理工学メディアセンターでは,2010年度より,塾生による塾生のための相談窓口,S-Circle(エスサークル)の活動を開始した。この活動は,慶應義塾創立150年記念未来先導基金2010年度採択プログラム「学生スタッフによる図書館における新しいコミュニケーションの場の創生」として,未来先導基金の助成を受けて行っている。
矢上キャンパスには理工学部3年生以上の学生と大学院生が在籍している。近年,電子資源の充実などを背景に,学部4年生以上は主に研究室を学習や研究の拠点とする一方,3年生はまだ研究室に所属しておらず,授業の合間にメディアセンターを利用している姿がよく見られる。理工学メディアセンターは,矢上キャンパスの3年生にとって数少ない「居場所」となっている。S-Circleは,このような3年生はもちろん,4年生以上の学生にとっても,他学科の学生や留学生との交流の場となることを目的としている。
2010年1月から学生スタッフを募集したところ,当初の予想を超え,学部4年生から博士課程3年生まで,10学科22名の学生スタッフが集まった。3月中に3回のミーティングを行い,学生スタッフのリーダーとサブリーダー,ウェブサイト管理者を選出し,原則月1回の学生スタッフミーティングを行うことを決定した。
メディアセンター側は, 筆者を含め5名(現在は6名)の実務担当者を決め, 学生スタッフミーティングには担当者が出席しているが, 実態としてはほぼすべての職員が何らかの形でS-Circleに関わっている。
S-Circleの活動内容は,修士課程の学生を中心とした学生スタッフが,下級生の学習や学生生活上の相談にのる「相談業務」と,学生スタッフがメディアセンター内でイベント等を行う「企画業務」とがある。
「相談業務」では,平日10時から17時まで,メディアセンターの一角に相談コーナーを設け,毎時1〜2名の学生スタッフが待機して相談を受け付ける(2010年度秋学期以降は12時から17時の予定である)。2010年度春学期は,計104件の相談を受け付けた。相談内容は,授業内容や研究室の様子,大学院入試に関するものが多かったが, 人生について,恋愛について, あるいは単なる雑談, というものもあった。
このようにS-Circleでは相談内容に制限を設けていないため,深刻な悩み相談や,自分では手に余る相談があった場合,レファレンスカウンターに相談することはもちろん,学生相談室をはじめ学内のさまざまな窓口を紹介するよう指導している。相談開始に先立ち,日吉学生相談室のカウンセラーより,学生スタッフに対して相談を受ける際の心構え等を講義して頂いたが,今後もこのような取り組みを継続し,いざという時に他部署とうまく連携をとれるよう,工夫していきたい。
「企画業務」では,イベントをきっかけに学生同士の交流や,他学科の研究内容を知る機会が提供できればよいと考えている。2010年度春学期は下記のイベントを開催した。
・矢上周辺マップ(5月25日〜):矢上周辺地図を相談コーナー付近に設置し,来館者に矢上周辺のおすすめスポット等の情報を貼ってもらうことで,塾生のより充実した矢上ライフを目指す。
・企画展示「微積は誰がつくった?」(6月9日〜6月24日):微積を中国から移入した概念という視点でとらえなおしたもの。展示資料の一部は三田メディアセンター,日吉メディアセンターに貸出の便宜を図っていただいた。
・第一回サイエンスカフェ「ヒューマノイドロボットの電子制御」(6月30日):情報工学科山崎信行准教授をゲストにお迎えした。募集人数は20名であったが,立ち見の出る盛況であった。
・企画展示「講演“Gaming can make a better world”を調べてみた」(7月14日〜7月30日):代替現実ゲームデザイナーであるJane McGonigal氏の講演内容を中心に,ゲームに関するさまざまな側面からの調査を行った成果を展示した。
・創想ライブラリー図書選定:理工学関連以外の一般書を中心としたコレクションで,春学期は50冊を学生スタッフが選定し,図書とともに紹介文を書いたPOPを展示した。
春学期は,学生スタッフ同士も初対面であることが多い中で,ミーティングや企画を通してだんだん仲良くなり,ひとつの輪ができつつあることを実感した。S-Circleという名称は3月の学生ミーティングで決まったものだが,「理工学(Science & technology)の学生(Students)の輪(Circle)ができるように」という願いが込められている。今後は,この輪を矢上キャンパス全体に広げることができるかどうかが課題となるが,彼らの熱意や行動力は,遠からずそれは可能であると信じさせてくれる。
スタッフ側の課題ももちろんある。たとえば,学生スタッフの発想は斬新で,時に,何の迷いもなく,「それはダメ」と言ってしまいそうになるが,それでは新しいものは生まれない。当然さまざまな制約はあるが,学生スタッフは利用者の代表でもあるから,彼らの意見をよく聞き, メディアセンターに求められているものを敏感に感じ取ることが必要であろう。
最後に個人的な感想を述べる。筆者はプロジェクトを担当するまで,テクニカル担当だったこともあり,利用者と直接接する機会は基本的になかった。ただでさえ学生慣れしていない上に,彼らの勢いに圧倒され,ミーティング後は精気を吸い取られ放心状態となることもしばしばである。それでも,若い学生スタッフとの交流は刺激的であり,学生の普段の生活の様子や,生の声を聞けることはサービスの上でも役立っている。今後も,学生スタッフを見守るとともに,理工学メディアセンターが利用者に求められ続ける場所であるよう,邁進していきたい。
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