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ナンバー17、2010年 目次へリンク 2010年11月30日発行
特集 KOSMOS III―新図書館システムの導入―:第2部
AlephをKOSMOS IIIとして稼働させるために―発注・受入・支払業務設計―
中村 和美(なかむら かずみ)
メディアセンター本部
岡野 純子(おかの じゅんこ)
メディアセンター本部
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1 KOSMOS IIIで目指したこと
 1998年10月に全地区(注1)の収書・目録業務を行う集中処理機構がメディアセンター本部のもとに発足してから10年以上が経過した。安定運用する中,いくつか課題も見えていた。KOSMOS IIでは,図書発注・受入は『ちょいす君』(注2),雑誌発注・受入と電子資源の支払は『KOHEI』(注3),目録・閲覧は『CALIS』(注4)システムが分散していたため,業務は集中する必要があったが,テクニカル業務の再編を可能にするため,Alephという統合システムを導入し,図書も雑誌も同時に移行することになった。この移行では,OPAC,貸出などの利用者サービスを支える発注・受入・支払業務の「効率化」,「リアルタイム化」を目標に,業務フローの見直しと,パッケージシステムへの搭載に取り組んだ。

(1)予算管理表のリアルタイム化
 KOSMOS IIでは,図書は『ちょいす君』,雑誌は『KOHEI』とシステムが分散していることがネックとなり,予算執行状況を確認するための予算管理表の更新は半日に1度であった。Alephで処理することにより,リアルタイムで予算執行状況を把握できるようになった。このリアルタイム化は年度末の予算消化,期ずれ防止対策(注5)に非常に有益である。また,執行予測を立てやすくするため,発注額を外貨で入力できるようにしたり,すぐに金額が反映されるように,図書の処理工程を減らす等の工夫をした。雑誌の処理においても受入データとのリンクを必須として支払管理を行っていた都度払い雑誌について,発想の転換を行い,受入データと支払データを切り離した管理を行うことにした。また,Alephでは各予算コード単位での執行状況しか確認できないため,全予算コードの状況が一覧できるように,Web予算管理表(外付けシステム)を用意した。また,今まで本部で一括して作業していた予算額設定や予算コード作成なども地区で行えるよう,予算管理者の権限を拡大した。

(2)図書と雑誌の業務および電子資源の支払処理の業務統合
 システムも業務フローも異なっていた図書と雑誌の業務統合を行うにあたり,第一に,業務フローの見直しが必要となった。図書は単発受入,雑誌は継続的受入であるため,全く同じフローにはできなかったが,「発注」,「受入」,「配送」の各処理でステータスの推移などの同期をとった。また地区と本部の作業分担を図書も雑誌も同じくし,一連のフロー図として描けるようにした。電子資源も,Verde(電子資源管理システム)からボタン一つでAlephに発注レコードを自動作成して,すべてAlephで支払処理を行うようにした。
 第二に,『ちょいす君』,『KOHEI』の項目を整理し,一本化したうえで,Alephの適切な項目に当てはめていく作業が必要であった。各々のシステムで使用している業者コード,予算コード等も異なっていたため,図書・雑誌共通の新コードを作成した。これは,予算管理表のリアルタイム化にも必要不可欠であった。特に,予算コードは地区によって体系も異なっていたため,地区でのメンテナンスを可能にするために,大学経理システムとの連携にも留意しつつ,全地区共通体系にした。これらは,年度ごとに集計する除籍報告や標準統計で,必要な集計ができるように考慮しながらの作業であり,移行に際して,大規模なコード変換仕様を作成することになった。
 第三に,雑誌はAlephへの搭載が決定した時点では全地区の業務が集中処理になっていなかった。まずは全地区の雑誌業務(特に受入業務の業務フロー)を揃えておくために,集中処理されていなかったメディアセンター,大学院図書室の雑誌受入業務を2009年度中に本部での集中処理に変更した。なお,発注業務についてはKOSMOS IIIでの業務イメージに合わせて,全てを本部集中処理に変更するのではなく,本部では発注レコード全体の確認と受入方法の調整をする程度にとどめた。

(3)発生作業の見直し
 KOSMOS IIでは,図書は本部で,全地区分の発注作業を処理対象地区に偏りを発生させないよう平均的に行っていたため,発注数の多い地区は発注入力待ち滞留分が発生することがあった。その場合,地区から状況が見えず,重複調査や予算管理に支障が出ることがあった。雑誌も本部で発注処理をしており,新規発注や発注情報の変更があった場合に連絡を受けてから発注データに反映させるまで地区で状況確認ができないという問題があった。また,予算執行の意思決定権は地区にあるにも関わらず,本部が書店窓口として間に入っていたため,キャンセル連絡や,古書手配の可否の判断等に,タイムラグが発生することもあった。そこで,発注や書店対応をことの発生源である地区に変更することにより,選書から発注に至る処理を地区で把握できるような業務の透明性や,発注レコードや購読管理レコードに自由に入力ができる等の柔軟性を確保することができた。このことにより,図書の返本率の減少,選書から発注までのスムーズな流れによる効率化を狙った。また,地区での図書発注作業の負荷を軽減するため,オンライン経由での書誌データ調達先を増やすことで書誌データの流用率を上げたり,書店に(無理のない範囲での)書誌データ提供を依頼し,それをAlephに取り込む仕組みや,取引の多い書店とのオンライン発注の仕組みを作ったり,多言語資料や寄贈資料の簡易的な発注処理の方法など,「効率化」のための様々な方策を整備した。

2 AlephをKOSMOS III化するための道のり
 発注・受入・支払は,日本の出版流通事情や,慶應独自の会計処理に左右され,業務慣習上海外パッケージシステムにそぐわない部分も少なくはなかった。パッケージの利点をできる限り追求する一方で,運用変更で対処できない部分は,外付けシステムを開発して補完することになった。

(1)発注と目録の書誌共有
 KOSMOS IIは,分散システムであったために,年鑑類の定期刊行物は同じタイトルであっても,地区での資料の扱い(書架上や貸出規則の図書扱いか雑誌扱いか)によって『ちょいす君』と『KOHEI』で発注書誌を別々に持ち,それぞれに受入処理をし,『CALIS』で目録と所蔵情報を調整して持つことができた。しかし,Alephは,書誌中心の統合システムのため,発注書誌と目録が同一レコードとなり,書誌単位も合わせる必要があった。また,図書の多巻ものは,書店流通の単位と,目録上の書誌単位が一致しない場合もあった。さらに,Alephの機能上,統合はできても後からレコード分割するのは発注・支払レコードの性質上困難という制約があったため,目録作業時の書誌単位の変更に対応できるように,分売不可やセットISBNのみのような多巻ものも各巻ごとに発注レコードを作成する必要が生じた。各書店に対しては,そのような単位で発注することによる支障(セット価格の不適用,重複納品)が起きないように説明と対応の依頼を行った。
 また,『ちょいす君』,『KOHEI』では,同じタイトルであっても地区ごとに発注書誌+発注レコードを作成していた。しかし,Alephでは,複数地区が同じタイトルを所蔵していても書誌は一つにする必要があった。そこで,書架上の“扱い”に関係なく,その資料が図書か雑誌かの判断は目録上の基準に照らして決定し,書誌作成を行うよう変更した。その方針に従って,KOSMOS IIで継続図書扱いだった資料を図書と雑誌に振り分ける作業を行い,KOSMOS IIIで目録上雑誌とならない資料については,発注依頼や受入管理をするために継続図書管理のための外付けシステムを用意することになった。

(2)支払締め作業
 慶應での支払作業は,支払件数・取引書店数・予算コード数の多さ,管財・経理システムとの連携の必要性,書店への請求書作成依頼という独特な作業など,Alephで想定されている支払作業ではカバーできない問題が多かった。Alephでの支払入力とは別に支払締め作業用の外付けシステムを作成し,両者の連携による支払フローを実現した。かなり大変な作業であったが,これを機に,書店への請求書作成依頼をFAXからメールに変更したり,支払明細を紙ではなく,PDFで保存したりといった改善も行った。受入担当で行っていた管財・経理とのやり取りを本部総務担当に移行して,窓口を一本化するなどの部内での業務整理も行い,結果として業務の大幅な効率化につながった。

(3)取引書店との調整
 発注・支払に係る業務フローの変更や,発注用書誌データの提供依頼,継続図書管理の整理等について,取引書店との調整や説明が必要であった。現在,150〜200の書店と経常的に取引を行っており,多数の書店との調整は,かなりの時間と労力が必要な作業であったが,書店からの協力もあって現在のところでは取引の上で大きな問題は起こっていない。改めて,書店とより良い関係を築いていくことの大切さを認識した作業となった。

(4)受入管理
 KOSMOS IIでは受入システムと目録所蔵情報のシステムが別だったことのメリットとして,ひとつのタイトルで複数の資料形態で刊行されるような資料(例えば,ルーズリーフの追録とバインダー,分冊と分冊製本,ポケットパーツとハードカバーというような資料)の受入管理,それとは別に利用者に提供する所蔵データの選択も可能だった。しかし,統合システムであるAlephではチェックインした受入データがそのまま利用者に見えることになる。このことは利用者にとっては無益と思われる受入管理情報も見えてしまうことになるので,このような情報を見せないようにするためにアイテムの“OPAC非表示”という状態コードを設けた。
 また,雑誌は製本処理を行うとチェックインデータが削除されてしまい,製本後にはデータ上で各号の受入日などを確認することができないというAleph独自の制約があった。このため,これまでのような詳細な管理をあきらめ,例えばデータと現物の状態が異なっている場合には現物に合わせてデータを修正する,書店から納品状況確認や支払について問い合わせを受けた場合には,その時の所蔵データや支払データを参照して回答することでよしとする。というように判断基準を記録データから現状データの参照に変更することにした。

(5)製本処理
 Alephでの製本処理についてはこれまでよりも作業が煩雑になる。例えば製本する対象のデータ編集にしても,始めと終わりの巻号年月次表示は,これまで始めも終わりも元の受入データから引用していたので,製本データは確認と少々の手直しだけでスムーズに処理ができていた。しかし,Alephでは受入データの一番目のデータしか引用されないため,必ず終わりの巻号年月次入力をしなければならない。このため,地区の担当者,製本業者と事前に処理手順の変更について調整を行う必要があった。また,製本発注リストについてもAleph既存の機能ではリストに出力される項目に不足が多い。そのため製本発注リスト作成の外付けシステム,さらには少しでも製本処理の負担を軽減するための製本から戻った資料の受入処理を行う外付けシステムを準備せざるを得なかった。なお,製本費の支払いについてはKOSMOS IIと変わらず図書館システムとは別の支払いと予算管理を継続することとなった。

3 今後の課題
 新システムが稼働して数ヶ月が経過した。図書の発注・受入作業の処理数,雑誌の受入も移行以前のペースを取り戻して概ね順調に進んでいる。一方で以下のような課題も残っている。

(1)図書・雑誌共通
 ・各種統計の集計対応(標準統計(蔵書数等)や除籍報告)
 ・年度末の繁忙期対応
 ・予算コード等の年度更新作業

(2)図書
 ・図書・雑誌および多巻ものの判断基準の整理
 ・発注票出力の不具合解消
 ・一括発注機能の安定運用
 ・書店への自動クレーム機能などのAleph既存機能の地区への活用推進

(3)雑誌
 ・受入タイトルの判定・同定のための補助的対応の検討(対象は特殊言語や特殊な刊行形態の資料)
 ・データ移行に伴って生じた巻号表示や擬似巻次(ソート用巻次),発行年月次のデータ不備に対する改修
 ・刊行規則設定と到着待ちアイテムの一括作成
 ・所蔵範囲の自動生成(刊行規則設定が必至)
 ・未着クレーム管理(刊行規則設定が必至)
 ・外国雑誌リニューアルシステム(外付けシステム)の実用化
 システムが一本化され,そして図書と雑誌の業務統合が行われ,本部内でも受入担当と目録担当が統合された状況下で,今後もますます各部署間の連携が重要になると思う。効率化を進めつつも,各地区・各部署が本来果たすべき業務の遂行と,新しい業務や課題への取り組みを忘れずにいたい。真の意味でAlephをKOSMOS IIIとして定着させていく道はこれからも続いていくであろう。

4 終わりに
 今回のプロジェクトに参加し,問題解決の上で一番重要なのは,“コミュニケーション”であることが改めて分かった。また,一人では何も成し遂げることはできず,周囲との“協力”や“連携”の大切さを痛感した。システム担当をはじめ,地区・本部の全てのスタッフの尽力により,無事にシステム移行,業務の再構築が実現できたことを心より感謝しつつも,今後,ますますの協力をお願いしたい。


1)地区:慶應義塾大学では6つのキャンパスに6つのメディアセンターと2つの学部・大学院図書室があり,それぞれ個別に図書予算を持ち,コレクション構築を行っている.これらのメディアセンターと図書室を“地区”と呼び,本部集中処理機構を“本部”と呼ぶ慣習がある.
2)ちょいす君:丸善(株)の図書発注・受入システムで,慶應では大幅にカスタマイズを行って使用していた.
3)KOHEI:雑誌の発注・支払・受入・製本管理と継続図書の到着管理用の慶應独自開発システムで,2000年頃からは電子資源の支払・契約管理にも使用していた.
4)CALIS:丸善(株)の図書館システムで,全面的に慶應用にカスタマイズして書誌・所蔵データベースと利用者データの管理,貸出・返却,塾内取寄せなどを行っていたKOSMOS IIの基幹システムである.
5)期ずれ:図書館では予算・会計処理が年度単位であるにもかかわらず,年度をまたいだ納品・受入・支払を行うこと(つまり,納品・受入年度と支払年度が異なってしまうこと)を指す.

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