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ナンバー16、2009年 目次へリンク 2009年9月30日発行
 
ICOLC 2009 Spring Meeting体験記
酒見 佳世(さけみ かよ)
メディアセンター本部
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1 はじめに
 2009年4月,米国バージニア州のCharottesvilleという町で,国際図書館コンソーシアム(ICOLC:International Coalition of Library Consortia,以下ICOLC)の2009 Spring Meetingが開催された。Charottesville(シャーロッツビル)にはバージニア大学があり,キャンパスの中心には,大学の創始者である第3代アメリカ大統領トマス・ジェファーソンが考案したAcademical villageという建物(写真1)がある。近郊には,やはり彼が建てたMonticelloと呼ばれる家(写真2)が残っていて,2つ合わせて世界遺産に登録されている。全体にのんびりとした雰囲気の美しい町であった。

2 ICOLC 2009 Spring Meetingの概要
 ICOLCは,図書館コンソーシアムのコンソーシアムと言い表されることが多く,その活動はボランティアによって支えられている。1997年に最初の会合が開かれて以降,現在では年に2回,米国と欧州で会合が開催されている。各国の図書館コンソーシアムの担当者が一同に会し,情報の交換や議論が行われており,今回の会合には13カ国,94名の参加者があった。参加者は,コンソーシアムやそれに準ずる組織に属している必要があり,筆者は公私立大学図書館コンソーシアム(PULC)のメンバーとして参加した。日本からは他に,国立大学図書館協会(JANUL)からお二人が参加されていた。
 会合の詳細な内容については,別途『大学図書館研究』で報告する予定のため,本稿では特に個人的に印象に残った事柄について記しておきたいと思う。

3 経済危機におけるコンソーシアムと出版社
 ICOLCは今年1月,「世界的経済危機とそのコンソーシアム・ライセンスに与える影響に関する声明」を公表している(参考文献1)。この声明で,今回の経済危機を乗り切る方策として,柔軟な価格決定と,主要なコンテンツやアクセスを削減することなく可能な限り契約を維持することの2つが提言されている。
 今回の会合では,この提言に対する回答という形で,Elsevier,Wiley,Springer,APSの4社のプレゼンテーションが行われた。まず最初に感じたのは,彼らの主張が,日本での交渉時と特に変わりはないということであった。よく考えれば当たり前の話なのだが,海外の版元は日本の大学に対しては強く出てきているのだろうという,若干の被害者意識のようなものが自分の中にあったことは否めない。
 各社の経済危機への対応については,どこも同じようなもので,「一括して値下げをすることはできない。個々の図書館が置かれている状況はそれぞれ違うので,個別に対応したい」という回答であった。これに対して「それはコンソーシアムは不要ということか?」という質問がその都度投げかけられていたのは非常に印象的であった。PULCのように,メンバーそれぞれが個別の大学に属した上で,コンソーシアムの活動を行っている立場では,そういった質問はまず出てこないだろうと思う。コンソーシアム自体が一つの組織として独立している場合,彼らは図書館と版元との間に立って,自分たちの役割を常に主張する必要がある。この質問によって,改めて,その立ち位置の違いを認識させられた。
 その一方で,版元のこの回答は,図書館が何も主張しなければ,自動的に値上がりを容認したということにもなりうる。予算が足りないのは多かれ少なかれ,どの図書館も同じ状況であり,後は個別にその苦しい事情を訴えるしかない。それぞれの苦境の度合いを版元が判断することになる。版元と契約条件について交渉するのは,非常に骨の折れることであるが,常に主張し続けるしかないということを再確認させられた。版元との価格交渉の場面では,図書館の手に余ることが多くあるように思われるが,米国のコンソーシアムなどでは,実際の価格交渉は図書館員でなく,エージェントが行なっているという話を聞いた。日本でもそうした専門家の関与の可能性を考慮してもよい時期にあるのかもしれない。

4 コンソーシアムの成り立ち,仕組みの違い
 日本で図書館コンソーシアムといえば,電子ジャーナルなどの電子資料の共同購入,あるいは版元に対してまとまって価格交渉を行うための組織と捉えられているように思う。しかし,今回の個別セッションの内容を見ると,Next Generation Systemsや,Shibbolethといったテーマが並んでおり,上記のようなイメージからは想像しづらいものがあった。従来,米国などでは,図書館間貸出の促進や印刷された資料の共有をはかるために,地域内の総合目録を作成し,図書館コンソーシアムが形成されてきた経緯がある(参考文献2)。コンソーシアムは州ごとの単位で形成され,中には公共図書館や学校図書館が含まれているものもある。予算は州から出ていて,同じコンソーシアム内では,皆同じコンテンツを共有する。このため,リンクリゾルバやOPACを共有するメリットがあるのだろう。

5 ビックディールの捉え方
 長い不況により,毎年のように予算が削減されてきた日本の状況から見れば,購読規模維持という電子ジャーナルの価格モデルは不条理そのもののように感じられるが,今回の会合のやりとりの中で,ビックディールはwin-winのモデルであったという発言があり,非常に新鮮に感じられた。紙の雑誌の値上がりが続いていた時代,プライスキャップの提案は悪い話ではなかっただろうし,何より,購読タイトル以外のタイトルへのアクセスが比較的少額で可能になるということは,電子化の効用の一つであっただろう。不況で予算が削減されたからといって,突然手のひらを返したように,これまでの価格モデルが全面的に悪いとは言い難いのか,ICOLCの声明や今回の会合の議論でも,対決姿勢で臨むというよりは,お互いの状況を理解し,協力して,この不況を乗り切ろうというニュアンスがあったように思う。

6 おわりに
 2009年7月の段階で,主要学協会からは,例年よりも早期の価格設定,プリントからオンラインへの移行促進,早期の発注に対するインセンティブなど,図書館の現状を踏まえた値上げ抑制策が発表されている(参考文献3)。今後,安い料金で最大限のコンテンツとサービスを求める図書館と,利益を追求する商業出版社との間で,新たなwin-winの価格モデルは登場してくるのか,引き続き状況を見守りたい。

参考文献
1)“Statement on the Global Economic Crisis and Its Impact on Consortial Licenses, January 19, 2009”. International Coalition of Library Consortia(ICOLC).(online), available from <http://www.library.yale.edu/consortia/icolc-econcr
isis-0109.htm
>,(accessed 2009-07-01).
2)永村恭代.“コンソーシアム方式による電子情報へのアクセスの確保”.カレントアウェアネス.no.220, 1997, p.8-10.
3)“経済危機と学術出版”.ユサコ株式会社.Usaco New Media News. no.192, 2009.(online),available from <http://www.usaco.co.jp/new_media_news/un2fc192.htm
l
>,(accessed 2009-07-01).

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