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ナンバー16、2009年 目次へリンク 2009年9月30日発行
ティールーム
電子辞書について思うこと
中村 成夫(なかむら しげお)
薬学部准教授
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 今から十数年前,お世話になった先生の息子さんの中学入学祝いをどうしようかと考えながら,家電量販店をぶらぶらしていたとき,当時としてはまだ珍しかった電子辞書を見つけた。電子辞書なるものの存在は知っていたが,国語辞典と英和辞典が入ったものがそこそこの値段で買うことができると分かり,さっそく息子さんにプレゼントした。彼はとても喜んでくれたが,私にとっては意外なことに,先生の奥さんの反応が今ひとつだった。あとで伺うと「時代の流れだとは思うけど,辞書ってやっぱり手で引くものじゃない?」とのことだった。つい最近,新聞の投書欄で同じような文章を目にして,当時のできごとを思い出した。どうも電子辞書反対派の勢力は今も昔も変わらないらしい。
 私は電子辞書反対派ではない。何しろ軽くて,持ち運ぶのが楽だ。中学・高校時代,片道2時間かけて通学していたため,英和辞典を持ち歩くのが重くて苦痛だった。学校と自宅に同じ辞書を一冊ずつ置いていたリッチな友人をうらやましく思ったものだ。
 今,私のいる研究室の学生や大学院生に訊いてみると,ほとんど全員がごく普通に電子辞書をカバンに忍ばせているらしい。気が付いたら,いつの間にかすごい勢いで電子辞書が普及していたようだ。私のいるところが理系の研究室ということも関係あるのだろうか。偏見かもしれないが,文系の学生は電子辞書より紙の辞書を好むような気がする。
 私も理系の人間のはしくれなので,電子辞書のような小型機器を使いこなすのは大好きだ。検索スピードは圧倒的に電子辞書の方が速い。もっとも,紙の辞書で目指す単語のページを一発で開くことができたときの感動は味わえないが……。また,関連語にジャンプする機能,うろ覚えの単語でも一部分が分かれば引けるあいまいな検索機能,さらには搭載されている他の辞書や事典も横断的に一括検索する機能,これらは電子辞書でなければなしえない機能だろう。英単語の発音までしてくれる電子辞書もある。最近,ワンセグ搭載の電子辞書まで見かけたが,いくらなんでもそれはやりすぎではないか。
 電子辞書反対派の主張のひとつに,「ある言葉を引いたときたまたま目についた別な項目をつい読んでしまう,といった楽しみが電子辞書にはない」というものがある。これには私も賛同する。辞書の話ではないが,最近の学生は(と言うようになると歳をとった証拠だが)あまり新聞を読んでいない。「ネットニュースで十分だ」と言うが,ぱらぱらと新聞をめくらなければ出会えない新しい知識や発見を彼らは逃していると思う。
 これも辞書ではないが,論文検索についても同じことが言える。私が大学院生の頃は論文検索も簡単ではなかったが,今はネットを介して様々な検索ツールが用意されている。自分が興味あるキーワードを入れれば,過去から最新の論文までたちどころにヒットしてくる。さらに現代では論文誌は電子ジャーナル化されており,パソコンの前にいながらにしてヒットした論文をダウンロードすることができる。これらのことは自分の研究者生活の中でもっとも劇的に変化した部分であり,信じられないほど便利になったことは疑いようがない。
 しかし私は図書館に行って,冊子体の論文誌をぱらぱらと見るのもまた好きだ。自分でネット検索しても絶対に引っかかってこないような論文の中に新しいアイデアを見出すこともある。冊子体の購入をやめ,電子ジャーナルに一本化するのが最近の流れだが,少々寂しい思いがするのはノスタルジーなのだろうか。
 電子的な検索は目的が一本道ではっきりしているのに対し,紙媒体での検索には寄り道的な要素があるのだろう。紙の辞書には紙の辞書のよさがあるのだが,やはり便利さと多機能という点で私は電子辞書に軍配を上げる。そういう意味で,おそらく私は電子辞書賛成派だろう。しかし,実を言うと私自身は電子辞書を持っていない。なぜなら,辞書を引きたくなったときには,近くにいる学生の誰かがすぐに電子辞書を貸してくれるからだ。

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