC)に福田恵一所長を迎えた2007年10月に慶應義塾大学病院(以下,慶應病院)の外来に患者図書室を作る夢が一歩前進し,企画提案を出すことになった。熱意は大きかったが行く先の見えない航海が始まった。
 2008年1月に病院長へ説明する機会を与えられ,その場で賛同を得た。病院長の指名によりプロジェクト推進のリーダーは福田恵一所長,サブリーダーは外来担当の天谷雅行副院長と決まった。施設課,薬剤部の協力のもとに慶應病院外来の最も目立つ一等地である薬待合の一角を候補としてプランを立てることになった。コンペで選ばれた施工会社の提案に沿って医学部および病院の運営会議へ,また関係者へ説明し協力を呼びかけ,院内関連部署を訪ねてヒアリングを行った。
 2008年4月に「健康情報エリア(仮称)」の開設経費は病院と医学部の折半で出すことが承認されたことを受けて,開設準備委員会を発足させる準備に入った。病院長が指名した2名が委員長,副委員長を務めることになり,事務局は提案者であるMC内に設置した。委員会は運営方針の策定や提供する資料・コンテンツの選定などを協議し承認する役割を担う。各診療科,院内関連部署から委員を推薦いただき,医師33名,事務・技術系職員14名の大所帯委員会となった。第一回「健康情報エリア(仮称)」開設準備委員会を7月11日早朝に開催し,代理人を含む43人が参加した。ここで中心となるコアメンバ医師5名が選ばれた。この時点で開設予定は12月であった。

2 企画から開設まで
 企画段階での計画書は次のとおりである。
 サービス項目のうち最も精力を投入したのは慶應病院オリジナルWebコンテンツ構築であった。湘南藤沢一期生の起業したWebデザイン会社(ハルデザインコンサルティング)との協力のもとに非常に短期間で完成させなければならなかった。9月に原稿依頼を出し,10月の第三回開設準備委員会で投稿システムの説明を行った。推進力となったのはコアメンバの一医師である。執筆いただいた委員はじめおそらく200名は超えるであろう医師,事務・技術系職員の協力によって,一大学病院が構築した類を見ない患者さんのための情報収集支援コンテンツKOMPAS:Keio Hospital Information & Patient Assistance Serviceが誕生した(図1)。病気,検査,くすり,栄養など医療,健康に関わる情報を幅広く提供するものである。KOMPASへアクセスするパソコンは17インチ,タッチパネル仕様,7台のうち3台のみキーボード付きとした。(内1台はサービスデスク用)使用しているコンテンツ管理ソフトはMovable Typeである。
 ただし準備の進む中,Webコンテンツ構築のための支出は予定外に膨れ,開設準備資金内で収めるために施設・設備関係の経費を削減するなど,開設までには費用面での検討・交渉が繰り返された。プロジェクトは一時,暗礁に乗り上げたかに見えた時期もあったが,それを乗り越えて年を改めた2009年1月5日に正式名称を「健康情報ひろば」として開設に至った(写真1)。プロジェクト通称は「ひろばP」,概要は以下のとおりである。

3 新しい試み,運用,効果と課題

(1)新しい試み
 「ひろばP」には数々の試みがあった。
 ・オープンスペースに図書・雑誌を置いたこと。
 ・慶應病院オリジナルWebコンテンツKOMPASを構築したこと(将来的にはインターネットへ公開予定)。
 ・Keio Digital Library Channel(MC作成のオリジナル動画展示番組)で慶應義塾の所蔵する貴重品・写真などのフラッシュ画像を提供したこと。
 オープンスペースでの運用を余儀なくされたことと,一日約4,000人の外来患者さんを迎える慶應病院の外来一隅に開設したことが実にチャレンジであり,そこから以上のようなサービス内容が導かれた。慶應義塾の広報にも一役買っている。

(2)運用
 ひろばのサービススタッフはボランティア7名が週1回交代で入り(1名は変則勤務)加えてMCスタッフが当番制で出ている。最初の3か月ほどは2名体制で当たったが,ボランティアスタッフが慣れるにつれて徐々にボランティア主体に変えている。現在ではMCからのスタッフ派遣は繁忙時間帯のみである。参考までにサービス統計(6月)は次のとおりである(334件/月)。
 ・院内案内 66件(20%)
 ・病気・検査・くすり・食事・栄養について113件(34%)
 ・ひろばの使い方・資料の探し方41件(12%)
 ・KOMPASの使い方46件(14%)
 ・事実の確認(患者会の連絡先など)20件(6%)
 ・話し相手34件(10%)
 ・その他(クレーム・感謝など)14件(4%)
 ひろば内の書架,パンフレットケース,ソファー,テーブル席の利用人数(一日平均)とパソコン利用人数(一日平均)(5月第1週〜6月第4週の間,週ごとの集計)は表1のとおりである。いずれも午前9時〜午後3時の間のカウントとなっている。

(3)効果と課題
 ひろば開設は患者サービスの向上に確かに貢献したという実感がある。投書や利用した患者さんからの直接の声で手ごたえを感じている。そのほかにも次のような波及効果があったと思う。
 ・院内各部署との連携が深まった。
 ・患者サービスの実際をMCスタッフが知った。
 ・ボランティアさんとの協働を経験した。
 ・MCの存在を院内にアピールできた。
 ・MCのオリジナル動画展示番組の作成は地区を超えたコラボレーションの可能性を生んだ。
 また,次のことは今後の課題である。
 ・病院の患者サービスには院内関係部署が深く関わるべきであり,事務局体制をMCだけではなく院内部署との共同にする。
 ・WebコンテンツKOMPASの内容更新に対して責任ある体制作りが求められる。
 ・ボランティア募集と広報活動を強化すべきである。
 ・事業化することによって病院経営を圧迫せずに維持する可能性はないかを探る。
 KOMPASは4月以降,「最新の医療紹介」の連載を始めている。診療科の広報を兼ねて医療トピックスをほぼ毎月,掲載するものである。医師,看護師,栄養士,薬剤師など治療グループスタッフの写真入り記事とすることで,より親近感を抱いてもらえるように工夫した。日々進化し続けるコンテンツをインターネットへ公開する準備を6月に開始したところである。
 「ひろばP」を強力なリーダーシップで牽引した福田所長(運営委員会委員長)はじめ実に多数の教職員が総力あげて「健康情報ひろば」開設に向かった。患者サービス向上と慶應病院の広報という大きな目標を掲げて,ひろばの最終目的地ははるか彼方かもしれないが,その道のりを一歩一歩確実に固めていきたいと思う。

図表
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計画書
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図1
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概要
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写真1
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表1
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写真2
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