メディアセンター本部の図書整理担当に着任してから,2009年で早5年目に突入した。最初の1年ほどは目録規則やMARC21に準拠した目録の記述方法を,しばらくすると日本十進分類法(以下,NDC)と慶應特別分類ルールを,最後に米国議会図書館件名標目表(以下,LCSH)のトレーニングを受けた。目録を作っては,何度も何度も数えきれないくらいの赤ペンチェックと指導が入り,慶應の資料を整理するのに必要な知識と感覚を,徹底的に体にたたきこまれた。
そうして過ごしたこの5年間。ほぼ毎日,一日の大半の時間を図書の目録作成に費やしてきた結果,職業病とでも呼ぶべきか,妙な癖が身についてしまった。カタロガーを名乗る自信があるかと問われると肯定するには少々ためらいがあるのだが,おそらくカタロガーの皆が悩まされているであろう(?)この病は,着任1年目ぐらいから自覚症状がある。
最初に症状が出たのは,誤字脱字,半角全角の違い,余計なスペースの有無などに対する神経質なまでの過剰反応である。私の場合は特に,半角文字と全角文字が入り混じった文章に対する拒絶反応が強いようで,半角数字に全角のカンマが打たれていたり,半角英文の中で全角のダブルクオテーション(“ ”)が使用されていたりする文章を目にすると,もう気持ち悪くて仕方ない。実のところ,全角の方が見た目に美しかったり見やすかったりするので,意図してそのようにされている場合も多々あるのだが,そんな事情をすべて無視し,問答無用で修正したい衝動にかられる。
そして,何よりも生活に重大な影響を与えているのが「本を見れば目録をとりたくなる」という,まさに病気としか言いようのない症状である。読書家というほどではないものの人並み程度には本を読むので,書店通いは楽しみのひとつであったのだが,ここ数年は足が遠のいている。うっかり仕事帰りに立ち読みでもしようものなら,途端に目録スイッチが入ってしまうからだ。
平積みされた本を何気なく手にとり,パラパラとページをめくる…までは普通なのだが,身に染み付いた習慣から,無意識に標題紙を確認してしまう。続けて,手は流れるように奥付をチェック。書店で手にするのは,普段仕事で目にすることが少ない軽いタッチの本であることが多いのだが,こうした本はデザインやタイトルに凝っていて,目録の視点から見ると難問であることが多く,思わず本気になってしまう。「タイトルはこれで決まりだけど,この場合,英語タイトルを並列タイトルとするべきだろうか?責任表示が複雑で,基本記入をどれにするか迷うなあ。すごく変わった装丁だけど,どうやって注記しようかな。NDCを付与するなら社会科学の3類…いや,現代史ととって歴史の2類が適当?でも,LCSHの主標目を考慮すれば…」思考は一気にマニアックなカタロガーモードへ突入である。気分転換に立ち寄ったつもりが,かえって疲れてしまうこともしばしば。整理担当に着任して間もないトレーニング時代には,店先で立ったまま頭の中で目録を完成させ,すっかり満足して(本を買わずに)店を後にしたこともある。奥付ページを開いたまま立ち尽くす客が,店員からどのように思われていたか今更ながらに心配になる。
この“アレルギー症状”を引き起こすことなく安心して楽しめる数少ない聖域であったコミックも,昨年度の漫画資料の大量受入により,あえなくアレルギー対象へと転落してしまった。(みなさん,コミックは各巻タイトルを持っている場合があることをご存知でしたか?私はコミックを読み始める前に,いつも各巻タイトルを探しています。)現在のところ雑誌だけは難を逃れているものの,いつアレルギー源へと変化するか予断を許さない。
これは本に関わる仕事を選んでしまったが故の宿命だろうか。何も考えずにわくわくとページを開いていた時代が懐かしくすらある。仕事のオンとオフを上手に切り替えてこられた諸先輩方に,そのコツをぜひとも伝授していただきたいものだ。
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