1 はじめに
筆者は今回のシステム移行において検索サービスであるKOSMOSを担当した。現在も運用を担当し,移行当初からの課題に対応しているため,流動的な部分も多いが,移行とその後の課題について簡単に述べてみたい。
2 新システムで目指したもの
蔵書検索システム改善に関する議論は,システム選定に先立ち,2005年にOPAC改善委員会が立ち上がり,2006年策定の中期計画において「蔵書検索システムの一元化」が急務とされた。OPAC改善委員会では,1)特殊言語資料検索,2)特定資料群を対象とした検索,3)SDI機能,4)目次・要旨・書評情報表示およびコメント入力,5)内容からの検索・個別タイトル検索の5項目が,新システムでの要対応項目とされた。利用者の改善要望は,2008年のLibQUAL+®にみることができる。例えば,「ウェブ上からOPACで貸し出し延長や予約できるシステム」「文献のタイトルや著者だけでなく目次の内容等もOPACで検索できる」「論文・記事検索がOPACでもっと簡単にできる」といった要望が寄せられた。
3 検証・評価・移行
新システムの基幹パッケージとしてEx Libris社のAlephが採用されたのにあわせ,新たな検索システムに同社の次世代検索パッケージであるPrimoが採用された。2009年6月にソフトウェアインストール,9月に第1回目の全データ登録が行われ,Primo(以下,KOSMOS)が検証できる状態となったのは,サービス開始まであと半年を切った10月であった。KOSMOSでの検索サービス開始に向けての検証・評価は,各館のレファレンス担当者で構成される全塾レファレンス担当者会議を中心に行われた。当初からKOSMOSをメインの検索サービスとするという決定がなされていたわけでなく,AlephのOPAC機能(以下,Keio-OPAC)と比べて機能評価をした上でどちらをメインのサービスとするか決定するということでスタートした。Keio-OPACでは前OPACで採用していた形態素インデックスの実装が確約されていたが,KOSMOSは1-gramのインデックスのみ,インデックスを一覧するブラウズ機能をもたないなど,前OPACと比較して機能が劣る部分があった。サービスレベルを落とさずにシステム移行ができるか不安な部分があったが,Keio-OPACは紙資料の検索システムとして下位に位置づけ,紙資料と電子資料を統合的に検索するシステムとしてKOSMOSをメインにサービスすることが決定された。
海外の多くの大学図書館では,既存のOPACを継続して提供しながら,蔵書以外のリソースも含めた統合検索サービスとして,新たにサーチエンジンをベースとする検索サービスを提供するのが一般的である。利用者は新たな検索サービスの利用を強制されることなく自身の要求に応じてシステムを選択でき,図書館側も,オープンソースシステムでの試行評価や,ベンダー提供製品の十分な比較を行いながら,新たな検索サービスを立ち上げることができる。今回は,基幹システムの移行がメインであったため,既存のOPACサービス自体も新しいものに移行し,かつ新たな検索サービスも立ち上げるという,サービス提供側にとっても利用者側にとっても変化への対応が求められる形となった。
4 実現された新サービス
(1)My Library(予約・更新,タグ・レビュー)
実現されたサービスで最も重要かつ利用者の期待に応えたものは,認証サービス経由でKOSMOS上から直接資料の予約,返却期限の更新ができるようになったことである。加えて,利用者が所蔵資料に対し独自のキーワードやレビューを書き込めるようになり,サービスを身近に感じてもらうとともに,目録情報以外からの所蔵資料の発見が可能となった。
(2)検索サービスの統合
中期計画,OPAC改善委員会で課題とされた,旧分類和書,中国語,韓国語,ロシア語,アラビア語資料がひとつのシステムで検索できるようになった。
(3)検索結果からのリモートアクセス
前OPACでも電子資料のメタデータを登録し学内からは検索結果から直接利用が可能であったが,今回新たに,学外からのリモートアクセス経由でも検索結果から直接電子資料の利用が可能となった。
(4)その他
新たに2000年以降出版の和書の目次情報を提供し,検索結果に書影イメージ,外部サービス(Googleブックサーチ,Amazon等)へのリンクを設け,目録情報以外からも情報を得られるようになった。
5 課題
(1)安定運用
3月末のサービス開始以降,何度かシステム障害によりサービス提供できない事態に陥った。特に利用が集中する7月の学期末試験期間の1週間に頻繁に障害が発生した際には,復旧してもすぐに障害が再発する事態となり利用者に多大な迷惑をかけた。アクセス数も落ち着いた8月以降は幸いに同様の障害は起こっていないが,次に利用が集中する秋学期末に向けて高負荷に対するパフォーマンス評価や監視体制の強化を図る必要がある。
(2)検索結果ランキングのコントロール
検索結果上位10件に何が返ってくるかは,検索サービスの評価において返答スピードとともに最も重要なポイントである。KOSMOSでは検索語に対する関連度によるランキングで結果を返すが,同一のタイトルや書誌でも順位が大きく異なる,出版年の新しいものが上位に現れないなど,期待する結果が得られない場合があり,サービスに対する信頼を損ねている。ランキング仕様がベンダーから情報提供されていないため,試行錯誤による地道な調整作業が必要となる。
(3)目次検索と論文検索
目次情報は現在検索対象となっておらず,情報源として十分に活用・提供できていない。システム移行前からの課題であり,全文の利用が可能な日本語論文の検索と併せて早急に対応する。
6 海外システムと機能改善
システム移行前の検索サービスの問題は,慶應仕様にカスタマイズされたシステムの独自拡張に限界があり新たなサービスを展開できなかったことにある。今回のPrimo導入には,必要とする機能が世界的な標準をベースとしてはじめから標準装備されたパッケージシステムを選択することにより,その問題を解消する目的があったように思う。今後はシステム改善がベンダー依存となったことが課題となる。致命的なバグや,販売戦略上重要だと判断する機能は早急な改善が見込めるが,一方で,日本語の検索サービスにおいて重要な形態素インデックスへの対応が考慮されないなど,それ以外の改善は,世界各国にいるユーザー全体の改善要望の中で優先度と開発順位が決まる。ユーザー全体と自館の要望・優先度は必ずしも一致せず,改善まで相応の期間を要する。バージョンアップにより半自動的に大きな改善と新機能が得られる魅力は非常に大きいが,依存するだけでなく並行して新たなシステムを試みることも重要となる。
7 おわりに
今回のシステム移行で2000年代に目指した検索サービスの将来像がひとつの形になったといえるだろうか。今後は新たな変化への対応が求められる。目録情報への肉付けには限界があり,日本語の電子書籍の提供が進めば,章・節・センテンス単位で検索結果を返すシステムが求められる。また検索システム単独の議論ではなく,シラバスや授業に関わるシステムとの連携等,学習・教育シーンとより結びついたサービスの実現が求められる。今回,検索システムが基幹システムから分離されたことで,選択の自由を得たとも言える。この自由を最大限活用し,次に来る変化にも対応できるサービスを思い語るだけでなく,実現できる仕事に今後も携わることができれば幸いである。
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