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ナンバー17、2010年 目次へリンク 2010年11月30日発行
特集 KOSMOS III―新図書館システムの導入―:第3部
新システムへの閲覧サービス・閲覧業務の移行
関 秀行(せき ひでゆき)
メディアセンター本部課長
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1 はじめに
 慶應義塾大学メディアセンターでは,2010年3月23日から新システムKOSMOS IIIでの閲覧サービスを開始した。本稿では,主に閲覧サービス・閲覧業務(以下,総じて「閲覧」)の視点から,今回のシステムリプレースの概況および併せて実施した貸出規則の変更を中心に報告する。

2 システムリプレースの概況
 閲覧以外の業務は,滑り出しの段階で多少の問題が生じても改善をしながら立て直していくことが可能であるが,閲覧の場合には貸出,返却などの動きが利用者一人一人の利用に直結するために,切り替えたその瞬間からシステムの基本的な部分は完璧に動かなければならない。利用者にとっては,図書館がどういうシステムを使っているかに関わらず,これまで通り普通に手続きできるかが肝要である。そういう意味では,閲覧システムが稼働当日に想定通りに動くか否かが,今回のシステムリプレースの成否の鍵を握っていたと言っても過言ではない。
 KOSMOS IIIの核となるのはEx Libris社のパッケージシステム(以下,Aleph)である。Alephでできること,できないことを判別し,その見極めに沿って現在のサービス内容,業務フローをどう反映していくか,または見直すかを検討していった。多岐に渡る複雑なシステム構造の理解が必要とされる一方,限りある準備期間の中,しかもベンダーからの仕様開示,サポートが十分とは言えない状況の下での作業となり,稼動に向けた機能の優先順位付けが必要であった。このため,開始時点での目標を「日常の運用に必要な機能が致命的な支障なく稼動すること」に絞った。具体的には,貸出,返却,予約,更新などの基本機能において一日から一週間の単位で発生する動作の検証,およびMy Library機能やメール自動送信によるお知らせ機能などの今回のシステムリプレースの目玉となる新たなサービスの検証に重点を置いた。
 海外のパッケージシステムであるAlephは欧米の文化や習慣を前提に作られており,日本の図書館での適用において戸惑いを感じる局面が少なくない。端的な例として,金額の表示がある。延滞金額などの表示が(たとえば10円の場合)10.00という風に「小数点下2桁」の表示になってしまう。つまりドルに対するセントなどの補助単位の表示である(金額表示は現時点で変更不可能な仕様の一つである)。また,夏休みなど休業期間中に貸出期間が長くなる,日本の大学図書館では一般的な「長期貸出」に対応する機能がAlephには実装されていない。パッケージを導入するに当たって業務・サービスをシステムに合わせる,ということを念頭に臨んだものの,長期貸出は継続せざるを得ず,今夏の長期貸出は,開始時と終了時に貸出期間の設定値を書き換えることで対処した。このように,基本動作はAlephの動きに委ねながらも,人手での対処も介在させながら稼動に漕ぎ着けたというのが実際である。
 またAlephは前システムとはその使用感が全く異なる。前システムは業務フローに沿った作り込みがされており,画面に表示される項目に従って操作することができた。一方,AlephはWindowsベースのインターフェースを持ち,マウスの使用が必須である。貸出や返却などの窓口業務をミスなくかつスピーディにこなすという点については,前システムの方が優れているのが明らかであった。このような状況から,カウンターに立つすべてのスタッフが操作を一から理解,習得する必要があった。単に与えられるトレーニングメニューをこなすだけでなく,スタッフ一人一人が主体性を持ってシステム変更に適応していくことが求められた。スピードを犠牲にしてもミスのないように慎重な処理を優先することで,稼働後は大きな混乱なくカウンター対応ができている。

3 貸出規則の変更
 本学の図書館には中央館/分館の関係はなく,キャンパス毎にそれぞれ独立した図書館として成立して来た歴史があり,貸出規則は館によって異なる部分がある。「どこでも貸出・どこでも返却」によって,利用者がどの館の資料でも容易に利用できる仕組みを提供する一方で,規則の面では利用者がどの館の資料かを意識する必要があり,規則の平準化が課題となっていた。今回のリプレースに際して,貸出冊数や貸出期間の緩和を一部の館で行ったほか,更新規則の統一(注1)を実施することができた。利用規則の変更はシステムリプレースそのものとは別の話であるが,提供するサービス内容の変化に応じた規則の見直しはより大きな効果を生む。特に今回,My Library機能によってオンラインでの更新手続きが可能となった状況においては,更新規則の統一は利便性の向上に相乗効果をもたらしたと言える。
 一方で導入を企図したものの実現できなかった貸出規則もあった。貸出資料の延滞行為への対処として,「別の利用者の予約が入っている資料を延滞している利用者に対して新たな貸出を認めない」という規則を新規に設ける予定であったが,システムがこの規則に見合う想定した動きをしないことがわかったため,導入には至らなかった。
 貸出規則は,たとえば雑誌の貸出の可・不可が分かれるなど,主題による資料利用の特性の違いからキャンパス毎で異なる状況が生まれやすい。今回の規則見直しの検討を通じて,学内における規則平準化の難しさをあらためて実感したが,非来館利用の増加など利用形態の変化を見据えながら,今後も平準化の検討は継続すべきである。

4 今後に向けて
 システムを切り替えた時点で必要な機能が支障なく稼動する,という最大の目標は達成できた。しかしながら,優先度を下げて実装を後回しにした機能や,開始後に実運用してみて判明した改善点は少なくなく,稼動後もそれらの問題解決に日々追われているのが実状である。また時間が経つにつれて徐々に慣れてきているものの,スタッフが一日も早くAlephを使いこなせる次元に達することもサービス安定の重要な要素である。一年間を通した中で支障なく稼動するかどうか未知の部分もあり,真の安定運用に向けての道のりはまだまだ険しい。
 My Library機能は日本の図書館でもごく当たり前のサービスとなっており,今回本学でもようやく導入することができた。図書館に足を運ぶことなく,返却期限の更新,資料の予約ができるようになった点は大きなサービス向上となると同時に,カウンター手続きを含めた図書館側の負担軽減につながる。学内の認証システムを用いることでメディアセンターが認証IDの管理の手間を負うことなく実現できている(注2)点は大きなメリットであり,閲覧においてもMy Library機能を基盤とした非来館型サービスのさらなる充実が期待される。ILLの依頼などのオンライン手続きを,Alephとの連動によってより簡便化していくことが今後の当面のターゲットである。

5 終わりに
 図書館システムのリプレースは,どのようなシステム,どのような規模の図書館であっても一大事業である。Alephの国内初の導入館として,参考にできる先例もない中で今回のリプレースをなしえたその苦労は並大抵ではなかったと言ってよい。この場を借りてスタッフ各位の多大な尽力に敬意を表したい。そして,AlephをベースにしたKOSMOS IIIの導入が日本の図書館界にとって世界への風穴を開けるものとなったこと,そして今後その風穴が世界における日本の大学図書館のプレゼンス向上に寄与するものとなることを信じている。


1)更新規則は,協生館図書室を除く全館において統一規則となった.
2)学内の認証IDを取得できない利用者には,メディアセンターで独自にID・パスワードを発行している.

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