はじめに
慶應義塾大学メディアセンターでは電子ジャーナルサービスの新たな展開を図るため,2003年度より電子ジャーナルの管理体制の見直しに着手した。本稿では電子ジャーナル管理システムであるEBSCO A-to-Zサービスの話題を中心に,電子ジャーナルタイトル管理の現状を紹介する
1. 電子ジャーナルタイトル数の増加
メディアセンターは日本の大学としてはいち早く電子ジャーナルを導入し,すでに5年以上のサービス実績を持つ。特にこの1〜2年のタイトル数の増加はめざましく,2004年8月現在,利用可能な電子ジャーナルタイトル数は延べ約1万9千タイトルに及ぶ。現在世の中で発行されている電子ジャーナルは学術雑誌以外のタイトルも含むと約3万タイトルであることから(Ulrich社の業務用Webページによる)本学ではその半数以上が利用できることになる。
また,電子ジャーナルタイトル数とメディアセンター所蔵の冊子体洋雑誌のタイトル数を比較してみると,冊子体のタイトル数は横ばいから減少に転じているのに対し,電子ジャーナルの占める割合が次第に大きくなっていることを読み取ることができる(図1)。
電子ジャーナルタイトル数は急増しているのにもかかわらず,図書予算が増えることはない。そのため各地区メディアセンターでは冊子体との二重投資を防ぐため,冊子体の購読中止を検討せざるを得ない状況に追いこまれている。
一方,電子ジャーナルの購入方式にも変化が生じている。メディアセンターでは2004年より全学的に私立大学図書館コンソーシアムによる電子ジャーナル購入を始めた。コンソーシアム契約では出版社が契約単位となっており,冊子体の契約とも連動していることなど,従来の洋書取次店からの購入による雑誌管理体制では対応できなくなりつつある。
このような電子ジャーナルをとりまく状況の大きな変化に対応していくためには,電子ジャーナルの管理体制を整備しておくことが急がれる。
2. 雑誌管理の視点から見た電子ジャーナル
電子ジャーナルは冊子体の雑誌管理業務と比較してみるといくつかの異なった特徴がある。
第一の特徴として,電子ジャーナルは複数タイトルをまとめてパッケージ購入することが多く,パッケージに含まれるタイトル数も1桁のものから数百に及ぶものまでまちまちである。1タイトルずつ選定されて購入に至る冊子体とは発注単位が異なる。
第二に,パッケージ単位の契約とは言うもののパッケージに含まれるタイトルは必ずしも固定されているわけではない。随時生じるタイトルの変更情報を追跡する必要がある。
第三に,タイトル毎に持つ情報として,リンク先URLの管理が不可欠である。電子ジャーナルは冊子体と異なり現物が存在しないため,毎号のチェックイン作業がなく一見管理に手間がかからないようにも思える。しかしタイトル毎に持つリンク先URLは随時変更される可能性があるため常に注意が必要である。
3. EBSCO A-to-Zサービスの導入
3-1. 導入のねらい
メディアセンターでは電子ジャーナルタイトル管理のために2004年よりEBSCO International Inc.が提供するEBSCO A-to-Zを新たに導入した。外部機関のサービスを導入することにより以下の効果を期待した。
組織的な運用体制の確立
メディアセンターではこれまで,電子ジャーナルタイトルリストであるEJ-OPAC作成業務を,主として各地区業務と位置付け,データ作成は各地区データベース委員が行い,データ登録を本部が各地区と連携をとりながら行なってきた。EBSCO A-to-Z導入を機に,本部もデータ作成を分担した上で登録までの運用を統括することにより,組織的な運用体制の確立を目指した。本部内では,雑誌担当を中心にデータベース担当と連携を取りながら行うこととした。
EBSCO A-to-Zという全学共通のプラットフォームを使用することにより,同じ条件でデータが作成されるため,メディアセンター全体としてのタイトル数や契約状況をより正確に把握することができる。
業務負荷の軽減
電子ジャーナルに不可欠なリンク先変更の管理と,パッケージに含まれるタイトル変更の管理も各図書館がそれぞれに行なわなくとも,外部サービスに期待できる部分である。これら2つの管理を外部サービスに委ねることにより,図書館側の業務量を減少させ,かつ更新頻度を上げることが期待できる。
EJ-OPAC,KOSMOSIIの機能拡張
EBSCO A-to-Zで登録したタイトル情報は,現行EJ-OPACのアルファベット順リストへ反映させるだけに留まらず,新たなアクセス手段として活用する可能性を持つ。
例えば現行EJ-OPACにはなかった主題一覧,出版社一覧を表示させることが可能となる。また,業務用のEBSCO A-to-Zに登録された電子ジャーナルタイトル情報の書誌データを利用者用に別に調達することで,KOSMOSII-OPACに搭載することも期待できる。
3-2. EJ-OPAC登録の流れ
EBSCO A-to-Zでは,地区毎にアカウントを取得した上でWeb上のAdmin Home Pageに向かって登録作業を行う(図2)。
Admin Home Pageにはタイトルリストの他にパッケージリストが用意されており,数百タイトルを1回のクリックで登録することができる。登録作業後ダウンロードすると以下の項目の最新情報を入手することができる。
タイトル Title,TitleSort
パッケージ名 Source
リンク先 URL
出版社 Publisher
国際標準逐次刊行物番号 PrintISSN,OnlineISSN
収録範囲 Managed Coverage,Custom Coverage,Embargo
主題情報 Subject Code,Subject Name
カスタム情報 IsCustom
雑誌担当者は,パッケージ名とタイトルを的確に選択すれば,頻繁に変更されるリンク先情報をはじめ出版社や収録範囲などの更新管理をEBSCO側に委ねることができる。収録範囲については自館固有の情報が登録できるようCustom Coverageが用意されている。その他,全項目を自館で管理することもできるよう,Is Customの項目がある。
全学で利用できる電子ジャーナルは本部が,契約地区でのみ利用できる電子ジャーナルは各地区が登録するよう分担した。地区毎に別アカウントで登録することにより,地区によるアクセス条件のちがいを反映させることができた。
各地区で随時登録したデータを,月1回ダウンロードし,本部で重複等を統合した上で,EJ-OPACへロードする(図3)。
和雑誌等EBSCO A-to-Zに収録されていないタイトルは,別途Excel形式でデータを作成し,月1回EJ-OPACへ直接登録する。
3-3. これまでの成果
EBSCO A-to-Zを導入して約半年,EJ-OPAC月1回更新の新たな管理体制の基礎はできてきた。1クリックでパッケージ登録される簡便さを活かして,これまで登録を見合わせていたLexis-NexisやGaleなどのパッケージも新たに登録した。
初期登録の際に一番手間を要したのは,パッケージに含まれるタイトルの確認作業であった。EBSCOのタイトルリストとこちらの契約タイトルリストが一致しないことがあるため確認が欠かせない。確認の結果パッケージに含まれることが判明したタイトルを図書館側で修正してしまうとEBSCO A-to-Zの更新対象から外れてしまう。それではEBSCO A-to-Z導入のメリットが半減してしまうため,EBSCO社に対応してもらうよう随時要請している。
タイトルが一致しない原因の一つとして,現状ではEBSCO社側のタイトル変更の更新頻度がこちらの期待値より低いことが挙げられる。電子ジャーナルリスト管理の豊富な実績を持つ医学メディアセンターでは,迅速さと正確さの点において,自館で管理しているEJリストの更新レベルに達していないと判断し,今年はEBSCO A-to-Zの導入を見合わせている。
EBSCO A-to-Zは,サービスを開始して日が浅いためまだ不十分な点もあるが,幸いEBSCO社には図書館側からの改善要望を受入れる体制がEBSCO社にできている。メディアセンター本部ではEBSCO A-to-Zの課題および今後のサービス展開についてEBSCO社と話し合う月1回ミーティングを月1回以上のペースで行なっている。
4. 電子ジャーナル管理の今後の予定
EBSCO A-to-Zの持つ機能を利用した2004年度中の計画としては,まずEJ-OPACに主題別一覧と出版社別一覧を追加する予定である。主題別一覧はLC分類コードによる一覧で,雑誌タイトルを特定せずに電子ジャーナルを探す利用者への便を意図している。出版社別一覧は主に図書館スタッフの利用を想定している。もう一つは,電子ジャーナルの書誌データをMARC形式で調達し,現行のKOSMOSII-OPACでも電子ジャーナル検索が可能になる見込みである。EBSCO A-to-Zに登録したリンク先や収録範囲などの情報を反映するため,KOSMOSII-OPACの電子ジャーナルデータも月1回の頻度で更新される。
タイトル管理の基盤ができたら,いよいよ電子ジャーナルのタイトル情報と雑誌論文・記事情報をつなぐことが可能になる。Link Resolver機能によって,利用者は記事検索から電子ジャーナル本文へ直接導かれることになる。この機能をOPACに持たせるため,EBSCOが提供する“LinkSource”にA-to-Zのタイトル情報を登録する試みを既に開始した。(参考文献1)
さらなる課題としては,電子ジャーナルの契約情報の管理基盤を構築することが挙げられる。EBSCO A-to-Zはタイトル情報を管理することができるが支払い業務とは連動していない。電子ジャーナルの契約単位はタイトル毎の場合もあれば,1契約で数百タイトルというパッケージ契約の場合もある。その1契約を複数の地区で支払い分担することが多い。また,冊子体と異なり実体のないサービスのため,閲覧範囲,二次使用の条件,アーカイブ保証といった利用契約内容が重要である。これらを現行の業務用雑誌システムKOHEIによって冊子体と同様に管理することは困難である。そこで契約情報の基本データを作成するため,2004年より,発注支払情報を一覧する「電子ジャーナル/データベース契約一覧」と契約内容を記した「電子ジャーナル契約管理票」の作成を開始した。契約情報も本部が統括することにより全学で情報を共有することが期待できる。
5. おわりに
電子ジャーナル導入後5年以上が経過したが,毎年変化する提供方法,価格体系,コンソーシアム参加などの状況に応じて,受け入れ側は今もなお模索状態が続いている。その一方で大学図書館の主要なコレクションである学術雑誌の電子媒体への移行は加速し,電子ジャーナルの存在は,すでに図書館業務に様々な影響をもたらしている。特に図書予算,リソースシェアリング,書庫計画などの今後の展開を考える上で電子ジャーナルの存在を無視することはできない。
電子ジャーナルを利用者へよりよい形で提供していくためには,今後変化していくどのような状況へも対応できるように電子ジャーナル管理体制の整備をさらに推進していくことが必要と思われる。
参考文献
1)千村文彦.“情報のリンク付け”.MediaNet. No.10, 2003, p.5-7.
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