10何年か前のことである。渋谷の中古レコード屋で「中上健次ほか」と手書きの紙が背についているCDをみつけた。棚から取り出してみると,その2枚組全40数曲の中に「中上健次 都はるみをうたう」という1曲が入っていた。それを見て,どうしても中上健次の歌っている声が聞きたくなった。それ以外のトラックはどうでもよかった。かなり高い価格設定だったが,「清水の舞台から飛び降りる」つもりで買った。ある企業がイベント宣伝のために作った非売品の所謂「入手困難」CDであり,その金額も止むを得ないと判断したのである。今,改めてそのCDを見直すと,中上健次のほかに,ジャズ・ミュージシャンの坂田明やジョン・ゾーンの演奏,文化人類学者の山口昌男,建築家の磯崎新,精神科医の香山リカ,写真家の荒木経惟といった錚々たる(?)面々の「しゃべり」や「音楽(?)」が入っている。その中から「中上健次」を表に出したことが,見事に客のつぼにはまったことになる。
「貴重盤」と目されるものは,このほかに1枚しか持っていないが,CDを買うのが趣味だ。この原稿を書いている2009年6月の1ヶ月は特に多く,70枚程のCDを買った。物理的な存在に満足や幸福を感じるので,音楽ダウンロードやレンタルCDは利用したことがない。かつては,レコードを集めていたが,1000枚を超えたくらいに,CDに切り替え,現在4000枚といったところか。
その4000枚は,ほとんどが中古(未開封あり)で,新品で買ったのは200枚程度だろう。CD専門店や古本屋(特に新古書店)を歩き回り「目に付いた」ものが,自分で決めた「基準価格」以下だったら買うという感じである。購入対象は,ヘビメタやパンクなど「特殊」な音楽を除いたオールジャンルで,「基準価格」はジャンルによって異なる。
オールジャンルと言っても,クリスマスとジャズに力を入れている。クリスマスのCDは「聴かない」とわかっているレゲエや日本のアイドルものでも買っている(それ以外にも聴いていないCDは数多いが)。結果,クリスマス関係だけで1,300枚程のコレクションになってしまった。その1枚であるビートルズのクリスマスメッセージCDがもう1枚の「貴重盤」である。1960年代の数年間の毎年12月,ファンクラブ会員に送られたレコードをCD化した海賊版(正規のCDは存在しないはず)である。
ジャズは,1950から1960年代の演奏が中心で,購入対象となるCDのミュージシャンはほとんど故人である。ジャズを聴き始めた当初はオムニバスやベストという編集版中心だったが,最近は,発表当時のオリジナルLPと同じ曲順で収録されたCDが好みだ。特定の数名については,それぞれのレーベルのコンプリートコレクションを探している。
また,「Star dust」や「’Round about midnight」など何曲かのスタンダードは,そのいろいろな演奏を探していて,「中上健次」同様,その1曲だけのために1枚のCDを買ってしまうこともある。そして,この,同じ曲にいろいろな演奏が存在することがジャズとクリスマスとの共通点である。同じ曲のいろいろな演奏を聴き比べるのが好きなのだ。結果,クリスマスの曲でも1年中聴いている。
実際,「ホワイト・クリスマス」では,200バージョン以上の演奏,ビング・クロスビーに限っても7バージョンの「ホワイト・クリスマス」CDを持っている。「Star dust」は,ジャズ以外の演奏も多く,5,60バージョンといったところか。元々はディズニー映画「白雪姫」の「Someday my prince will come」なんかも30バージョンといった感じ。ちなみに,落語では「文七元結」を集めている。
曲や演奏者が決まっているので,インターネットを使えば簡単なのだが,一種のゲームとして「基準価格」内のCDをお店で探すのである。
なお,DVDには走らない予定である。DVDにかける金銭的余裕がないことが第一であるが,その前に「好きそうな音楽」にはほとんど映像がないのだ。映像が多い「最近(90年代以降)の音楽」を聴かないことに我ながら感謝(?)している。
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