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ナンバー16、2009年 目次へリンク 2009年9月30日発行
 
リモートアクセスコンテンツ拡充
―信濃町メディアセンター地区契約リソースの提供―
信濃町メディアセンター(しなのまちメディアセンター)

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1 はじめに
 慶應義塾大学信濃町メディアセンター(以下,信濃町MC)では,2009年2月26日のホームページ改訂を機に,信濃町キャンパス所属の利用者を対象として,リモートアクセスコンテンツを拡充した。ここには二つのサービスの進展がある。ひとつはキャンパス外から利用できる電子ジャーナル,電子ブック,データベースといったコンテンツが大幅に増えたことである。もうひとつは,キャンパス外からも,信濃町MCホームページのリストなどを介してキャンパス内と同じインタフェースで利用できるようになったことである。
 このサービスは,2006年11月に開始された,全塾契約のリソースを提供するリモートアクセスサービス(Keio Remote Access Service,以下KRAS)(参考文献・注1)のしくみを基礎としている。今回新たに使えるようになったのは,信濃町MCが独自に契約を結んでいる「地区契約」と呼んでいるリソースで,信濃町のIPレンジのみで提供されていた。しくみとしては,まず従来のkras1というEZProxyと別に,地区契約のリソースを追加登録した信濃町地区のプロキシとしてkras2を用意する。慶應義塾の統合認証基盤である“keio.jp”で認証された利用者の所属をもとに,どちらかのプロキシを割り当て,アクセス可能なリソースを振り分けるものである。同時に,信濃町所属の利用者には,信濃町MCのホームページを利用するようにナビゲーションを切り替えた。従来のKRASではアクセス可能なリソースが全塾契約に限定されていたため専用のコンテンツリストを使用していたが,コンテンツが拡充して,キャンパス内とほぼ同じタイトルにリモートアクセスが可能になったからだ。
 本稿では,今後のサービス展開の参考のために,拡充の経緯,計画と準備,各種の登録作業,稼働後の利用者対応と課題について記録することとする。

2 リモートアクセス拡充の経緯
 信濃町キャンパスのみで使える地区契約リソースをリモートアクセス可能にすることは,多くの信濃町MC利用者の悲願であった。信濃町は,大学病院があり,医学部や看護医療学部とその大学院課程の学生の通うキャンパスである。利用者の多くを占める医学研究者は,特に図書館の電子ジャーナルに大きく依存している(参考文献・注2)。2009年7月現在,信濃町MCの電子ジャーナルリストには,無料のものも含めライフサイエンス分野の電子ジャーナル約9,600タイトルを掲載して提供している。このうち,1,500あまりの地区契約のタイトルには,“JAMA”,“New England Journal of Medicine”といった医学の主要雑誌も多く含まれている。KRASを最初に開始する際も,地区契約リソースの提供が検討された。しかし,EZproxyの維持と,keio.jpとの複雑な連携が必要なサービスを一気に実現するには,様々な資源が不足していた。このため,地区契約リソースのリモートアクセスは,次の段階で対応することにしていた。このたび環境が整い,最も要望の高い信濃町で最初に実現されることになったのだ。
 下準備として2008年5月からアクセステスト,7月からは契約関連の作業を開始した。この時点で,サービス開始を2009年初めに予定されていたホームページ改訂に合わせることに決めた。準備に十分な時間をとることができ,インタフェースの切り替えも利用者に理解してもらいやすいからだ。9月からは,リモートアクセスのシステムを管理するメディアセンター本部(以下MC本部)システム担当と信濃町MCスタッフが直接打合せをもち,本格的な計画と準備に入った。

3 計画と準備
 9月からの打合せは,利用者のアクセスの流れの検討から始まった。選択肢としては,A.最初に認証画面へのリンクをクリックする,B.電子リソースアクセス時に認証画面が出る,という二つの流れが考えられた。表1にあるようにさまざまな観点から比較検討を行い,A案(画面遷移は図1)を採用することとした。決め手となったのは,契約上リモートアクセスを利用できない非常勤講師のアクセシビリティである。PubMed@KEIO(参考文献・注3)はフリーであるが,検索結果から契約電子ジャーナルにアクセスするには,PubMed@KEIOも認証を通さなくてはならず,その結果,B案だと非常勤講師が利用できなくなってしまうのである。一方,A案の短所を補う工夫として,リモートアクセスの際に認証画面に導くため,なるべく目立つアイコンを用意した。また,今開いている信濃町MCの画面がログイン状態なのか判別できるよう,認証後は画面上部に「リモートアクセスログイン中」の表示が出るようにした。
 次に,全塾契約のデータベースと信濃町契約の電子ジャーナルの連動を確認した。その結果,全塾契約タイトルについてもkras2に登録する必要があることが確認され,作業を計画した。
 また,信濃町MCホームページ上のタイトルリストのアイコンも,リモートアクセスを前提として改訂を検討した。従来は,提供元アイコンの色で全塾か地区かの利用地区のみを表していたが,利用地区とリモートアクセス可否を示すアイコンを並べるデザインに変更することとした。

4 契約先および地区における各種登録作業
 2008年7月にMC本部より地区プロキシのIPアドレス,ホスト名の連絡を受け,2009年の洋雑誌契約の諸手続き終了後,各代理店経由で版元へリモートアクセス可否の契約確認,および登録作業を開始した。すでにリモートアクセスを開始していた全塾契約の電子ジャーナルは,ほとんどがパッケージ契約であったが,信濃町契約の多くが個別契約の電子ジャーナルのため,タイトルごとに煩雑な連絡や登録作業が生じた。具体的な作業は以下の二種類である。

(1)版元での地区プロキシIP登録
 版元が設定を管理しているタイトルについては,代理店経由で依頼して,先方にIP追加登録作業を行ってもらった。HighWire Pressなど顧客側で設定するタイトルは,当方でIPアドレス追加登録を行った。

(2)慶應側の登録作業
 慶應側ではkras2へのアクセス先URLの登録と,信濃町MCホームページのタイトルリストの維持が必要である。kras2については月1回のMC本部での更新作業に合わせ,手元のリストをもとに契約先のIPアドレス登録ができたものから作業依頼をした。同タイトルについて,kras2の更新日には,信濃町MCホームページのリスト上のアイコンをリモート可のものに変更する作業をした。
 これらの一連の登録作業にあたり生じた問題点について以下に挙げる。
 a 代理店経由の問い合わせで,版元へ正しく意向が伝わらない場合があった。
 b 同じ版元のタイトルが別代理店経由となる場合があり,代理店,版元の連絡がより煩雑となった。
 c 9月から10月は洋雑誌契約更改時で,代理店,版元,雑誌担当者とも多忙で作業が進まなかった。
 d 信濃町の地区プロキシのIPアドレスは,以前は三田キャンパスのIPレンジだった。このため,全塾契約タイトルの一部で,登録済みの三田のIPレンジの調整や修正の必要が生じた。
 e リモートの可否問い合わせ,本部へのkras2登録依頼用,信濃町MCホームページのタイトルリストの三種のリストを間違いなく同期を取り管理するのが困難である。
 以上のような問題がありつつも,2009年2月末から5回の登録が行われ,2009年7月1日現在,信濃町契約の1,549タイトル中1,380タイトル(89%)をリモート可とすることができた。

5 稼働後の利用者対応と課題

(1)利用者対応
 リモートアクセスコンテンツを拡充し,インタフェースを切り替えるにあたって,利用者向けには利用の手引「リモートアクセスの使い方」を作成し,ホームページ,電子メール,館内で公開,配布した。問い合わせの窓口は信濃町MCパブリックサービス担当の専任職員にしぼることにした。内容によってはkeio.jpの主管部署インフォメーションテクノロジーセンター(ITC)やMC本部へ転送が必要だが,判断が必要で,利用者への対応をマニュアル化するのが難しかったためである。
 リモートアクセスに関する問い合わせは,2009年2月26日〜6月30日までの約4カ月で記録があるものだけで24件で,1年前の同時期と比較すると倍増した。電話,電子メール,対面の順で多く,内容に応じて,信濃町MCの現場から回答,MC本部に相談,ITCへ転送を行った。問い合わせが増加した理由は1)コンテンツの増加,2)ホームページ改訂でリモートアクセスを前面に打ち出すデザインとなり利用が増えた,3)リモートアクセスのインタフェースがMC本部主管の専用のリモートアクセスコンテンツリストから信濃町MCホームページに切り替わり,問い合わせ先が信濃町MCであることが明示的になったため,の三つが考えられる。

(2)主な不具合・問い合わせの原因
 a 利用者ステータス
 信濃町の身分は多岐に渡るため,常勤/非常勤の区分が,利用者本人および現場が使用できる業務用システムでも判断できないことがあり,その都度MC本部に問い合わせた。
 b 利用者のPC環境
 モデムなど利用者のPC環境によってアクセスできない場合があるが,現場担当者の知識では対応が難しいことがあった。
 c 利用者のネットワーク環境
 信濃町の利用者は出向先の病院・機関からアクセスするものも多い。先方のネットワーク設定がkras2で利用するポートのアクセスを許可していないためにアクセスできないと思われる事例が複数あった。先方のネットワーク管理者にポートを開けてもらえるように依頼するにあたって,間に利用者を介しての説明・交渉が難しく,その後に解決したのか把握できない場合があった。

(3)今後の課題
 実際には上記のどれが原因かはすぐに切り分けできず,MC本部での調査を依頼するケースが多い。現在の信濃町の規模では都度の電子メールで問題ないが,今後地区契約リモートが全地区に広がった場合は,利用者への迅速な対応を第一に確保しつつ,本部の負担を減らすフローが別に必要になるかもしれない。

6 おわりに
 2009年は,信濃町MCのリモートアクセスサービスが格段に強化された年となった。上記のコンテンツの拡充,インタフェースの一様化に加え,電子リソースの契約条文を整えることで,研修医や関連病院へ出向している所属の医師などもリモートアクセスが可能となったからだ。これらのサービス拡大は,非来館型の図書館サービスの大幅な改善として評価できる。また,多重のEZproxyの設置とkeio.jpとの連携の開発の経験は,今後ほかの地区の契約リソースについてリモートアクセスを拡大する際,良いプロトタイプとなるであろう。
 一方,残された課題もある。もっとも大きな問題は,信濃町に多く存在する外部資金などで雇用されている様々な身分の研究者や,非常勤の所属者,そして卒業生がリモートアクセスをまったく利用できないことである。契約の際,利用対象となる人数が大幅に増えるため,契約金額への影響は避けられず,無制限にサービスを拡大することはできないからだ。2008年10月に行われた利用者調査LibQUAL+®(参考文献・注4)でも,これらの利用者から「リモートアクセスの拡大」を望む声が,多くコメント欄に入れられている。追加料金を払ってでも,同じように電子リソースを使いたいという希望も聞かれる。今後,代替となる複写お届けサービスの簡便化なども含め,サービスの改善に継続して取り組んでいきたい。
 最後に,プロジェクトチームについてふれたい。今回のリモートアクセスコンテンツ拡充のプロジェクトは,信濃町MCとMC本部システム担当の複数部署や担当が関わる複雑なプロジェクトであった。成功にいたったのは,タスクフォースやワーキンググループなど正式な任命はなかったが,担当者一同が利用者の高いニーズをくみ取り,それぞれの役割を理解し,熱意をもって根気よく取り組んだことが幸いしたと思う。これからも,新たなサービス展開にはこのようなチームワークが鍵となるに違いない。プロジェクトの中途から他の地区に異動したメンバーもいるが,この経験が今後の業務展開に生かせるよう,互いに心からのエールを送りたい。

執筆者一覧
 本稿は下記のとおり,それぞれの業務担当に準じ,該当項目を執筆した。
 1,2,6.酒井由紀子(信濃町メディアセンター)
 3.中川和美(三田メディアセンター)(2008年11月まで信濃町メディアセンター)
 4.柴田由紀子(日吉メディアセンター)(2009年6月まで信濃町メディアセンター)
 5.辻邦弘,吉田真希子(信濃町メディアセンター)

参考文献・注
1)KRAS開始の経緯や技術的な解説は以下に詳しい.
田邊稔,平吹佳世子.“リモートアクセスサービス実現までの経緯と今後の課題(特集[慶應義塾大学]メディアセンターにおける電子情報)”.MediaNet.no.14, 2007, p.2-6.
2)日本の医学研究者を対象とした2007年の調査では,最近読んだ論文の7割が電子ジャーナルで,内8割が大学図書館から提供されているものであった.
倉田敬子ほか.“電子ジャーナルとオープンアクセス環境下における日本の医学研究者の論文利用および入手行動の特徴”.Library and information science.no.61, 2009, p.59-90.
3)PubMed@Keioでは,PubMedのLinkOut for Librariesというサービスを用い,契約やフリーで利用可能な電子ジャーナルタイトルを登録して,専用のフルテキストアイコンを表示させている.
4)慶應義塾大学メディアセンター利用者調査ワーキンググループ.LibQUAL+®2008“調査概要”.(オンライン),入手先<http://project.lib.keio.ac.jp/assess-wg/lq2008.html>,(参照2009-07-01).

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