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ナンバー14、2007年 目次へリンク 2007年10月1日発行
特集 メディアセンターにおける電子情報
貴重書業務とデジタル化の展開
倉持 隆(くらもち たかし)
三田メディアセンター
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1 はじめに
 慶應義塾大学三田メディアセンター貴重書室(以下,貴重書室)では,和漢洋の稀覯書(歴史的価値のある古い書物)や古文書等の貴重資料を管理している。その業務内容は,学術研究目的の閲覧者への対応,展覧会への出品,出版物やテレビ番組への画像提供など,多岐にわたっているが,これらの業務のなかで,近年デジタル画像を用いるケースが急速に増加している。例えば,研究者からの貴重資料複写依頼では,デジタル画像からの紙焼きが大きく増加し,出版物・テレビ番組への画像提供でも,JPEG画像提供がかなりの割合となっている。貴重書室においてどのようにデジタル画像が活用されているかを見ながら,貴重書デジタル化の利点と課題について,考察してみたい。

2 貴重書デジタル化の意義
(1)研究・教育支援における効果
 慶應義塾図書館における貴重書デジタル化の歴史を振り返った時,まず1996年にグーテンベルク聖書の購入を契機に文学部・理工学部などの教員が中心となって発足した慶應義塾大学HUMIプロジェクトの存在が大きい。「HUMI(HUmanities Media Interface)」は「人文科学研究における新しい情報伝達手段の導入」を意味し,デジタル技術を積極的に導入することによって,多くの貴重書がデジタル化され,長く研究に活用されてきた(参考文献1)。
 一方,図書館員が実践的に撮影に取り組んだプロジェクトとしては,昨年度から開設された「慶應義塾図書館デジタルギャラリー」があげられる。福澤諭吉の著作・高橋誠一郎浮世絵コレクション・インキュナブラコレクション等の画像が公開され,さらなる内容充実を目指して,準備が進められている(参考文献2)。
 ここで貴重書室に目を向けると,従来はホームページから閲覧できる「慶應義塾写真データベース」(慶應義塾・福澤諭吉関係の写真をデジタル化したもの)の画像提供や,館内小展示の資料作成など,デジタル画像の利用はごく一部に限定され,撮影も簡易的なものしか行うことができなかった。しかし,デジタルカメラの品質向上や,デジタル画像の取り扱いが一般化すると,貴重書に関する複製の大半をデジタル画像が占めるようになってきた。これにはメディアセンター内に配属された専門スタッフの協力を得られたことが大きい。
 では,具体的に貴重書室ではどのようにデジタル画像を活用しているのか,最初に研究・教育支援の分野での事例を見ながら,貴重書デジタル化の利点を考えていきたい。
 まず何よりもデジタル画像の威力を感じた事例は,紙背文書の複写のケースである。貴重書室に『(園城寺)大堂供坊帳』という,三井寺の名でも知られている園城寺(滋賀県大津市)に関する室町時代の資料が所蔵されている。その紙背(裏面)には「杜詩抄断簡」と呼ばれる,中国唐代の詩人杜甫の漢詩が書かれており,今回取り上げたいのは,その紙背の複写である。この資料は薄紙による裏打ちがなされているため,紙背の文字はその薄紙を通して読むしかない。紙背の文字も比較的はっきりと書かれているため,薄紙で曇った感じになるものの,資料原本での解読は十分可能なものであった。ただ,デジタル画像で紙焼きした場合に,果たして文字を解読できるのかが問題であった。専門スタッフにその点を伝えたところ,通常の画像にコントラストをつけ,文字がくっきり浮かび上がる形で画像を仕上げることとなった。その結果,通常よりも格段に文字が読みやすくなり,研究利用に耐えうる複写物を提供することができた。従来のマイクロフィルムでは,紙焼き時にこれほどの解読は不可能であったと予測される。つまり,デジタル化によって,これまで複写が難しかった資料についても,利用者の希望に応えることが可能となったのである。
 また,カラー画像が利用できる点もデジタル化の大きな恩恵の一つである。カラーの複写はもちろんのこと,資料の閲覧・見学の利用にも役立てることができる。例えば,絵巻物のような資料は,開くのに時間がかかり,何箇所もの図像を同時に見ることは難しい。特に,授業での見学に供する場合は,時間やスペースなどの制約もあり,折角の資料を十分に見せられないことが多かった。このような絵巻物についても,デジタル化によって,一度に多くの画像をカラーで見ていただくことが可能となった。例えば,重要文化財に指定されている江戸時代の解剖図『解剖存真図』は,授業での見学の際に,好きな画像を選びながら見ることができた。デジタル画像の閲覧は,原本を直接目にしたときの感動には代えがたく,あくまで代用ではあるが,資料の概要を知ってもらうためには有用性も大きい。
(2)掲載・放映画像の提供サービスの向上
 次に,出版物・テレビ番組への画像提供におけるデジタル画像の活用について考えてみたい。
 貴重書室では,所蔵資料の画像について,出版物へ掲載を希望する場合や,テレビ番組での放映を希望する場合は,使用許可願を提出してもらい,許可書とともに画像の「貸与」を行っている。2年ほど前までは,ポジフィルムでの提供数も多かったが,現在はデジタル画像での提供が主流となっている。申請する出版社・番組制作会社も,編集に便利なこともあってのことか,デジタル画像希望を明記するケースも多い。これは貴重書室にとっても利点があり,容量が少ない画像はメール添付で希望者へ送付することが可能となり,手続きに要する時間が大幅に短縮された。
 さらにメール送付も不要な場合もある。これは近年に始まったことではないが,前述した「慶應義塾写真データベース」や「貴重書紹介」の画像をそのままダウンロードして掲載利用する場合は,掲載許可の手続きのみ郵送で行い,画像のやり取りはしていない。ホームページ掲載の画像は解像度が低いものであるが,申請者がその画像で構わない場合には,そのままの利用を許可しているためである。例えば,江戸時代の博物学者・戯作者である平賀源内の肖像は,貴重書室からの画像提供回数が最も多い画像といえるが,「貴重書紹介」のコーナーに掲載されているため,ダウンロードして利用されることも多い。(高解像度の画像を希望する場合は,画像の容量に応じて,CD-ROM貸与,メール添付の形で送ることとなっている。)以上のように,貴重書のデジタル化によって,掲載・放映に関しても,サービス向上を実現することができた。

3 貴重書デジタル化における課題
 これまで貴重書をデジタル化する利点について述べてきたが,必ずしも手放しで喜んでばかりもいられない。利便性が高まったことにより,新たな問題や課題も生じてきたからである。具体的には,複製物に対する権利の問題,安易な申込みの増加,長期的保存の問題があげられる。
 まず,複製物に対する権利の問題を見ていくこととする。デジタル画像の提供が増えたことにより,高精細の画像が提供先にも数多く残るようになった。複製や譲渡が簡単なデジタル画像は,提供者が知らないところで,無断転用される恐れもある。しかし,法的には,著作権が消滅した著作物については,所有権を持つからといって,その複製利用まで制限する権限は認められていない(参考文献3)。とはいえ,複製物を無制限に利用させることは,資料を管理する上で好ましいことではない。なぜならば,こちらの意図しない形での転用や,画像の加工などによって,第三者が引き起こした問題であっても資料所蔵者に目が向けられ,管理責任が問われることが予想され,慶應義塾や慶應義塾図書館のイメージを傷つける恐れがあるからである。そこで,貴重書室では,次のような掲載許可の条件を設けて,掲載画像への管理を行っている。
 ・申請目的以外に使用しない。
 ・「慶應義塾図書館」所蔵資料であることを明記する。
 ・掲載物,録画(該当部分で可)を1部寄贈する。
 ・画像を第三者に譲渡しない。
 ・フィルム・CD-RWによる画像貸出の場合は1ヶ月以内に返却する。
 ・電子媒体の場合の解像度は800×600ピクセル以下とする。なお,インターネットに載せる場合は最長6ヶ月間とする。
 ・規定の使用料を支払う。
 以上に加えて,申請者自身が過去に掲載許可を得た画像を,再度手続きをとって転載する場合を除き,原則として画像の転載を許可していない。この条件は,第三者への画像の提供・転載,無断商業利用を防ぐことを目的としている。例えば,一般図書に掲載されている慶應所蔵資料の画像を転用することは許可せず,改めて通常の許可手続きをとってもらい,こちらから画像を送付することとしている。
 次に安易な申込みの問題であるが,デジタル画像は扱いも楽で提供する時間を短縮することが可能になったためか,申請数も至急の依頼も急増している。例えば,午前中に電話で申込みがあり,その日のうちに画像を取りに行きたいという依頼もある。業務に余裕がある時は,そのような要望に応えることも可能ではあるが,教員・学生に対する支援業務をなげうってまで行うことはできない。さらには,テレビ番組での放映の場合には,番組制作会社が至急の依頼でデジタル画像を借り受け,結局は放映しなかったというケースも見られるようになった。所蔵資料を広く公開し提供することは,社会に対する文化的な貢献として大切なことであるが,大学図書館本来の業務である研究・教育支援を疎かにするようなことがあってはならない。そこで,貴重書室においては,先方の目的や意向を確認しながら安易な申込みにつながらないよう配慮している。
 さらに,デジタル画像の長期的保存も大きな課題となっている。マイクロフィルムのようなアナログ資料が,環境さえよければ長期的保存が可能であるのに対し,デジタル媒体は読み取るソフトウェアやシステムの更新によって利用できなくなる可能性もある。近年はどのような環境でも利用できる汎用的な画像を撮影する工夫がなされているが,将来的な保存・利用の問題は完全には解決されていない。また設備投資や人件費など,デジタル化にかかる費用も大きく,その捻出も大きな問題である。以上のように,継続的にデジタル化を行っていくためには,課題も多い。

4 おわりに
 以上見てきたとおり,多くの課題は残されているものの,貴重書のデジタル化によって,研究・教育支援業務の幅が大きく広がったことは間違いない。だが,ここで忘れてはならないのが,デジタル画像を生かすための環境づくりである。デジタル技術も内容豊かな資料群があってこそ輝きを放つものであり,その輝きを増すためには,所蔵資料の目録整備が重要である。特に,貴重資料に関しては,冊子体目録を作成し,資料の所在を広く紹介することが研究分野において大きな貢献となろう(注1)。研究者にとっては,目録によって多くの資料の所在が明らかとなり,閲覧可能となることが,研究の深化の上で欠かせないことである。
 慶應義塾図書館は,長きにわたり,購入・寄贈などのさまざまな形で膨大な資料を収集してきた。特に,貴重資料については,蔵書の充実を図ってきた教職員,塾員をはじめとする義塾内外の多くの方々の努力が結晶したものであるといえる。これらの資料を広く公開し,研究・教育に役立て,後世へ伝えていくことがわれわれ図書館員に課せられた課題であろう。その課題を果たすために,貴重書のデジタル化が必要不可欠であることは間違いない。高度なデジタル技術の利用が可能となったいま,その技術を十分に活用し,研究・教育に最大限の寄与を果たすためにも,貴重資料目録の充実が重要な課題であると思われる。

参考文献
1)慶應義塾大学HUMIプロジェクト.“HUMIプロジェクトについて”.(オンライン),入手先<http://www.humi.keio.ac.jp/jp/introduction/index.html>,(参照 2007-06-29).
2)慶應義塾図書館デジタルギャラリー.(オンライン),入手先<http://project.lib.keio.ac.jp/dg_kul/>,(参照 2007-06-29).
3)盛岡一夫.“著作権と所有権の関係”.判例著作権法.2001, p.939-947.


1)現在,和漢古書に関しては,冊子体目録を作成中である。詳細は高橋智・筒井利子・片桐裕恵,慶應義塾図書館所蔵和漢古書目録作成プロジェクト.Medianet. No.10, 2003, p.18-23を参照。

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